シオドア・スタージョン

シオドア・スタージョン（Theodore Sturgeon, 1918年2月26日 - 1985年5月8日）は、アメリカを代表するSF作家の一人です。本名のスタージョンという姓はチョウザメを意味しますが、これは後年、母の再婚に伴い改姓したもので、ペンネームではありませんでした。

異色のキャリアと作家への道

ニューヨーク州スタテンアイランドにエドワード・ハミルトン・ウォルドーとして生まれた彼は、ペンキ業者の父と教師の母のもとで育ちました。両親の離婚後、母の再婚によりシオドア・ハミルトン・スタージョンと改名します。幼い頃はサーカスの空中ブランコ乗りに憧れていましたが、リューマチ熱の後遺症による心臓肥大のためその夢を断念せざるを得ませんでした。船員として世界を巡った後、作家活動を開始。1938年にSF以外の作品でデビューし、翌1939年には『アスタウンディング』誌にSF短編「Ether Breather」が掲載され、SF作家としてのキャリアを本格的にスタートさせました。初期にはSF専門誌に加え、一般大衆誌にも作品を発表しており、時には複数のペンネームを用いることもありました。

広範な活動と後世への影響

スタージョンは小説だけでなく、テレビドラマの脚本も手掛けています。特に有名なのは『宇宙大作戦』（スタートレック）のエピソード「おかしなおかしな遊園惑星」と「バルカン星人の秘密」です。「バルカン星人の秘密」では、バルカン人の発情期にあたる「ポンファー」や、象徴的な挨拶「長寿と繁栄を」、そしてそれに伴う手のしぐさ（バルカン・サリュート）が初めて描かれ、シリーズに深く影響を与えました。彼の作品はメディア化もされており、1944年の中編「殺人ブルドーザー」はテレビ映画化や漫画化され、そのタイトルがロックバンド名になるほど波及しました。また、1980年代の『トワイライトゾーン』でも彼の短編が採用されるなど、多岐にわたる分野でその才能を発揮しました。

独特の作風と評価

スタージョンの作品は、孤独や愛といった普遍的なテーマを扱う一方で、きわめて奇妙な発想や人間の深層心理、時には病的な精神を描き出すことに長けています。これらの要素が融合した作風は「魔術的」「キャビアの味」と評され、彼の短篇集の一つには実際に『Caviar』と名付けられたものがあります。また、『ヴィーナス・プラスX』はジェンダーSFの先駆的作品として高く評価されています。評論家からはハーラン・エリスンやサミュエル・R・ディレイニーといった後進の作家に強い影響を与えたと評される一方、SF関連の賞が十分に整備される前に絶頂期を迎えたこともあり、存命中の一般人気や受賞歴は必ずしも高くありませんでした。しかし、レイ・ブラッドベリが影響を受けた作家として名を挙げたり、カート・ヴォネガットの創造したキャラクター、キルゴア・トラウトのモデルになったと言われるなど、作家間での評価は非常に高かったことが伺えます。

代筆活動と「スタージョンの法則」

スタージョンは、ミステリー界の巨匠エラリー・クイーン名義の長編『盤面の敵』（1963年）をゴーストライターとして執筆した経験もあります。この作品はクイーン作品としても非常に高く評価され、多くのミステリー愛好家や評論家から絶賛されました。しかし、彼の作風に詳しい評論家からは、もし最初からスタージョン名義で出版されていれば、早い段階で結末が見えてしまったかもしれないという意見も出されており、また彼の短編「隔離」に通じるモチーフが見られるとの指摘もあり、単なる代作にとどまらないスタージョンらしさがあることが論じられています。

スタージョンは「SFの90%はクズである。ただし、あらゆるものの90%はクズである」という辛辣かつ的確な言葉を残しており、これは「スタージョンの法則」として今日でも広く引用されています。

死後の再評価と日本での受容

1985年に肺繊維症によりオレゴン州ユージーンで亡くなった後、スタージョンの作品は再評価が進みました。特にポール・ウィリアムズ編集による全短篇集の刊行は、その功績を改めて世に知らしめるものとなりました。

日本にはSF紹介の初期にレイ・ブラッドベリと共に「文学派（F派）」の代表格として紹介され、一時は人気を博しました。しかし、その後作品が入手困難になり、ブラッドベリほど分かりやすい作風ではなかったこともあり、長らく一部のマニアックな作家という位置づけでした。しかし、2000年代に入り、大森望や若島正といった編者による日本オリジナルの短編集が相次いで刊行されたことで、その時代を超えた魅力が再び注目され、スタージョン・ブームが再燃しました。これにより、『ヴィーナス・プラスX』や『一角獣・多角獣』の復刊、新たな短編集の刊行が続き、多くの読者にその独創的な世界が届けられるようになりました。

エピソードと私生活

女性SF作家の台頭期に、ジェイムズ・ティプトリー・Jr.（当時は男性と思われていた）を除けば有望な新人は女性ばかりだと語った有名なエピソードがあります。また、SF作家L・ロン・ハバード（後にサイエントロジー教会の創始者）が「金が欲しけりゃ宗教を始めなきゃだめだ！」と激高していたという話も語り草になっています。音楽を好み、自作の曲をSF大会で披露することもあったそうです。

私生活では3度の結婚と2度の長期的な婚外関係があり、7人の子供の父でした。パイプ愛好者としても知られていましたが、死因となった肺繊維症は船員時代の石綿吸入が原因と見られています。

主な受賞歴

1954年: 『人間以上』で国際幻想文学大賞
1971年: 「時間のかかる彫刻」でヒューゴー賞 短篇部門

彼の功績を記念し、1987年には最も優れたSF短編に贈られるシオドア・スタージョン記念賞が設立されています。

主要な長編には『夢みる宝石』『人間以上』『ヴィーナス・プラスX』など、短編・短編集には『一角獣・多角獣』『時間のかかる彫刻』『不思議のひと触れ』（日本オリジナル）など多数の傑作があり、短編の名手としても高く評価されています。

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