シンドラーエレベータ

シンドラーエレベータ株式会社について

シンドラーエレベータ株式会社は、かつて日本国内でエレベーターとエスカレーターの製造、販売、保守・管理を手掛けていた企業です。1954年に日本エレベーター工業株式会社として設立され、その後スイスのシンドラーグループの傘下に入り、1991年にシンドラーエレベータ株式会社へと社名を変更しました。シンドラーグループは世界的に見てもエレベーターとエスカレーターの分野で高いシェアを誇りますが、日本国内においては大手メーカーに次ぐ立ち位置でした。

事業の変遷

シンドラーエレベータは、公共事業の入札において強みを発揮し、特に団地などで多く採用されていました。しかし、2006年に発生した死亡事故以降、新規エレベーターの受注は事実上停止。その後はエスカレーターの製造・販売に事業を縮小しました。2016年には保守点検事業を日本オーチス・エレベータに譲渡し、エスカレーターの製造も終了。日本での事業から撤退しました。現在は、過去の訴訟や捜査に対応するための組織として存続していましたが、2021年に解散・清算しています。

保守点検事業の移管

保守点検事業は、一旦日本エレベータサービス株式会社という準備会社に移管された後、日本オーチス・エレベータへと引き継がれました。この際、日本エレベータサービス株式会社はオーチス・エレベータサービス株式会社（OESC）と社名を変更。その後、OESCは日本オーチス・エレベータに吸収合併されました。

沿革

1935年: 東和エレベーター工業所の製造部として創業
1954年: 日本エレベーター工業株式会社を設立
1985年: シンドラーホールディングが日本エレベーター工業の株式を30%取得
1991年: 商号をシンドラーエレベータ株式会社に変更
1995年: シンドラーホールディングがシンドラーエレベータ（旧日本エレベーター工業）の株式を96.7%まで取得
2006年: 死亡事故発生。以降、エスカレーター事業に注力
2016年: 日本オーチス・エレベータへ保守点検事業を譲渡。本社を東京都中央区銀座に移転
2021年: 解散、清算

主な製品と技術

シンドラーエレベータは、その歴史の中で様々な製品を開発・販売しました。以下に主な製品と技術を紹介します。

日本エレベーター工業時代（1954年-1991年）

初期の製品は、白のインジケーターを兼ねた凸型ボタンが特徴でした。後に針式インジケーターを模したロゴと社名が併記されるようになり、ボタンも角型の凹型に変更されました。1980年代には、日立ビルシステムのビルエースクオリティ80シリーズと類似したデザインの製品も登場しました。

シンドラーエレベータ時代（1991年-2016年）

社名変更後も、日本エレベーター工業時代の製品を継続して販売していましたが、次第にシンドラーグループの技術を取り入れた製品を投入しました。

Schindler 300: 丸形ボタンと16セグメント式インジケータを採用した製品
Schindler 300J: 1997年発売。Schindler 300と同様の16セグメント式または液晶ディスプレイ式インジケータを使用。
Schindler Mobile: 1999年発売。シンドラーグループ初のマシンルームレスエレベーターで、乗り場のテンキーで目的階を指定する自走式
ミレニアムタワー: 2000年発売。階段室型共同住宅向けの小型エレベーター。2001年にグッドデザイン賞を受賞
Schindler 300J MRL: 2000年発売。Schindler 300Jをマシンルームレス化した製品。LED式インジケータ採用
Schindler Smart J: 2000年発売。マシンルームレスエレベーター
Schindler neu: 2002年発売。三菱のエレパックアイのOEM製品
Schindler LiMO: 2012年発売。既設エレベーターのリニューアル用パッケージ。液晶インジケータ採用

その他の技術

Schindler ID: IDカードやキーホルダーで乗客を識別し、不審者の侵入を防ぐ技術
Schindler Miconic 10: エレベーターの運行管理システム

事故・不祥事

シンドラーエレベータは、その歴史の中で数々の事故や不祥事を経験しています。特に2006年に発生した死亡事故は社会的に大きな注目を集め、その後の事業に大きな影響を与えました。

主な事故・不祥事

2003年12月: 大分県の競輪場でエレベーターが最上階を突き抜け、競輪選手が閉じ込められる事故が発生。
2006年6月: 東京都港区の集合住宅で、高校生がエレベーターと天井の間に挟まれ死亡する事故が発生。この事故をきっかけに、シンドラーエレベータの安全性に対する社会的な批判が高まりました。保守点検体制の不備も指摘され、同社は再三の住民説明会や記者会見の要請を拒み続けました。
2007年3月: エレベーターの法定検査に必要な国家資格を不正に取得させていたことが発覚
2007年5月: 東京都杉並区のマンションで、エレベーターを吊るすワイヤーの一部が破断しているのが発見
2007年7月-8月: 事故機と同型のエレベーターの制御回路が電磁雑音に弱いことが実験で判明。
2007年10月: 神奈川県平塚市の西友平塚店で、エスカレーターの保護板の形状が建築基準法に違反していたことが判明
2010年4月: 東京都渋谷区のJR渋谷駅東口の歩道橋に設置されたエレベーターで、メインロープが破断
2010年11月: 千葉県柏市の東京大学柏地区キャンパスで、扉が開いたままエレベーターが下降する事故が発生
2012年10月: 石川県金沢市のアパホテル金沢駅前で、女性清掃員がエレベーターに挟まれ死亡
2012年12月: 大阪市天王寺区の小学校で、エレベーターに小学生が閉じ込められる事故が発生
2013年1月: 埼玉県三郷市の駅前ビルでエレベーターのドアが開かなくなり、利用者が閉じ込められる事故が発生
2013年1月: 静岡市駿河区の高齢者施設でエレベーターに男性が閉じ込められる事故が発生
2013年2月: 金沢市のマンションで、エレベーターに男性が閉じ込められる事故が発生
2013年2月: 都営花小金井四丁目アパートでエレベーターが閉じ込め状態となり、その直後に戸が開いたまま上昇を開始する事故が発生
2013年7月: 横浜市営地下鉄ブルーライン横浜駅でエレベーター故障により利用者が閉じ込められる事故が発生
2015年6月-8月: シンドラー社社員がUR賃貸住宅のエレベーター安全装置を故意に作動させ、利用者を閉じ込める事案が発覚
2016年8月: 2006年の死亡事故に関する消費者庁の調査報告書が公表され、シンドラー社のエレベーター構造に問題があったことが指摘されました。
2017年11月: 2006年の死亡事故の遺族との間で和解が成立。
2018年1月: 2006年の死亡事故の裁判で、元シンドラーエレベータの東京支社保守第2課長に対する無罪判決が確定
2018年3月: 2006年の死亡事故の裁判で、エス・イー・シーエレベーターの3名に対する無罪判決が確定

これらの事故や不祥事を通じて、シンドラーエレベータの製品の安全性や保守体制に対する信頼は大きく損なわれ、その後の事業展開に大きな影響を与えました。

テレビ番組

日経スペシャル ガイアの夜明け いま、そこにある危険「～エレベーターと遊園地の安全は?～」（2007年7月24日、テレビ東京）

関連情報

日本エレベータ協会
en:2006 Minato Ward elevator accident
マーキュリーエレベータ: シンドラーエレベータが買収したエレベーター管理会社
シンドラーエレベータ - ウェイバックマシン (2021年8月4日アーカイブ)
エレベータに挟まれ死亡 - 失敗知識データベース

まとめ

シンドラーエレベータは、かつて日本のエレベーター業界で一定の存在感を示していましたが、度重なる事故や不祥事により事業を縮小し、最終的には解散しました。この企業の歴史は、製品の安全性と保守体制の重要性を改めて示す教訓と言えるでしょう。

もう一度検索