シラミ目

シラミ類

シラミ類（学名：Phthiraptera）は、鳥類や哺乳類といった恒温脊椎動物の体表に寄生する昆虫の一群を指します。かつては分類学上の「目」としてシラミ目（order Phthiraptera）と呼ばれていましたが、その後の系統学的な研究が進展した結果、現在では昆虫綱咀顎目（Psocodea）の下位分類群として扱われています。具体的には、咀顎目の中の下目、あるいはさらに下の小目といった階級で認識されることが多く、学名であるPhthirapteraは便宜的にこのグループ全体を指す名称として使われています。

形態と生態

シラミ類は、主にその摂食様式によって大きく二つのグループに分けられます。一つは「シラミ」と呼ばれる吸血性のグループで、宿主の皮膚から分泌される皮脂や体液、血液などを吸って栄養とします。もう一つは「ハジラミ」と呼ばれる咀嚼性のグループで、こちらは宿主の体表にある皮膚の破片や抜け落ちた体毛、鳥類の羽毛などをかじって食べます。これらの昆虫は、宿主の体温と栄養に強く依存して生きているため、宿主から離れてしまうと、多くの場合長く生存することができません。例えば、ヒトに寄生するヒトジラミは、人の体から離れてしまうと吸血ができなくなり、通常2～3日程度で餓死するとされています（生存期間は周囲の温度などによって多少変動します）。

進化的な位置づけ

シラミ類は、昆虫綱の咀顎目という大きなグループの中に含まれる一群です。咀顎目の中では、コナチャタテ亜目（Troctomorpha）に位置づけられており、特にコナチャタテ科（Liposcelididae）というグループがシラミ類と最も近縁な関係（姉妹群）にあると考えられています。シラミ類に関する最も古い化石記録としては、約4400万年前にあたる始新世の地層からドイツで発見されたハジラミの化石（Megamenopon rasnitsyni）が確認されています。これは、この昆虫群が非常に古い時代から存在していたことを示しています。

分類の変遷と現在の体系

シラミ類は、全体として単系統群であることが遺伝的・形態的な研究から強く支持されています。その構成種には、恒温脊椎動物への外部寄生という共通した生態に加え、中枢神経系の一部である中胸部神経節と腹部神経節が融合して一つの神経塊を形成するといった、多くの特徴的な共通点が見られます。従来の分類体系では、シラミ類（当時はシラミ目）は、吸血性のシラミ亜目（Anoplura）と咀嚼性のハジラミ目（Mallophaga）の二つの亜目に大きく分けられていました。しかし、その後の研究により、ハジラミ目というグループが、実際には吸血性のシラミを含む系統の一部から派生した側系統群であることが明らかになりました。このため、分類が見直され、現在では以下の四つのグループ（かつて亜目、現在は小目とされることが多い）に再編成されています。

シラミ亜目 (Anoplura)：主に哺乳類に寄生する吸血性のシラミ類。
ゾウハジラミ亜目：ゾウやイボイノシシに寄生する比較的小さなグループ。
ホソツノハジラミ亜目：主に鳥類に寄生する咀嚼性ハジラミの大部分を含み、一部は哺乳類にも寄生します。
マルツノハジラミ亜目：咀嚼性ハジラミの中でも比較的原始的なグループとされ、鳥類に広く見られますが、南米やオーストラリアでは哺乳類からも発見されています。

2021年には、吉澤和徳らによる研究に基づき、シラミ類全体を咀顎目の下目（あるいは小目）として位置づけ、その下にあるこれら四つのグループをさらに下の小目（あるいは階級なしの分岐群）として扱うという分類階級の変更提案がなされました。これらの変更は、Psocodea Species Fileなどのデータベースでも受け入れられています。しかし、昆虫の分類体系は系統学的な研究の進展に伴い常に更新されており、シラミ類の分類もまた、将来的にさらに変更される可能性があります。

なお、吸血性であることからシラミという名がつく「トコジラミ」は、分類学的にはカメムシ目の昆虫であり、本項で解説するシラミ類とは別のグループに属します。

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