ジェイミー・ミューア
ジェイミー・ミューア（Jamie Muir）は、1942年11月30日にスコットランドで生まれ、2025年2月17日にこの世を去った、実験的な打楽器奏者であり画家です。彼は特にプログレッシブ・ロックバンド、キング・クリムゾンへの短期間ながら強烈な参加と、その後の音楽活動からの離脱、仏教への帰依によって知られています。
エディンバラで育ったミューアは、1960年代初頭にエディンバラ芸術大学で音楽を学び始めました。当初はピアノを専攻していましたが、別の学校でフレンチホルンも学びました。ジャズに強い関心を持つようになり、トロンボーンや打楽器へと焦点を移しました。ドラム演奏の練習では、ケニー・クラークやトニー・ウィリアムスといったジャズ界の巨匠たちのスタイルを模範としました。しかし、アルバート・アイラーやファラオ・サンダース、とりわけミルフォード・グレイヴスの音楽に触発され、次第に即興的な打楽器表現へと深く傾倒していきました。地元のフリー・ジャズ・バンド、アサシネイション・アテンプト（The Assassination Weapon）にトロンボーン奏者として参加し、即興演奏の道を歩み始めます。
1965年、エディンバラ芸術大学で開催されたエディンバラ・フェスティバルでの出来事が、ミューアのキャリアを大きく動かしました。このフェスティバルで、彼はロンドンから来たミュージシャンたちのバックを務める機会を得ます。特にバーニー・グリーンのセッションにゲスト参加していたギタリスト、デレク・ベイリーとの共演が転機となりました。ベイリーから強く勧められロンドンへ移ったミューアは、振付師リンゼイ・ケンプの公演にベイリーやサクソフォン奏者のエヴァン・パーカーらと共に参加し、才能ある即興演奏家たちとの交流を深めます。その後、ピート・ブラウン&ピブロクトに加入し、パーカッションとドラムを担当。このバンドで自由な演奏スタイルを追求し、1968年7月まで活動を共にしたのです。
1968年には、デレク・ベイリー、エヴァン・パーカー、ヒュー・デイヴィスと共に、即興音楽の重要グループ、ザ・ミュージック・インプロヴィゼーション・カンパニー（The Music Improvisation Company）を結成。1970年8月に発表された同名デビューアルバムの制作に中心的に関わりました。一方で、1969年7月にはローリング・ストーンズがハイド・パークで行ったフリー・コンサートを観客として訪れ、そこでまだデビュー間もないキング・クリムゾンのパフォーマンスを目撃するという経験もしています。ピート・ブラウン・バタード・オーナメンツのエディンバラ・フェスティバルでの演奏にも参加。さらに、元コロシアムのギタリスト、ジム・ローチェらが結成したボリスに加入し、その型破りでエネルギッシュなパフォーマンスを展開しました。1971年にザ・ミュージック・インプロヴィゼーション・カンパニーを脱退後、自身のグループ、ヘヴィ・アフリカン・エンヴェロープを率いて演奏活動を本格化させます。また、アサガイへの参加を通じてアラン・ゴーウェンらと出会い、1972年にはサンシップを結成しました。
そして1972年4月、彼のキャリアにおける最も広く知られる時期が訪れます。キング・クリムゾンのリーダー、ロバート・フリップから誘いを受けたミューアは、ジャムセッションを経てバンドへの加入を決意します。彼はアルバム『太陽と戦慄』（Larks' Tongues in Aspic、1973年）の制作に参加し、それまでのキング・クリムゾンにはなかった予測不能でプリミティブなパーカッションと打楽器によって、バンドのサウンドに革新的な変化をもたらしました。彼の貢献は、この時期のキング・クリムゾンのライブパフォーマンスにおいても極めて重要な要素でした。
しかし、彼のキング・クリムゾンでの活動は長くは続きませんでした。インドの宗教家パラマハンサ・ヨガナンダの著書『あるヨギの自叙伝』を読んで精神的な深い影響を受けたミューアは、音楽活動からの離脱と仏教への帰依を決意します。1973年、彼はキング・クリムゾンのマネジメントに脱退を申し入れ、音楽シーンから姿を消し、比丘となりました。その後、1980年頃までスコットランド、フランス、インドなどを巡り、仏教の修行に専念する日々を送りました。
仏教修行から帰国後、友人の勧めもあり音楽の世界に戻ったミューアは、再び即興音楽の分野で活動を開始します。特にデレク・ベイリーやエヴァン・パーカーといったかつての盟友たちといくつかの共演作を発表しました。1983年には、デヴィッド・カニンガムからの依頼で、マイケル・ジャイルズらと共にケン・マクマラン監督の映画『Ghost Dance』のサウンドトラック制作にも参加しています。このサウンドトラックは1995年にCDとして発売されました。
1980年代前半には、デレク・ベイリーとの共作アルバムや、ベイリーが率いるカンパニーのアルバムのアートワークを手掛けるなど、視覚芸術の分野でも才能を発揮し始めます。そして1980年代末に渡米する際、シーケンサーなど一部の機材を除いて多くの楽器を売却。この時期から、音楽活動から絵画制作へと活動の中心を移し、画家として新たなキャリアを歩み始めたのです。
ジェイミー・ミューアは、その生涯を通じて既成概念にとらわれない表現を追求しました。即興音楽における独特の打楽器アプローチ、キング・クリムゾンに残した強烈なインパクト、そして音楽から絵画への大胆な転身。彼の多様なキャリアと芸術への真摯な姿勢は、多くの人々に影響を与えました。2025年2月17日、彼は英国のコーンウォールにて、82歳で静かにこの世を去りました。
主なディスコグラフィ：
キング・クリムゾン
太陽と戦慄（Larks' Tongues in Aspic）(1973年)
The Beat Club Bremen 1972 (1999年)
Live At The Zoom Club 1972 (2002年)
Live In Guildford 1972 (2003年)
その他
ザ・ミュージック・インプロヴィゼーション・カンパニー : ザ・ミュージック・インプロヴィゼーション・カンパニー (The Music Improvisation Company) (1970年)
ザ・ミュージック・インプロヴィゼーション・カンパニー : 1968-1971 (1976年)
デレク・ベイリー、ジェイミー・ミューア : Dart Drug (1981年)
カンパニー : Trios (1986年)
Richard Strange & The Engine Room : Going, Gone (1986年)
マイケル・ジャイルズ、ジェイミー・ミューア&デヴィッド・カニンガム : ゴースト・ダンス (Ghost Dance) (1995年) ※1983年録音
エヴァン・パーカー : The Ayes Have It (2001年) ※1983年の演奏
Laurie Scott Baker : Gracility (2009年) ※キング・クリムゾン加入以前のライブ音源
エディンバラで育ったミューアは、1960年代初頭にエディンバラ芸術大学で音楽を学び始めました。当初はピアノを専攻していましたが、別の学校でフレンチホルンも学びました。ジャズに強い関心を持つようになり、トロンボーンや打楽器へと焦点を移しました。ドラム演奏の練習では、ケニー・クラークやトニー・ウィリアムスといったジャズ界の巨匠たちのスタイルを模範としました。しかし、アルバート・アイラーやファラオ・サンダース、とりわけミルフォード・グレイヴスの音楽に触発され、次第に即興的な打楽器表現へと深く傾倒していきました。地元のフリー・ジャズ・バンド、アサシネイション・アテンプト（The Assassination Weapon）にトロンボーン奏者として参加し、即興演奏の道を歩み始めます。
1965年、エディンバラ芸術大学で開催されたエディンバラ・フェスティバルでの出来事が、ミューアのキャリアを大きく動かしました。このフェスティバルで、彼はロンドンから来たミュージシャンたちのバックを務める機会を得ます。特にバーニー・グリーンのセッションにゲスト参加していたギタリスト、デレク・ベイリーとの共演が転機となりました。ベイリーから強く勧められロンドンへ移ったミューアは、振付師リンゼイ・ケンプの公演にベイリーやサクソフォン奏者のエヴァン・パーカーらと共に参加し、才能ある即興演奏家たちとの交流を深めます。その後、ピート・ブラウン&ピブロクトに加入し、パーカッションとドラムを担当。このバンドで自由な演奏スタイルを追求し、1968年7月まで活動を共にしたのです。
1968年には、デレク・ベイリー、エヴァン・パーカー、ヒュー・デイヴィスと共に、即興音楽の重要グループ、ザ・ミュージック・インプロヴィゼーション・カンパニー（The Music Improvisation Company）を結成。1970年8月に発表された同名デビューアルバムの制作に中心的に関わりました。一方で、1969年7月にはローリング・ストーンズがハイド・パークで行ったフリー・コンサートを観客として訪れ、そこでまだデビュー間もないキング・クリムゾンのパフォーマンスを目撃するという経験もしています。ピート・ブラウン・バタード・オーナメンツのエディンバラ・フェスティバルでの演奏にも参加。さらに、元コロシアムのギタリスト、ジム・ローチェらが結成したボリスに加入し、その型破りでエネルギッシュなパフォーマンスを展開しました。1971年にザ・ミュージック・インプロヴィゼーション・カンパニーを脱退後、自身のグループ、ヘヴィ・アフリカン・エンヴェロープを率いて演奏活動を本格化させます。また、アサガイへの参加を通じてアラン・ゴーウェンらと出会い、1972年にはサンシップを結成しました。
そして1972年4月、彼のキャリアにおける最も広く知られる時期が訪れます。キング・クリムゾンのリーダー、ロバート・フリップから誘いを受けたミューアは、ジャムセッションを経てバンドへの加入を決意します。彼はアルバム『太陽と戦慄』（Larks' Tongues in Aspic、1973年）の制作に参加し、それまでのキング・クリムゾンにはなかった予測不能でプリミティブなパーカッションと打楽器によって、バンドのサウンドに革新的な変化をもたらしました。彼の貢献は、この時期のキング・クリムゾンのライブパフォーマンスにおいても極めて重要な要素でした。
しかし、彼のキング・クリムゾンでの活動は長くは続きませんでした。インドの宗教家パラマハンサ・ヨガナンダの著書『あるヨギの自叙伝』を読んで精神的な深い影響を受けたミューアは、音楽活動からの離脱と仏教への帰依を決意します。1973年、彼はキング・クリムゾンのマネジメントに脱退を申し入れ、音楽シーンから姿を消し、比丘となりました。その後、1980年頃までスコットランド、フランス、インドなどを巡り、仏教の修行に専念する日々を送りました。
仏教修行から帰国後、友人の勧めもあり音楽の世界に戻ったミューアは、再び即興音楽の分野で活動を開始します。特にデレク・ベイリーやエヴァン・パーカーといったかつての盟友たちといくつかの共演作を発表しました。1983年には、デヴィッド・カニンガムからの依頼で、マイケル・ジャイルズらと共にケン・マクマラン監督の映画『Ghost Dance』のサウンドトラック制作にも参加しています。このサウンドトラックは1995年にCDとして発売されました。
1980年代前半には、デレク・ベイリーとの共作アルバムや、ベイリーが率いるカンパニーのアルバムのアートワークを手掛けるなど、視覚芸術の分野でも才能を発揮し始めます。そして1980年代末に渡米する際、シーケンサーなど一部の機材を除いて多くの楽器を売却。この時期から、音楽活動から絵画制作へと活動の中心を移し、画家として新たなキャリアを歩み始めたのです。
ジェイミー・ミューアは、その生涯を通じて既成概念にとらわれない表現を追求しました。即興音楽における独特の打楽器アプローチ、キング・クリムゾンに残した強烈なインパクト、そして音楽から絵画への大胆な転身。彼の多様なキャリアと芸術への真摯な姿勢は、多くの人々に影響を与えました。2025年2月17日、彼は英国のコーンウォールにて、82歳で静かにこの世を去りました。
主なディスコグラフィ：
キング・クリムゾン
太陽と戦慄（Larks' Tongues in Aspic）(1973年)
The Beat Club Bremen 1972 (1999年)
Live At The Zoom Club 1972 (2002年)
Live In Guildford 1972 (2003年)
その他
ザ・ミュージック・インプロヴィゼーション・カンパニー : ザ・ミュージック・インプロヴィゼーション・カンパニー (The Music Improvisation Company) (1970年)
ザ・ミュージック・インプロヴィゼーション・カンパニー : 1968-1971 (1976年)
デレク・ベイリー、ジェイミー・ミューア : Dart Drug (1981年)
カンパニー : Trios (1986年)
Richard Strange & The Engine Room : Going, Gone (1986年)
マイケル・ジャイルズ、ジェイミー・ミューア&デヴィッド・カニンガム : ゴースト・ダンス (Ghost Dance) (1995年) ※1983年録音
エヴァン・パーカー : The Ayes Have It (2001年) ※1983年の演奏
Laurie Scott Baker : Gracility (2009年) ※キング・クリムゾン加入以前のライブ音源
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