シリアのエフレム

聖エフレム：4世紀シリアの聖人、聖歌作家、そして神学者

4世紀、現在のシリアとトルコの国境付近に位置するニシビスで生まれた聖エフレムは、キリスト教の修道士、聖歌作家、神学者として知られる重要な人物です。正教会、東方諸教会、カトリック教会など、多くのキリスト教教会で聖人として崇められています。正教会では「シリアの克肖者聖エフレム」と呼ばれ、深い敬愛を集めています。

彼の生誕地ニシビスは、かつて東西交易の中心地として栄えた都市でしたが、後に破壊され、現在はトルコの小さな町ヌサイビンとなっています。エフレムは古典シリア語を母語とし、アリウス派への反論や多数の祈祷文（聖歌）の創作で知られています。これらの祈祷文はシリア語で今もなお使用されており、ギリシア語にも翻訳され広く伝わっています。

波瀾万丈の生涯：伝承からの物語

エフレムの生涯については、歴史的事実と教会伝承が混在しています。伝承によれば、彼は貧しい農家に生まれ、少年時代は短気でわがままな性格だったと伝えられています。羊飼いを誤解させて投獄された経験を経て、深い悔悟の念に駆られ、禁欲的な生活を送るようになりました。

ニシビスの主教イアコフ（ヤコブ）のもとで修業し、説教や教育活動に従事しました。イアコブの死後、エデッサに移り、アリウス派への反論や信者の教化に尽力しました。常に謙虚な姿勢を保ち、主教の地位を固辞し、輔祭職に留まりました。

晩年には、エジプトの隠遁者たちを訪ね、聖ワシリイ（バシレイオス）とも交流を持ちました。エデッサに戻った後も、飢饉の際には貧民救済に尽力し、人々のために働き続けました。最期はエデッサ近郊の洞窟で隠遁生活を送って生涯を終えました。

祈りと労働：エフレムの著作

エフレムは数多くの祈祷文、聖書注解を残し、それらは現在も教会で高く評価されています。特に、正教会の大斎期間中に用いられる「エフレムの祝文」は広く知られています。聖書注解は旧約・新約両方に及び、モーセ五書の注解は特に特筆に値します。

彼の著作は、祈りと共同生活のための労働を中心とした当時のシリア修道士たちの生活様式を反映しており、貴重な歴史的資料となっています。代表的な著作として『聖母賛歌』などが挙げられ、日本語訳も出版されています。

エフレムの遺産

聖エフレムは、聖歌を通して人々に信仰を伝え、神学的な議論を通じて教会を守り、貧しい人々を救済するなど、多方面で貢献しました。彼の生涯と著作は、現代においても信仰の模範として、そして歴史・文化遺産として大切に受け継がれています。彼の謙虚さ、献身、そして深い信仰は、多くの信徒たちに深い感銘を与え続けています。彼の残した数々の祈祷文や聖書注解は、今もなお人々の心に響き、信仰の糧となっています。

参考文献

『諸聖略伝 二月』日本ハリストス[[正教会]]府主教庁
アロイジオ・デルコル『聖エフレム伝』愛心館

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