シグナス CRS OA-4

シグナス CRS OA-4

ミッション概要

シグナス CRS OA-4は、アメリカの宇宙企業オービタル・サイエンシズ社（現ノースロップ・グラマン）が、NASA（アメリカ航空宇宙局）との商業補給サービス（CRS）契約に基づき実施した、国際宇宙ステーション（ISS）への無人補給ミッションです。「Orbital Sciences CRS Flight 4」とも呼ばれます。これはシグナス宇宙船としては4番目の機体であり、ISSに物資を届けた3番目のシグナス機となりました。

開発背景と機体変更

前回の「シグナス CRS Orb-3」ミッションでは、使用されたアンタレスロケットが打ち上げ時に故障・失敗しました。これを受け、アンタレスロケットは再設計が必要となり、次のミッションであるOA-4では代替としてユナイテッド・ローンチ・アライアンス（ULA）社製のアトラスVロケットが採用されることになりました。これに伴い、打ち上げ場所も、アンタレスを使用するバージニア州のワロップス飛行施設から、アトラスVの射場であるフロリダ州のケープカナベラル空軍基地へと変更されました。

このOA-4ミッションで使用されたシグナス宇宙船は、「拡張型（Enhanced）」と呼ばれる改良型の初飛行でもありました。ペイロード能力が向上し、より多くの物資をISSへ輸送することが可能となりました。

命名

オービタル・サイエンシズ社の慣例に倣い、この宇宙船は「Deke Slayton II」と名付けられました。これは、1993年に亡くなった、アメリカ初の宇宙飛行士グループ「マーキュリー・セブン」の一人であるドナルド・"ディーケ"・スレイトン宇宙飛行士に敬意を表したもので、残念ながら失敗に終わった前号機Orb-3から引き継がれた名称です。

打ち上げ

打ち上げは、当初2015年12月3日に予定されていましたが、悪天候の影響により3度にわたって延期されました。最終的に、2015年12月6日21時44分（UTC）に、ケープカナベラル空軍基地第41発射施設からアトラスVロケット（コンフィギュレーション401）により打ち上げられました。打ち上げ時の総重量は7,492キログラムに達し、これは当時、アトラスVロケットによって打ち上げられたペイロードとしては最も重い記録となりました。

ミッション遂行

無事軌道に乗ったシグナスOA-4は、2015年12月9日にISSとランデブーし、把持・結合されました。その後、約2ヶ月半にわたりISSに係留され、搭載していた補給物資や実験機器などがISSクルーによって運び出されました。ミッションを終えたシグナスは、不要になった物品やゴミなどを搭載し、2016年2月19日にISSから分離されました。そして翌日、2016年2月20日16時頃（UTC）に軌道を離脱し、大気圏に再突入して燃え尽きました。

輸送された貨物

シグナスOA-4は、総重量3,513キログラム（梱包材等を含む）の貨物をISSへ輸送しました。これはシグナス拡張型のペイロード能力を活かした積載量であり、そのうち純粋な貨物積載量は3,349キログラムでした。輸送された貨物は多岐にわたり、ISSの運用、クルーの生活、そして様々な科学研究を支えるための重要な物資が含まれていました。主な貨物内容は以下の通りです。

補給品（1,181 kg）:
クルーの快適な生活を支えるための物品（書籍、CD、嗜好品など）
ISSでの作業に必要な飛行手順書
クルーの食料

機体装置類（1,010 kg）:
クルーの健康管理システムに関連する機器
ISS内の環境を維持するための環境制御・生命維持装置
電力システムの部品
船外活動で使用されるロボットアームに関連する装備品
フライトクルーが使用する各種装備品
ISSの施設・設備（日本の実験棟「きぼう」のシステム部品などを含む）に関連する部品
構造および機械設備
ISS内部の温度を管理する熱制御システムの部品

科学研究用機材（847 kg）:
細胞や細菌などの微生物を培養・研究するための生命科学実験設備「スペース・オートメーテッド・バイオ・ラボ（SABL）」
小型衛星をISSから放出するための装置（小型衛星投入装置）および小型衛星自体
NASAのローン・スター（LONESTAR）実験装置（テキサスの大学が開発した小型衛星AggieSat4およびBevo-2を含む）
AggieSat4: テキサスA&M大学工学科の学生による小型衛星。超小型衛星Bevo-2を内蔵。
Bevo-2: テキサス大学オースティン校工学科およびコンピュータ科学科の学生による超小型衛星。
宇宙環境下での気体や液体の挙動を調べる実験装置
高温の溶鋼の熱物性を研究する実験装置
宇宙船内での安全性を高めるための耐炎性繊維の性能を評価する装置
日本の宇宙航空研究開発機構（JAXA）に関連する科学研究用機材
静電浮遊炉（ELF）の一部（高温材料の物性測定装置）
中型曝露実験プラットフォーム（i-SEEP）に関連する機材（宇宙空間での物質曝露実験装置）
微生物の動態に関する研究（Microbe-IV）の実験用品
マランゴニ対流に関する実験の実験用品

コンピューター関連（87 kg）:
ISSのコマンド・データ操作に使用される装置
ISS内での写真撮影や映像記録に使用される装置

宇宙遊泳用機材（230 kg）:
宇宙飛行士が万が一の際に使用する新型の自己救助用推進装置（SAFER）
船外活動ユニット（宇宙服）の各種パーツ（脚部、手袋など）や、安全を確保するための安全索、バッテリーなど
エアロックの冷却系統に関連する部材

意義

シグナス CRS OA-4ミッションは、前回の打ち上げ失敗からの復旧を示すと共に、アトラスVロケットを用いた代替打ち上げ、そしてシグナス拡張型の導入という重要な節目となりました。これにより、より多くの物資をISSへ安定して輸送する能力が実証され、ISSの継続的な運用と、多様な科学研究の実施に大きく貢献しました。このミッションは、NASAと民間企業のパートナーシップによる宇宙輸送の進展を示す一例と言えます。

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