シボレー・LUV
シボレー・LUV（シボレー・ラヴ）は、1972年3月にアメリカ合衆国で販売が開始された小型ピックアップトラックです。この車両は、日本のいすゞ自動車が製造したいすゞ・KB（日本名ファスター）をベースとした、いわゆるリバッジモデルであり、「LUV」という名称は「Light Utility Vehicle」の頭文字に由来します。
当時の北米市場では、トヨタ・ハイラックスやダットサントラック、マツダ・Bシリーズといった日本の小型ピックアップトラックが大きなシェアを占めていました。シボレーLUVは、これら強力な競合車種に対抗するための戦略的なモデルとして投入されました。その誕生は、前年から始まっていたゼネラルモーターズ（GM）といすゞ自動車との資本提携による最初の具体的な成果の一つでもあります。
北米での販売は1982年をもって終了し、その後はGMが独自に開発した米国製小型トラック、シボレー・S-10にその役割を引き継ぎました。
シボレーLUVの導入には、当時のアメリカがトラックに課していた25%という高関税（「鶏肉税」として知られる）を回避するための工夫がありました。LUV（フォード・クーリエなども同様の手法を採用）は、トラックとしての完成車ではなく、荷台を取り外した「キャブ・シャーシ」の状態として輸入されました。この状態であれば関税率はわずか4%に抑えられたため、米国国内で改めて荷台を取り付けてピックアップトラックとして完成させ、販売するという方式が取られました。
車両構造としては、伝統的なラダーフレームシャシが採用され、後輪はリーフスプリングとリジッドアクスル、前輪にはトーションバースプリングとAアームを組み合わせたダブルウィッシュボーン式の独立懸架が装備されていました。ボディサイズは、102.4インチ（約2,600mm）のホイールベースと6フィート（約1,800mm）の荷台長を備え、当時の競合モデルとほぼ同等のサイズでした。
初期に搭載されたエンジンは、いすゞ製の1.8L直列4気筒SOHC「G180Z型」のみで、最高出力は75hp（約56kW）でした。外観は、いすゞ・フローリアンの車体前半分を流用したボンネットとキャブを持っていました。
モデルの進化は段階的に行われました。1974年にはわずかな変更が見られましたが、本格的な改良は1976年に行われ、この年からはオプションとして3速オートマチックトランスミッションが選択可能になり、前輪にはディスクブレーキが採用されました。1977年モデルではエンジン出力が80hp（約60kW）に向上し、販売台数も着実に増加しました。外装デザインも刷新され、オプションで117.9インチ（約3,000mm）のロングホイールベースに7.5フィート（約2,300mm）の長い荷台を組み合わせたモデルが追加されました。これにより販売はさらに伸び、1978年には71,145台を記録しました。
1979年には、オフロード走行を可能にする四輪駆動モデルが登場し、このモデルはモータートレンド誌の「トラック・オブ・ザ・イヤー」を受賞する快挙を成し遂げました。この年は販売台数も過去最高の100,192台を達成しました。
1981年モデルでデザインが大きく変更され、ホイールベースも1.9インチ延長されて104.3インチ（約2,650mm）となりました。ガソリンエンジンは引き続き同型が使われましたが、いすゞ製の2.2Lディーゼルエンジン「C223型」（最高出力58hp/4,300rpm、最大トルク126.1Nm/2,200rpm）が新たに追加されました。このディーゼルエンジンを搭載した2WDモデルは、市街地燃費で33mpg-US（約7.1L/100km）、高速道路燃費で44mpg-US（約5.3L/100km）という優れた燃料消費率を実現し、当時のトラックとしては非常に燃費の良いモデルの一つとなりました。このディーゼルエンジンは信頼性の高さでも知られ、適切なメンテナンスを行えば80万km以上の走行が可能だった個体も多く存在しました。
前述の通り、シボレーは1982年モデル以降、米国市場におけるLUVの販売を自社開発のS-10に集約するために停止しました。しかし、いすゞ自身は同年から「いすゞ・パップ（Isuzu Pup）」という名称で北米での小型ピックアップトラック販売を継続しました。
シボレーLUVという名称は、北米での販売終了後も、特に南米市場において長期間使用され続けました。チリでは、日本のいすゞ工場からコンプリート・ノックダウン（CKD）部品を輸入し、アリカにあるシボレーの工場で組み立てが行われました。当初はK-26およびK-28モデルが生産され、1988年からは40%もの部品を現地調達化したTF型へと移行しました。チリで組み立てられたLUVは、ボリビア、ペルー、アルゼンチン、メキシコ、ウルグアイ、パラグアイ、コロンビアといった近隣諸国への輸出も成功させ、最終的にチリ工場では累計22万台が生産されました。このチリでの生産は、後継モデルであるシボレーLUV D-Max（いすゞD-MAXのリバッジ）に切り替わる2005年10月まで続けられました。
また、1980年代後半からは、コロンビアのコルモトーレス社やエクアドルのオムニバスBB社（現在のゼネラル・モータース エクアドル）でも組み立てが行われました。これはアンデス諸国における小型ピックアップトラック導入の先駆けとなり、当初は1トン積みの仕様で、1600ccの4気筒エンジン（80hp）を搭載していました。現在もエクアドルではいすゞD-MAXがシボレーブランドで生産され、コロンビアやベネズエラへ輸出されています。
タイのThai Rung Union Car社との協力もあり、1999年にはチリのアリカ工場でワゴンタイプのシボレーLUV ワゴンやグランドLUVの生産が試みられました。これはThai Rungのグランド・アドヴェンチャーのボディ部品を使用しましたが、商業的には成功しなかったようです。
シボレーLUVは、初期モデルでは出力不足が指摘されることもありましたが、駆動系に関しては非常に信頼性が高く、耐久性に優れていました。その一方で、深刻な問題として挙げられるのが「錆」です。特に南米から米国へ海上輸送された車両の中には、到着時にフレームに海水による腐食が見られる個体も多数存在しました。エンジンの状態が良好で長距離を走行した車両を見つけることは難しくありませんが、フレームの錆が進行して途中で折れてしまうケースもあったほどです。
今日では、一部地域においていすゞD-MAXが非公式にシボレーLUVとして販売されている事例があり、また、イラク政府が警察車両などとしてLUVの名称でD-MAXベースの車両を調達しているといった例も見られます。
関連する車両として、ベースとなったいすゞKB（ファスター）、北米での後継車であるシボレーS-10（およびそのいすゞ版であるオンブレ）などが挙げられます。
当時の北米市場では、トヨタ・ハイラックスやダットサントラック、マツダ・Bシリーズといった日本の小型ピックアップトラックが大きなシェアを占めていました。シボレーLUVは、これら強力な競合車種に対抗するための戦略的なモデルとして投入されました。その誕生は、前年から始まっていたゼネラルモーターズ（GM）といすゞ自動車との資本提携による最初の具体的な成果の一つでもあります。
北米での販売は1982年をもって終了し、その後はGMが独自に開発した米国製小型トラック、シボレー・S-10にその役割を引き継ぎました。
歴史と特徴
シボレーLUVの導入には、当時のアメリカがトラックに課していた25%という高関税（「鶏肉税」として知られる）を回避するための工夫がありました。LUV（フォード・クーリエなども同様の手法を採用）は、トラックとしての完成車ではなく、荷台を取り外した「キャブ・シャーシ」の状態として輸入されました。この状態であれば関税率はわずか4%に抑えられたため、米国国内で改めて荷台を取り付けてピックアップトラックとして完成させ、販売するという方式が取られました。
車両構造としては、伝統的なラダーフレームシャシが採用され、後輪はリーフスプリングとリジッドアクスル、前輪にはトーションバースプリングとAアームを組み合わせたダブルウィッシュボーン式の独立懸架が装備されていました。ボディサイズは、102.4インチ（約2,600mm）のホイールベースと6フィート（約1,800mm）の荷台長を備え、当時の競合モデルとほぼ同等のサイズでした。
初期に搭載されたエンジンは、いすゞ製の1.8L直列4気筒SOHC「G180Z型」のみで、最高出力は75hp（約56kW）でした。外観は、いすゞ・フローリアンの車体前半分を流用したボンネットとキャブを持っていました。
モデルの進化は段階的に行われました。1974年にはわずかな変更が見られましたが、本格的な改良は1976年に行われ、この年からはオプションとして3速オートマチックトランスミッションが選択可能になり、前輪にはディスクブレーキが採用されました。1977年モデルではエンジン出力が80hp（約60kW）に向上し、販売台数も着実に増加しました。外装デザインも刷新され、オプションで117.9インチ（約3,000mm）のロングホイールベースに7.5フィート（約2,300mm）の長い荷台を組み合わせたモデルが追加されました。これにより販売はさらに伸び、1978年には71,145台を記録しました。
1979年には、オフロード走行を可能にする四輪駆動モデルが登場し、このモデルはモータートレンド誌の「トラック・オブ・ザ・イヤー」を受賞する快挙を成し遂げました。この年は販売台数も過去最高の100,192台を達成しました。
1981年モデルでデザインが大きく変更され、ホイールベースも1.9インチ延長されて104.3インチ（約2,650mm）となりました。ガソリンエンジンは引き続き同型が使われましたが、いすゞ製の2.2Lディーゼルエンジン「C223型」（最高出力58hp/4,300rpm、最大トルク126.1Nm/2,200rpm）が新たに追加されました。このディーゼルエンジンを搭載した2WDモデルは、市街地燃費で33mpg-US（約7.1L/100km）、高速道路燃費で44mpg-US（約5.3L/100km）という優れた燃料消費率を実現し、当時のトラックとしては非常に燃費の良いモデルの一つとなりました。このディーゼルエンジンは信頼性の高さでも知られ、適切なメンテナンスを行えば80万km以上の走行が可能だった個体も多く存在しました。
前述の通り、シボレーは1982年モデル以降、米国市場におけるLUVの販売を自社開発のS-10に集約するために停止しました。しかし、いすゞ自身は同年から「いすゞ・パップ（Isuzu Pup）」という名称で北米での小型ピックアップトラック販売を継続しました。
南米での展開と現状
シボレーLUVという名称は、北米での販売終了後も、特に南米市場において長期間使用され続けました。チリでは、日本のいすゞ工場からコンプリート・ノックダウン（CKD）部品を輸入し、アリカにあるシボレーの工場で組み立てが行われました。当初はK-26およびK-28モデルが生産され、1988年からは40%もの部品を現地調達化したTF型へと移行しました。チリで組み立てられたLUVは、ボリビア、ペルー、アルゼンチン、メキシコ、ウルグアイ、パラグアイ、コロンビアといった近隣諸国への輸出も成功させ、最終的にチリ工場では累計22万台が生産されました。このチリでの生産は、後継モデルであるシボレーLUV D-Max（いすゞD-MAXのリバッジ）に切り替わる2005年10月まで続けられました。
また、1980年代後半からは、コロンビアのコルモトーレス社やエクアドルのオムニバスBB社（現在のゼネラル・モータース エクアドル）でも組み立てが行われました。これはアンデス諸国における小型ピックアップトラック導入の先駆けとなり、当初は1トン積みの仕様で、1600ccの4気筒エンジン（80hp）を搭載していました。現在もエクアドルではいすゞD-MAXがシボレーブランドで生産され、コロンビアやベネズエラへ輸出されています。
タイのThai Rung Union Car社との協力もあり、1999年にはチリのアリカ工場でワゴンタイプのシボレーLUV ワゴンやグランドLUVの生産が試みられました。これはThai Rungのグランド・アドヴェンチャーのボディ部品を使用しましたが、商業的には成功しなかったようです。
評価と問題点
シボレーLUVは、初期モデルでは出力不足が指摘されることもありましたが、駆動系に関しては非常に信頼性が高く、耐久性に優れていました。その一方で、深刻な問題として挙げられるのが「錆」です。特に南米から米国へ海上輸送された車両の中には、到着時にフレームに海水による腐食が見られる個体も多数存在しました。エンジンの状態が良好で長距離を走行した車両を見つけることは難しくありませんが、フレームの錆が進行して途中で折れてしまうケースもあったほどです。
今日では、一部地域においていすゞD-MAXが非公式にシボレーLUVとして販売されている事例があり、また、イラク政府が警察車両などとしてLUVの名称でD-MAXベースの車両を調達しているといった例も見られます。
関連する車両として、ベースとなったいすゞKB（ファスター）、北米での後継車であるシボレーS-10（およびそのいすゞ版であるオンブレ）などが挙げられます。
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