表現主義音楽

表現主義音楽とは

20世紀音楽における重要なムーブメントの一つである表現主義音楽は、人間の内面、特に感情や心理状態を深く掘り下げて表現することを目的とした音楽です。これは、外的な美しさや印象を重視した印象主義音楽へのアンチテーゼとして登場しました。主にドイツとオーストリアで発展し、アルノルト・シェーンベルク、アルバン・ベルク、アントン・ヴェーベルンら新ウィーン楽派の作曲家たちによってそのスタイルが確立されました。

表現主義音楽の成立

表現主義音楽は、狭義にはシェーンベルクが調性を放棄し、十二音技法を確立するまでの時期、すなわち「自由な無調」の時代（1908年頃から1921年頃）の音楽を指します。しかし、広義には、この時期に限らず、同様の傾向を持つ音楽全般を指すこともあります。

1911年頃から、シェーンベルクは抽象画家のワシリー・カンディンスキーと交流を深め、芸術は潜在意識、つまり「内面からの必要性」を表現すべきであるという共通認識を持つに至りました。この考え方は、ベルクやヴェーベルンにも共有され、彼らの音楽にも大きな影響を与えました。

表現主義的傾向を持つ作曲家は、新ウィーン楽派のメンバー以外にも、アレクサンドル・スクリャービン、バルトーク・ベーラ、パウル・ヒンデミット、エルンスト・クルシェネクなどが挙げられます。

表現主義音楽の特徴

表現主義音楽は、以下のような特徴を持っています。

大胆な不協和音の使用: 従来の調性音楽では避けられてきた不協和音が積極的に使用され、不安定さや緊張感が表現されます。
音域の拡張: 楽器の音域を極端に拡張することで、表現の幅を広げています。
極端な強弱法の使用: 強弱の変化を大胆に用いることで、感情の起伏を強調しています。
自由なリズム: 従来の拍子やリズムにとらわれない、自由で複雑なリズムが用いられます。
不安定なメロディライン: 従来のメロディのように、安定した旋律ではなく、跳躍が多く、予測不能なメロディラインが特徴です。
シュプレヒゲザング: 歌唱と朗読の中間的な発声法で、感情を直接的に表現します。

これらの特徴は、聴衆に強い感情的なインパクトを与え、時には不安や混乱を引き起こすこともあります。しかし、それこそが表現主義音楽の狙いであり、人間の複雑な内面を余すことなく表現しようとした結果と言えるでしょう。

表現主義音楽の意義

表現主義音楽は、20世紀の音楽史において、調性音楽から無調音楽への移行を促す重要な役割を果たしました。また、感情表現の追求という観点から、後世の音楽にも大きな影響を与えました。その革新的な試みは、現代音楽の多様なスタイルを生み出す土台の一つとなったと言えるでしょう。

参考文献

* Fanning, David. 2001. "Expressionism". The New Grove Dictionary of Music and Musicians, second edition, edited by Stanley Sadie and John Tyrrell. London: Macmillan Publishers.

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