ジェイアール東日本自動車販売

JR東日本自動車販売：鉄道会社の異業種進出と自動車販売事業

1991年、国鉄分割民営化後のJR東日本グループは、収益改善のため自動車販売事業への進出を決定し、株式会社ジェイアール東日本自動車販売を設立しました。当初はボルボ車の販売からスタートし、1997年にはGMの小型車ブランド「サターン」の取り扱いも開始、新宿駅前に「サターン新宿ステーション」を開設するなど積極的な展開を見せました。しかし、サターン車の販売不振や鉄道事業への影響を懸念した結果、サターン新宿ステーションは数年の営業で閉鎖されました。その他の販売拠点も、ボルボディーラーへの営業譲渡や閉鎖といった形で縮小していき、JR東日本自動車販売は事実上事業を終了しました。

JR東日本が自動車販売事業に参入した背景には、他JR各社の異業種進出がありました。JR北海道、JR西日本、JR九州はマツダの販売チャネル「ユーノス」に参画しており、この動きがJR東日本の自動車販売事業参入を促したと考えられます。広大な路線網を持つ鉄道会社が、競合関係にある自動車販売に参入するという異例の決断は、当時の経営状況を反映していると言えるでしょう。 山手線の保線車両としてサターン・Sシリーズのワゴンが使用された事例も、JR東日本の自動車販売事業への取り組みの一端を示しています。

私鉄各社による自動車販売事業

JR各社以外にも、私鉄各社が自動車販売事業に参入した事例は数多く存在します。名鉄グループはユーノス店を経営し、現在ではBMWの販売を手がけています。北陸鉄道や京成電鉄もかつてフォード車の販売を手掛けていました。日産自動車のディーラー網には、東急グループ、京急グループ、京王グループなど、多くの私鉄系企業が参画しています。近鉄グループは輸入車販売を長年行い、現在もメルセデス・ベンツの販売を継続しています。

トヨタ自動車ディーラーにおいても、静岡鉄道グループや遠州鉄道グループなどが参画しており、過去には東急グループや名鉄、西鉄なども資本参加していました。これらの事例は、鉄道事業者と自動車販売事業の意外な結びつきを示しています。

私鉄事業者は、JRと異なり、大都市と衛星都市を結ぶ路線が多く、通勤・通学輸送が中心です。そのため、マイカーと競合しやすい観光・行楽輸送の割合は少なく、自動車販売事業との相乗効果が期待できたと言えるでしょう。ただし、西武鉄道グループと西武百貨店グループ（西武流通グループ）を混同しないように注意が必要です。また、自動車販売会社が経営破綻した鉄道会社を救済した例もあり、高松琴平電気鉄道の経営危機の際に香川日産自動車が支援に乗り出したことが知られています。

ジェイアール東日本自動車販売のディーラー網

ジェイアール東日本自動車販売は、主にボルボ車とサターン車を販売していました。主なディーラーは東京世田谷、市川塩浜、サターン新宿、サターン世田谷などにありました。しかし、事業縮小に伴い、東京世田谷とサターン新宿の販売拠点は閉鎖され、市川塩浜の拠点は東邦オートに譲渡されました。サターン世田谷は、いすゞスクエアジャパンに譲渡された後、閉鎖されています。

まとめ

ジェイアール東日本自動車販売は、JR東日本の異業種進出の試みとして注目されましたが、短期間で事業を縮小せざるを得ませんでした。一方で、私鉄各社による自動車販売事業への参入は、現在も継続されており、鉄道事業と自動車販売事業の連携は、様々な形態で存在していることが分かります。これらの事例から、それぞれの企業が抱える経営戦略や市場環境を理解することが重要です。 今後の自動車販売業界と鉄道業界の動向を予測する上で、貴重な事例と言えるでしょう。

もう一度検索