シグナス CRS OA-5

シグナス CRS OA-5ミッションは、アメリカ航空宇宙局（NASA）とオービタルATK社（現ノースロップ・グラマン）が締結した商業補給サービス契約のもと、国際宇宙ステーション（ISS）へ補給物資を輸送するために実行された無人宇宙船シグナスの軌道投入フライトです。シグナス補給機としては全体で7回目の飛行にあたり、ISSへの物資輸送としては6回目のミッションとなりました。この商業補給サービス計画において、オービタル社は中型ロケット「アンタレス」と補給用宇宙機「シグナス」の開発および製造を担当しています。シグナスの重要な構成要素である与圧貨物モジュールは、イタリアのタレス・アレーニア・スペース社が供給しています。このミッションで使用されたシグナス補給船は、かつてスペースシャトルの船長を務めた故アラン・G・ポインデクスター宇宙飛行士に敬意を表し、「S.S. Alan Poindexter」と名づけられました。

歴史的背景

オービタル社は、商業軌道輸送サービス計画におけるシグナスの実証飛行を2013年9月に成功させました。これを受け、NASAとの商業補給サービス契約に基づき、2014年中に2回のISS補給ミッションを担うことになりました。しかし、2014年10月に実施された3回目の打ち上げミッション「シグナス CRS Orb-3」は、運用に使用されたアンタレスロケットが離床直後に爆発するという痛ましい結果に終わりました。この失敗を受け、オービタル社は当時使用していたAJ-26エンジンを搭載するアンタレス100シリーズの運用停止を決定し、代替となる新たな推進システムの導入を急ぐ必要に迫られました。信頼性の向上とペイロード輸送能力の増強を目指し、アンタレスロケットの第1段エンジンはロシア製の新規製造エンジンであるRD-181を搭載する仕様へと大規模なアップデートが行われました。これがアンタレス230シリーズです。

Orb-3の失敗後、オービタル社はISSへの補給ミッション遂行のため、一時的に代替ロケットの使用を余儀なくされました。2014年末には、ユナイテッド・ローンチ・アライアンス社のアトラスVロケットを用いて、2015年末に「シグナス CRS OA-4」、そして2016年にもう1機を打ち上げる契約をNASAと締結しました。2016年のオービタル社の計画では、第1四半期に「シグナス CRS OA-6」（アトラスV使用）、第3四半期に「シグナス CRS OA-5」（アンタレス230使用）、第4四半期に「シグナス CRS OA-7」（アンタレス230使用）の計3回の打ち上げが予定されており、これらのミッションをもって最初の商業補給サービス契約を完了する見込みでした。OA-5は、改良されたアンタレス230ロケットにとって最初の実運用ミッションでした。

シグナス補給船の製造と組立は、オービタル社のバージニア州ダレス施設で行われました。打ち上げ射場では、シグナスのサービスモジュールと与圧貨物モジュールが結合されました。ミッションの運用は、ダレスとテキサス州ヒューストンにある管制センターから実施されました。

ミッション遂行

シグナス CRS OA-5ミッションは、商業補給サービス契約に基づく10回の予定フライトのうち6回目にあたる打ち上げでした。また、ISSへの輸送能力を高めた「拡張型シグナス」としては3回目の飛行です。打ち上げは2016年10月17日協定世界時（UTC）23時45分に行われました（米国東部時間では同日19時45分）。このミッションに用いられたシグナス補給船は、オービタル社の慣例に従い、NASAの宇宙飛行士から名前が付けられ、過去に2度スペースシャトルに搭乗したアラン・G・ポインデクスター氏にちなんで「S.S. Alan Poindexter」と命名されました。

主な輸送物資

シグナス CRS OA-5ミッションでISSに運ばれた物資の主な内訳は以下の通りです。

総ペイロード重量: 4,900 kg
科学研究用機材: 498.0 kg
クルー向け補給品: 585.0 kg
ISS関連資材: 1,023.0 kg
宇宙遊泳用機材: 5.0 kg
コンピュータ関連機器: 56.0 kg
ロシア製資機材: 42.0 kg
梱包材等を含んだ合計重量: 2,342.0 kg
（非与圧貨物）CubeSat: 83 kg
廃棄物（大気圏突入で処分）: 1,690 kg

これらの物資は、ISSに滞在する宇宙飛行士の生活支援、科学実験、および宇宙ステーションの維持・運用に不可欠なものでした。

ミッション後段とCubeSat放出

ISSでの補給任務を終えたシグナス補給船は、2016年11月25日にISSから分離されました。分離後、補給船は軌道を上昇させ、高度約500kmに到達しました。この軌道上で、Spire Global社の開発したCubeSatである「Lemur-2」衛星群がシグナスから放出されました。これは、ISSから直接放出するよりも高い軌道から放出することで、衛星の軌道寿命を延ばすことを目的としたものでした。

今後の計画への影響

シグナス CRS OA-7ミッションは、当初2016年12月30日にアンタレスロケットで打ち上げられる予定でした。しかし、2016年10月になってNASAから追加のペイロード搭載要望があったため、より輸送能力の高いアトラスVロケットに変更され、打ち上げ時期も2017年3月に延期されることが発表されました。

また、オービタル・サイエンシズは2015年に締結されたNASAのCRS-1契約において、2017年から2018年にかけて3回の追加補給ミッション（シグナス CRS OA-8E、OA-9E、OA-10E）を獲得しました。これらの追加ミッションはそれぞれ2017年6月12日（OA-8E）、同年中にOA-9E、2018年にOA-10Eの打ち上げが予定されていましたが、ISS参加国の要望による優先順位の変更や、スペースX社およびボーイング社による初の商業有人宇宙飛行計画の進捗状況など、様々な要因によって補給機の打ち上げスケジュールは変動する可能性があることが示唆されました。

シグナス CRS OA-5ミッションは、アンタレスロケットの改良成功を示す重要な一歩であり、その後のISS補給ミッションの継続に貢献しました。

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