シュプレヒゲザング

シュプレヒゲザング／シュプレヒシュティンメ

技法の概要

シュプレヒゲザング（Sprechgesang）およびシュプレヒシュティンメ（Sprechstimme）は、ドイツ語でそれぞれ「語る歌」「語る声」を意味し、特に20世紀初頭の表現主義音楽において発展した、歌唱と話し言葉の中間に位置する独特の表現技法です。この技法は、定められた音高を厳密に保持する通常の歌唱とは異なり、話し声に近い自然な抑揚やリズムを取り入れることを特徴とします。

シュプレヒゲザングとシュプレヒシュティンメの違い

これらの用語はしばしば混同されますが、一般的には以下のように区別されます。

シュプレヒゲザング：より伝統的な音楽技法であるレチタティーヴォやパルランド（「話すように」という意味のイタリア語）との関連が深く、音高に合わせて歌われる側面を持ちながらも、話し声のような自由さや早口な表現を取り入れたものです。この用語は、リヒャルト・ワーグナーなどが作曲した19世紀後期ロマン派のドイツ語オペラや楽劇の文脈で用いられることが多く、時にはレチタティーヴォのドイツ語訳として使われることもあります。
シュプレヒシュティンメ：特定の音高に厳密に縛られず、より話し声に近い表現を目指した技法です。音符に示されたリズムは守りつつも、音高は即座に離れるといった、話し声の自然な音の上がり下がりを取り入れます。この技法は、特に新ウィーン楽派の作曲家たちによって探求されました。

シュプレヒシュティンメの発展

シュプレヒシュティンメの初期の使用例としては、エンゲルベルト・フンパーディンクのメロドラマ『王子王女』（1897年版）が挙げられます。これは、当時の歌曲や口語的な歌唱スタイルを音楽に取り入れようとした試みと見られます。しかし、この技法が最も重要な発展を遂げたのは、アルノルト・シェーンベルクやアルバン・ベルクといった新ウィーン楽派の作曲家たちによってでした。

アルノルト・シェーンベルクは、この技法をいくつかの作品に採用しました。大作『グレの歌』（1911年）では語り手の一部に用いましたが、最も代表的な使用例はメロドラマ『月に憑かれたピエロ』（1912年）で、この作品全体を通してシュプレヒシュティンメが使用されています。シェーンベルクは『月に憑かれたピエロ』の楽譜に、この技法に関する詳細な演奏指示を書き残しました。アルバン・ベルクも、オペラ『ヴォツェック』や『ルル』の一部でシュプレヒシュティンメを取り入れ、劇的な効果を高めています。

技法の解釈を巡る問題

シェーンベルクは『月に憑かれたピエロ』の序文で、シュプレヒシュティンメをどのように演奏すべきかについて説明を試みました。彼によると、通常の歌唱のように音高を維持するのではなく、音符に示されたリズムは守りつつ、「激しい音高の下降または上昇のために即座にそれを放棄する」べきであるとしました。そして、「現実的かつ自然な話し方」でもなく、「普通の歌」でもない、「『普通の話し方』と『音楽形式に従った話し方』の違い」を明確にすることが目標だと述べました。

しかし、この指示は抽象的であり、具体的な演奏法を巡って多くの混乱が生じました。シェーンベルク自身が指導した初演では彼の意図が実現されたと考えられますが、その後の演奏においては解釈を巡って様々な課題が生じました。シェーンベルクは問題解決のために多くの注釈を追加しましたが、最終的に明確な定義を示すことが難しく、この技法が具体的に何を意図しているのかについて、後世に多くの議論を残すこととなりました。著名な指揮者・作曲家のピエール・ブーレーズも、この記譜法に厳密に従って歌うことの現実性や、シェーンベルク自身による説明の不明瞭さを指摘しています。

シェーンベルクは後に、『ナポレオンへの頌歌』（1942年）や『ワルシャワの生き残り』（1947年）、未完のオペラ『モーゼとアロン』などの作品で、伝統的な五線譜や音部記号を使わない単一行の譜表を用いた記譜法を採用しました。これにより、特定の音高への参照は廃しながらも、相対的な音の高さの動きやアーティキュレーションを指定しています。

記譜法

シュプレヒシュティンメの記譜法は、時代や作曲家によっていくつかの方法があります。

初期シェーンベルク: 音符の符幹（棒）に小さな×印を付けたり、符頭自体を×印で示したりする方法が用いられました。
後期シェーンベルク: 音部記号のない単一行の譜表を使用し、音符をこの線上またはその上下に配置することで、特定の音高ではなく相対的な音の高さを示しました。符幹への×印は使われなくなりました。
* ベルク: 『ヴォツェック』などでは、よりリズミカルな話し方には単一行の譜表を、歌唱に近いシュプレヒシュティンメには五線譜上の×印付き音符を、さらに歌唱に近い表現には符幹に斜線を加えた音符を用いるなど、多様な記譜法を使い分けています。

現代では、従来の丸い符頭の代わりに×印を使用してシュプレヒシュティンメを示す記譜法が最も一般的に用いられています。

この技法は、人間の声の持つ表現力を拡張し、音楽と演劇の中間領域を探求する上で重要な役割を果たしましたが、同時にその独特な性質ゆえに、演奏者や聴衆に新たな課題と可能性をもたらしました。

（関連項目：パルランド）

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