シャン州軍

シャン州軍（SSA）

シャン州軍（Shan State Army, SSA）は、ミャンマー連邦共和国の東部に位置するシャン州でかつて活動した少数民族武装組織です。1964年に二つの主要な武装勢力が統合して結成され、シャン州の自治権確立を最大の目的として、ミャンマー国軍などを相手に武装闘争を展開しました。その活動は、ビルマ共産党（CPB）やタイ・ビルマ国境に展開した中国国民党軍の残党（泰緬孤軍）、さらには州内のアヘン密輸業者との抗争を含む多岐にわたりました。SSAは1976年に崩壊・解体しましたが、その構成員や活動は、後のシャン州軍（北）およびシャン州軍（南）といった勢力の母体となり、シャン州における抵抗運動の歴史に大きな影響を残しました。

設立の経緯

ビルマ独立以前

シャン州の複雑な統治の歴史は、1555年のビルマによる征服以降、主に間接統治という形で続きました。イギリス植民地時代もこの形態は引き継がれましたが、1922年以降はシャン連合州として統合され、地域の首長であるツァオパーの権力は大幅に縮小されました。第二次世界大戦中、ビルマの独立運動指導者アウンサンは日本軍と協力してイギリスからの解放を目指し、戦後は反ファシスト人民自由連盟（AFPFL）を結成して日本軍も排除しました。1947年にはイギリスとの間で一年以内のビルマ独立が合意され、その中で辺境地域と管区ビルマの早期統一が図られました。これを受けて、アウンサンは1947年2月12日、シャン、カチン、チン、カレンニー各民族の代表者と共に、歴史的なパンロン協定に署名しました。

ビルマ独立以後

アウンサンは独立前に暗殺されましたが、1948年1月4日にウー・ヌを首相とするビルマ連邦が成立しました。初代大統領にはシャン州出身のツァオパー、サオ・シュエタイッが就任しました。しかし、この連邦政府は発足直後からビルマ共産党や他の少数民族武装勢力による反乱に直面しました。パンロン協定の当事者である主要な四民族は当初ウー・ヌ政権と協調していましたが、シャン州南部ではパオ人の間で武装抵抗の動きが始まりました。また、アメリカの支援を受けた中国国民党軍の残党である泰緬孤軍がシャン州北部に侵入し、ビルマ軍の兵力を分散させる要因となりました。

1952年、国民党軍への対処のため、ビルマ国軍がシャン州に展開しました。多くのシャン住民にとって、これはビルマ族との初めての本格的な接触であり、国軍も国民党軍も歓迎されない存在であったため、シャン人の民族主義を刺激する結果となりました。サオ・シュエタイッ大統領の妻、サオ・ナン・ハーン・カム夫人はシャン州の独立を主張する政党を組織し、1956年には国会議員に当選しました。パンロン協定には、シャン州が独立後十年を経て連邦から離脱できる権利が明記されており、これに着目した若者たちが抵抗組織を結成し始めました。1958年には最初のシャン人抵抗組織ヌムスクハーン（「若く勇敢な戦士たち」）が設立され、後にシャン州独立軍（SSIA）などが分派しました。

こうした緊張が高まる中、1960年にはサオ・シュエタイッ元大統領が、自治州の権利拡大を目指す憲法改正案を提案しました。サオ・シュエタイッを含むツァオパーたちは、当時の連邦制が形骸化していると批判し、以下の要求を行いました。

• - ビルマ族のための「ビルマ州」の設置
• - 国会上院における各州同数議席割当て
• - 中央政府権限の限定（外交・国防など）

1962年2月には辺境地域の将来的な地位に関する政府主催の会合が開かれましたが、結論は出ませんでした。しかし、その直後の1962年3月にネ・ウィン将軍による軍事クーデターが発生し、ウー・ヌ政権は転覆され、軍部が実権を握りました。前述の会合参加者の多くが拘束され、サオ・シュエタイッ元大統領も逮捕されました。

SSAの成立

1962年4月、軍部による夫の逮捕を受け、サオ・ナン・ハーン・カム夫人は家族と共にタイへ亡命しました。サオ・シュエタイッは同年11月に獄中で死去しました。夫の死後、ナン・ハーン・カム夫人はシャン州内の抵抗勢力の統合を目指しました。彼女の指導の下、1964年にシャン州独立軍（SSIA）とシャン民族連合戦線（SNUF）が統合され、シャン州軍（SSA）が正式に結成されました。この結成は、タイ国境地域の山中でおこなわれ、シャン州内に分散していた様々な抵抗勢力を結集することを企図したものでした。コーカン革命軍もこれに加わりましたが、SSIAから分派したシャン民族軍などは参加を拒否しました。

SSAは、知識層から農民に至るまで幅広い支持を集めました。その兵力は1961年頃の約1,500人から、1969年には7,000～9,000人規模へと大幅に増加しました。SSAはミャンマー国軍との間で激しい戦闘を繰り返し、多くの犠牲者を出しました。この抗争を通じて、SSAはシャン州の広範囲にわたる領域を実効支配下に置くに至りました。戦闘員は主に地元のシャン族から徴募され、訓練を受けました。1969年には士官学校が設立され、軍事訓練だけでなく、歴史や政治に関する教育も行われました。1971年にはSSAの政治部門としてシャン州進歩党（SSPP）が設立され、軍事と政治の両面から活動を展開しました。

解体

シャン州での武装闘争が激化するにつれて、SSA内部には亀裂が生じました。特に、北部部隊がビルマ共産党（CPB）に支援を求め、CPBが兵力や武器を提供したことに対し、南部部隊がCPBとの連携に強い抵抗を示したことが大きな要因となり、SSAは事実上の分裂状態に陥りました。1966年には既に二つの部隊が離脱して独自の組織を結成するなど、内部対立は深まっていました。ミャンマー国軍やCPB、他の抵抗組織、さらには麻薬密輸組織との複雑な関係や抗争も相まって、SSAを分裂させようとする様々な外部からの圧力も働きました。その結果、1976年の中葉にはSSAはもはや統一された組織としての機能を失い、分解状態となりました。約4,000人の戦闘員がCPBの指揮下に入ったほか、残りの戦闘員も他の抵抗組織に合流しました。SSAとしての活動は終焉を迎えましたが、その流れを汲む勢力は、その後も武装闘争を続け、特にCPB崩壊後の1989年に政府との和平協定を結んだ勢力も存在します。SSAの歴史は、シャン州における少数民族の抵抗運動の困難さと、その後の勢力分裂・再編の複雑な背景を示しています。

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