ジェゼロ

ジェゼロ（Jezero）は、火星の大シルチス台地、北緯18.855度、東経77.519度に位置する直径およそ49キロメートルのクレーターです。その名称は、2007年にボスニア・ヘルツェゴビナにあるイェゼロという町にちなんで命名されました。興味深いことに、この「イェゼロ」という言葉は、チェコ語やボスニア語、クロアチア語など、多くのスラブ諸語で「湖」を意味しています。

このクレーターが特に注目されるのは、火星の過去における水の存在、ひいては生命の可能性を示唆する有力な証拠が数多く見つかっているためです。特に、クレーター内に広がる三角州状の堆積物は、かつてここに大量の水が流れ込み、湖を形成していたことを強く示唆しています。この三角州は、その形成に百万年から千万年という長い時間を要すると考えられており、比較的長期間にわたって水が存在し続けた環境があったことを示唆します。また、マーズ・リコネッサンス・オービターなどの観測により、クレーター周辺から粘土鉱物が検出されていることも、過去の水の存在を示す重要な証拠です。

研究により、このクレーターには少なくとも二度、水の存在期があったことが示されています。北部と西部には、それぞれクレーター内に流れ込む河川の痕跡があり、どちらにも水の流れによって形成されたとみられる三角州に似た地形が見られます。クレーターが比較的大きな直径を持つことから、かつてはかなりの深さがあったと推測されていますが、現在のクレーター底には厚い堆積物が積もっており、その厚さは1キロメートルにも及ぶと見積もられています。この堆積物の大部分は、かつて存在した河川によって外部からもたらされた土砂であると考えられています。

このような地質学的特徴から、ジェゼロは火星における生命の痕跡を探す上で極めて重要な場所と位置づけられました。かつてはMSL（マーズ・サイエンス・ラボラトリー）ミッションの着陸候補地としても検討されていましたが、最終的にNASAの次期火星探査ミッションであるマーズ2020の着陸地点として選定されることが、2018年11月に発表されました。マーズ2020ミッションの主要な目的の一つは、まさにこのような古代に水が存在した環境において、かつて生命が存在した可能性を示す証拠（バイオシグネチャー）を探索することにあります。探査機の安全な着陸のためには、直径20キロメートル程度の平坦で障害物の少ない地形が必要とされましたが、ジェゼロはその条件を満たしつつ、地質学的に非常に価値の高い堆積層が調査できる場所として期待されました。そして、2021年2月18日、マーズ2020探査機は無事にジェゼロ・クレーターへの着陸を果たし、現在も生命の痕跡や過去の火星環境に関する探査活動を続けています。

もう一度検索