ディルムン

ディルムン文明：古代メソポタミアとインダスを結ぶ交易の要

ディルムンは、古代メソポタミア文明の記録に登場する交易地であり、その正確な位置は特定されていませんが、現在のバーレーン、サウジアラビア東部、カタール、オマーン、そしてペルシャ湾沿岸の一部と考えられています。メソポタミア文明とインダス文明という、二つの偉大な文明を結びつける役割を果たし、交易の中継地として重要な地位を占めていました。

ディルムンの歴史

初期の記録

ディルムンの名前は、紀元前4千年紀末のシュメールの楔形文字記録に初めて登場します。ウルクで発見された粘土板には、ディルムンが斧の型や特定の職業を指す言葉として用いられており、羊毛の配給リストにもその名前が見られます。オマーン半島では、紀元前3200年頃から銅の採掘と輸出が行われており、メソポタミアでは、銅を産出する地を「マガン」と呼んでいました。紀元前3千年紀には、ディルムンはマガンとメソポタミア間の銅交易の中継地として機能しました。

メソポタミアとの交易記録

メソポタミアとディルムンの交易記録は、シュメール初期王朝時代から見られ、ラガシュ、ウル、ラルサなどの遺跡から出土した文書に記録されています。これらの記録から、ディルムンがメソポタミアにとって重要な交易相手であったことが分かります。オマーン半島では、ウンム・アン＝ナール文明が銅の輸出を引き継ぎ、メソポタミア、トランス・エラム文明、インダス文明との貿易を行っていました。

ディルムンの黄金時代と衰退

紀元前2000年頃、ウンム・アン＝ナール文明が衰退し、その中心はバーレーン島に移り、バールバール文明が興りました。バーレーン島での発掘調査により、アッシリア王センナケリブの遠征によってバーレーンの島々が支配下に置かれたことが示唆されています。同時期、海面低下によりファイラカ島が居住可能となり、交易が活発化しました。バーレーン国立博物館によると、ディルムンの黄金時代は紀元前2200年から前1600年頃とされています。

カッシート朝とその後

カッシート王朝時代の書簡には、ディルムンの地方当局者がメソポタミアの支配者に宛てたものがあり、当時の行政的な関連が示唆されています。しかし、カッシート朝が滅亡すると、メソポタミアの文書からディルムンの名前が消えていきます。紀元前1250年のアッシリアの碑文に、サルゴンがディルムンなどの王であると宣言したという例外的な記述が残っています。紀元前2千年紀初頭からは、ユーフラテス川上流の開発が進み、メソポタミアは新たな資源地を確保し、インダス文明の衰退とともに、ディルムンの交易は徐々に衰退しました。新バビロニア王国の時代には、ディルムンはバビロンの支配下にあったことが記録されており、新バビロニアが倒れると、ディルムンの名前は使われなくなりました。

メソポタミア文明とインダス文明との交易

交易の実態

ディルムンがメソポタミア文明とインダス文明の間で交易を行っていた証拠は、考古学的にも文献学的にも存在します。ハラッパー遺跡から出土した粘土製の印章は、商品の封印に使用され、ウルなどのメソポタミア遺跡でも多数発見されています。ペルシャ湾型の円形印章は、インダス文明のモヘンジョ・ダロやロータル、イラン高原のスーサなど広範囲で発見されています。また、インダス文明の人々もメソポタミアまで航海しており、バーレーン島、ファイラカ島、ウルではインダス文字の碑文が見つかっています。これらの証拠は、ディルムンが両文明間の交易において重要な役割を果たしていたことを示しています。イシン・ラルサ時代には、ディルムンが交易を独占するようになりました。

交易品

メソポタミアからは、穀物、銀、スズ、毛織物、オリーブオイルなどが輸出され、ディルムンからは、銅、木材、瑠璃、金、アンチモン、象牙、紅玉髄、釉薬をかけたビーズ、亀甲、マカン葦の計算盤、真珠、貝や骨の嵌め込み細工などが輸出されました。また、銅塊や天然アスファルト、綿織物、家禽なども交易されていた可能性が指摘されています。ディルムンで使用されていた重さや長さの単位がインダスとほぼ一致していたことも、両者間の密接な関係を示唆しています。

ディルムンと神話

神話におけるディルムン

ディルムンは、「太陽の昇る場所」「生命に満ちた場所」として語られ、シュメール神話では創世神話の舞台となっています。また、洪水伝説の主人公ジウスドラが永遠の命を授かった場所ともされています。エンキとニンフルサグの叙事詩では、天地創造の地として描かれ、女神ニンリルもディルムンに住んでいるとされています。ギルガメシュ叙事詩にも登場し、エデンの園のモデルと推測する学者もいますが、初期の叙事詩では、ディルムンが建設される前の世界が描かれています。

ディルムンの墳墓群

バーレーン島の西部にあるディルムンの墳墓群は、紀元前2200年から前1750年頃に築かれ、2019年にユネスコの世界遺産に登録されました。この墳墓群は、初期ディルムン文明の証拠として重要な意味を持っています。

世界遺産登録基準

ディルムンの墳墓群は、世界遺産登録基準のうち、以下の2つの基準を満たしています。

(3) 現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠。
(4) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例。

ディルムン文明は、その豊かな交易活動と独特の文化によって、古代世界の歴史において重要な役割を果たしました。その謎に包まれた歴史は、今後も多くの研究者によって解明されていくことでしょう。

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