シン・リジィ

シン・リジィ (Thin Lizzy) の軌跡

シン・リジィは、アイルランドが生んだ伝説的なロックバンドです。アイリッシュ音楽の要素を取り入れた独特のサウンド、そしてツインリードギターのスタイルで、ハードロックシーンにその名を刻みました。特に創設者であるフィル・ライノットのカリスマ性と、バンドの波乱に満ちた歴史は、多くのファンを魅了し続けています。

結成からデッカ・レコード時代 (1969年-1973年)

1969年、フィル・ライノット（ベース/ボーカル）を中心に、ブライアン・ダウニー（ドラム）、エリック・ベル（ギター）がダブリンで結成しました。当初は「Orphanage（孤児院）」というバンド名でパブを中心に活動を開始。その後、バンド名を「シン・リジィ」に変更しました。これは、エリック・クラプトンが読んでいた雑誌に掲載されたロボットの名前からヒントを得たもので、アイルランド人が発音しやすいようにスペルを変えたものです。

1970年、シングル「ザ・ファーマー」でデビュー。その後、UKデッカ・レコードと契約し、1971年にはファーストアルバム『シン・リジィ』をリリース。初期はアイリッシュ・フォークとロックを融合させたサイケデリックなサウンドが特徴でした。1972年には、トラディショナルなアイリッシュ・フォークソングをロックアレンジした「ウィスキー・イン・ザ・ジャー」がアイルランドで1位を獲得、英国でもヒットとなり、バンドは大きな転換期を迎えます。1973年には、エリック・ベルのギターが印象的な「ザ・ロッカー」を収録した『西洋無頼』をリリースしますが、ベルが脱退することになります。

ツイン・リード・ギター体制の確立 (1974年-1975年)

エリック・ベル脱退後、1974年にゲイリー・ムーアが加入。その後、ブライアン・ロバートソンとスコット・ゴーハムが加入し、ツインギター編成が確立。レスポールギターによるツインリードギター、フィル・ライノットのボーカル、ブライアン・ダウニーのドラミングが特徴的なサウンドを形成。1975年リリースの『ファイティング!!』でそのスタイルは確立されました。この頃からアメリカツアーも開始し、国際的な活動をスタート。

最盛期 (1976年-1979年)

1976年、代表作となるアルバム『脱獄』を発表。「ヤツらは町へ」は世界的なヒットを記録。この時期、シン・リジィは精力的にツアーを行い、そのライブパフォーマンスは非常に高い評価を得ました。1977年には、ゲイリー・ムーアが再びツアーに参加。9月には『バッド・レピュテイション〜悪名』を発表。1978年には初のライブアルバム『ライヴ・アンド・デンジャラス』をリリース。しかし、ブライアン・ロバートソンが脱退し、ゲイリー・ムーアが正式メンバーに。1979年、アルバム『ブラック・ローズ』を発表。タイトル曲はケルト音楽と叙事詩が融合した大作で、シン・リジィの集大成とも言える曲です。しかし、アメリカツアー中にゲイリー・ムーアが失踪し、ミッジ・ユーロを代役に立て、来日公演も行いました。

斜陽からフィル・ライノットの死去 (1980年-1986年)

1980年、スノウィー・ホワイトを迎え、アルバム『チャイナタウン』をリリース。しかし、バンドの方向性は定まらず、人気も低迷。1983年、ジョン・サイクスを迎え『サンダー・アンド・ライトニング』をリリースしますが、これが最後のスタジオアルバムとなりました。同年、バンドは解散。1986年1月4日、フィル・ライノットがヘロインの過剰摂取により死去。

トリビュート期 (1996年-現在)

1996年から、ジョン・サイクスとスコット・ゴーハムを中心に「シン・リジィ」の名前で活動を再開。2005年には、フィル・ライノットの銅像がダブリンに建立され、記念式典には過去のメンバーが集結。2010年にはスコット・ゴーハムとブライアン・ダウニーを中心に再結成。2012年からはブラック・スター・ライダーズ名義で活動していますが、「シン・リジィ」名義での活動も継続しています。

補足

シン・リジィのライブアルバム『ライヴ・アンド・デンジャラス』は、メンバーがツアー中にピーター・フランプトンのライブアルバムを頻繁に聴いたことがきっかけで制作されたというエピソードがあります。また、2019年にはアイルランドで結成50周年を記念する切手が発行されましたが、初代マネージャーは正式な結成を1970年であると主張し、物議を醸しました。

メンバー

幾度かのメンバーチェンジを経て、バンドには多数のミュージシャンが在籍しました。以下に主なメンバーを記載します。

最終ラインナップ
フィル・ライノット (Phil Lynott) - ボーカル、ベース (1969年-1983年)
スコット・ゴーハム (Scott Gorham) - ギター (1974年-1983年)
ジョン・サイクス (John Sykes) - ギター (1982年-1983年)
ブライアン・ダウニー (Brian Downey) - ドラムス (1969年-1983年)
ダレン・ウォートン (Darren Wharton) - キーボード (1981年-1983年)
再結成・現ラインナップ
スコット・ゴーハム (Scott Gorham) - ギター (1974年-1983年, 1996年-2001年, 2004年-)
ダレン・ウォートン (Darren Wharton) - キーボード (1981年-1983年, 1996年-2001年, 2010年-)
リッキー・ウォリック (Ricky Warwick) - ボーカル (2010年-)
デイモン・ジョンソン (Damon Johnson) - ギター (2011年-)
トム・ハミルトン (Tom Hamilton) - ベース (2016年- )
スコット・トラヴィス (Scott Travis) - ドラムス (2016年-)
旧メンバー
エリック・ベル (Eric Bell) - ギター (1969年-1973年)
ゲイリー・ムーア (Gary Moore) - ギター (1974年, 1977年, 1978年-1979年)
ブライアン・ロバートソン (Brian Robertson) - ギター (1974年-1978年)
スノウィー・ホワイト (Snowy White) - ギター (1980年-1982年)

ディスコグラフィー

シン・リジィは数多くのアルバムを発表しています。以下に代表的な作品を記載します。

スタジオ・アルバム
『シン・リジィ』 (1971年)
『ブルー・オーファン』 (1972年)
『西洋無頼』 (1973年)
『ナイト・ライフ』 (1974年)
『ファイティング!!』 (1975年)
『脱獄』 (1976年)
『サギ師ジョニー』 (1976年)
『バッド・レピュテイション〜悪名』 (1977年)
『ブラック・ローズ』 (1979年)
『チャイナタウン』 (1980年)
『反逆者』 (1981年)
『サンダー・アンド・ライトニング』 (1983年)
ライブ・アルバム
『ライヴ・アンド・デンジャラス』 (1978年)
『ラスト・ライヴ』 (1983年)
コンピレーション・アルバム
『英雄物語』(1979年)
『デディケイション〜フィルに捧ぐ』(1991年)
『ワイルド・ワン〜ベスト・オブ・シン・リジィ』(1996年)

影響とカバー

シン・リジィの音楽は多くのアーティストに影響を与え、様々なカバーバージョンが存在します。

アイアン・メイデン - 「虐殺」
メタリカ - 「ウィスキー・イン・ザ・ジャー」
* ボン・ジョヴィ - 「ヤツらは町へ」


シン・リジィは、その音楽性とドラマティックな歴史を通じて、ロック史に輝かしい足跡を残しました。彼らの音楽は今もなお、多くの人々に愛され続けています。

参考文献

Mark Putterford, "Philip Lynott: The Rocker", Castle, 1994

外部リンク

thinlizzyband.com: スコット・ゴーハム、ブライアン・ダウニーによる現在のシン・リジィ
thinlizzyonline.com: スコット・ゴーハム、ジョン・サイクスで再結成した時代のサイト
thinlizzy.org: フィル・ライノット存命時代のサイト
The Roisin Dubh Trust: ライノットの母親フィロメナによる管理団体
LIZZY BOYS: 日本のトリビュート・バンド

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