シェンゲン圏

シェンゲン圏とは

シェンゲン圏は、ヨーロッパにおいて国境検査なしで自由な移動が可能な地域です。1985年に制定されたシェンゲン協定に基づき、欧州連合（EU）加盟国の一部と、EUに加盟していない国を含めた29か国が参加しています。この圏内では、まるで一つの国のように、人々は国境を意識することなく自由に移動できます。

シェンゲン圏の基本情報

• - 参加国: EU加盟国25か国と[欧州自由貿易連合]4か国の合計29か国。
• - 総面積: 約4,595,131平方キロメートル。
• - 総人口: 約4億5332万人。

シェンゲン圏には、EUに加盟していないアイスランド、ノルウェー、スイスなどが含まれます。シェンゲン協定はEUの法体系に組み込まれており、アイルランドを除くすべてのEU加盟国が協定の実施を求められています。シェンゲン圏は、その広大な面積と人口規模において、ヨーロッパにおける重要な経済圏となっています。

シェンゲン協定の法的枠組み

シェンゲン協定は、1999年のアムステルダム条約によってEUの法体系に取り込まれました。これにより、協定の法的枠組みであるシェンゲン・アキ（Acquis de Schengen）が、EUの法的規範の一部となりました。EU加盟国は、アイルランドを除きシェンゲン協定を施行する義務があり、その結果、国境検査の撤廃と同時に、域外との国境管理が強化されています。

シェンゲン圏への加盟

シェンゲン圏への加盟には、厳格な審査があり、空域管制、査証、警察協力、個人情報保護など、様々な分野での準備状況が評価されます。書面審査だけでなく、EU担当官による現地調査も行われ、協定の円滑な運用が担保されます。シェンゲン圏は、段階的に拡大しており、2024年3月にはブルガリアとルーマニアが一部加盟を果たし、2025年1月には陸路での完全加盟が予定されています。

シェンゲン協定の歴史と拡大

1985年6月14日、ベネルクス、西ドイツ、フランスの5か国が第1次シェンゲン協定に署名し、1990年6月19日に第2次シェンゲン協定が署名されました。しかし、実際の施行は1995年3月26日でした。その後、ポルトガル、スペイン、イタリア、ギリシャ、オーストリア、北欧諸国などが次々と加盟しました。2000年代に入ると、東欧諸国やスイス、リヒテンシュタインも加わり、2023年にはクロアチアが、2024年にはブルガリアとルーマニアの一部がシェンゲン圏に加わりました。

シェンゲン圏とアイルランド・イギリス

アイルランドとイギリスは、シェンゲン協定に参加していません。イギリスはEUを離脱しましたが、両国は共通旅行区域を維持しています。これは、両国が島国であるため、大陸諸国に比べて入国管理がしやすいという事情があります。アイルランドはシェンゲン圏への参加に前向きな姿勢を見せていますが、共通旅行区域との兼ね合いから実現には至っていません。

シェンゲン圏外との国境管理

シェンゲン協定加盟国間での国境検査は撤廃されましたが、シェンゲン圏と非加盟国との境界では、厳格な検査が行われています。シェンゲン圏への入域には、有効な渡航文書、査証、十分な滞在費用、入域拒否の対象ではないことなどの条件を満たす必要があります。また、シェンゲン情報システム（SIS）で入域拒否の対象とされている人物は、入域を拒否されます。

シェンゲン査証

シェンゲン圏への短期滞在には、シェンゲン査証が必要です。査証には、空港トランジット用（タイプA）、短期滞在用（タイプC）、加盟国独自の査証（タイプD）などがあります。タイプC査証は、最初の入域日から半年間で90日以内の滞在が認められます。査証の申請には、渡航目的や滞在期間を示す書類、経済能力を示す証拠、旅行保険加入証明書などが求められます。

シェンゲン圏内の移動

シェンゲン圏内では、入域条件を満たしていれば、自由に移動することができます。居住許可証を持つ第三国の国民も、3か月間を上限として他のシェンゲン加盟国に滞在することが認められます。ただし、より長期の滞在には、滞在予定国の居住許可証が必要です。

ローカル国境交通

シェンゲン圏に隣接する非加盟国との間では、ローカル国境交通制度が認められています。この制度では、国境地帯に居住する人々は、特別な許可証を得ることで、シェンゲン圏に一定期間入域することができます。この制度は、国境地域の住民の生活を円滑にするためのものです。

警察協力

シェンゲン協定には、警察協力に関する規定も含まれています。加盟国は、犯罪捜査やテロ対策において、情報を共有し、相互に協力します。警察は、国境を越えた監視や緊急追跡を行うことができます。また、プリュム条約によって、DNA、指紋、自動車登録情報などのデータ交換も進められています。

司法協力

シェンゲン協定では、司法協力についても規定されています。加盟国は、刑事事件において相互に協力し、文書の送付や犯罪容疑者の引き渡しを行います。また、一事不再理の原則や、他国で言い渡された刑の執行についても規定されています。

その他の規定

シェンゲン協定は、規制薬物や武器の取引についても規定しています。加盟国は、薬物の違法取引を摘発し、武器の管理を徹底する義務を負います。また、宿泊施設は、外国人宿泊客に対して宿泊記録を求めることが義務付けられています。

税関検査

シェンゲン圏内での税関検査は、原則として行われません。しかし、欧州連合の付加価値税領域外や、特定の地域（例えばスヴァールバル諸島）との間では、税関検査が行われることがあります。ノルウェーやアイスランドのように、EUに加盟していない国との間では、物品の持ち込み制限が異なる場合があります。

統計

欧州連合の外部との境界には1792か所の国境検査所があり、年間で8億人以上の人々が国境を越えています。2006年には、最大800万人の不法入域者がシェンゲン圏に滞在していると推定されています。これらの統計は、シェンゲン圏が大規模な移動圏であり、多くの課題を抱えていることを示しています。

まとめ

シェンゲン圏は、ヨーロッパにおける自由な移動を可能にする重要な枠組みです。しかし、その一方で、国境管理や治安維持、不法入域などの課題も抱えています。今後もシェンゲン圏の拡大や制度の改革が求められています。

関連項目

• - シェンゲン情報システム（SIS）
• - 出入域システム（EES）
• - 欧州渡航情報認証制度（ETIAS）
• - シェンゲン
• - 西アフリカ諸国経済共同体

外部リンク

• - シェンゲン協定の関連協定・規定（シェンゲン協定も参照）
• - The Schengen acquis - Agreement between the Governments of the States of the Benelux Economic Union, the Federal Republic of Germany and the French Republic on the gradual abolition of checks at their common borders（第1次シェンゲン協定）
• - The Schengen acquis - Convention implementing the Schengen Agreement of 14 June 1985 between the Governments of the States of the Benelux Economic Union, the Federal Republic of Germany and the French Republic on the gradual abolition of checks at their common borders（第2次シェンゲン協定）
• - Regulation (EC) No 562/2006 of the European Parliament and of the Council of 15 March 2006 establishing a Community Code on the rules governing the movement of persons across borders (Schengen Borders Code)（シェンゲン協定加盟国出入国規定）
• - The Schengen area and cooperation（英語） - EUROPA

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