ジナイダ・ユスポヴァ

ジナイダ・ニコラエヴナ・ユスポヴァ公女の生涯

ジナイダ・ニコラエヴナ・ユスポヴァ（1861年9月2日 - 1939年11月24日）は、ロシアの名門貴族ユスポフ家の最後の男系子孫として生まれました。彼女は、グリゴリー・ラスプーチンの殺害者として知られるフェリックス・ユスポフの母親でもあります。

生い立ちと家柄

ジナイダは、タタールの雄エディゲの血を引くユスポフ家の最後の男系子孫として生まれました。父ニコライ・ユスポフ6世はニコライ1世の下で大法官を務め、母タチアナはグリゴリー・ポチョムキンの姪を母に持つ名門貴族出身でした。ユスポフ家は広大な領地と多くの宮殿、工場、鉱山、油田を所有する名門であり、ジナイダ自身もネフスキー大通りに巨大な宮殿を所有していました。彼女は、その莫大な財産から、ロシア貴族社会で最も裕福な女性相続人として知られていました。

結婚と家族

ジナイダは、モスクワ総督ニコライ・スマローコフ＝エルストンの息子フェリックス・スマローコフ＝エルストン伯爵と結婚しました。1891年に義父が亡くなると、アレクサンドル3世によってフェリックスがスマローコフ＝エルストン家の遺産を相続することを許されました。フェリックスは後にセルゲイ・アレクサンドロヴィチ大公の副官に任命され、1914年にはモスクワ総督に就任しています。

社交界での活躍とラスプーチンへの批判

ジナイダは、帝政ロシア末期の貴族社会において、その美貌と惜しみない豪華なもてなしで非常に有名でした。また、公の場ではないものの、ニコライ2世の妻であるアレクサンドラ皇后に対して厳しい批判を繰り返していました。皇后の実姉でエリザヴェータ・フョードロヴナ大公妃の親友であり、ラスプーチンを信頼しないように忠告したため、ラスプーチンからは「危険人物」と見なされました。彼女には二人の息子がいましたが、長男ニコライは決闘で亡くなり、その後の彼女の人生に暗い影を落としました。

亡命生活と晩年

二月革命後、ジナイダは夫と共にローマで亡命生活を送りました。夫の死後はパリに移り住み、その地で生涯を閉じました。

宝石コレクション

ジナイダは、ロマノフ家以上の富を持つユスポフ家の一員として、莫大な財産と歴史的価値のある宝石を多数所有していました。彼女のコレクションには、21のティアラ、255のブローチ、42のブレスレットなど、数十万点の宝石が含まれていました。特に有名なものとしては以下のようなものがあります。

ラ・ペレグリナ・パール: 16世紀に作られた真珠。
ポーラー・スター・ダイヤモンド: 41.28カラットのダイヤモンド。
ラ・リージェント・パール: 世界で5番目に大きい真珠。
ラム・ヘッド・ダイヤモンド: 17.47カラットのダイヤモンド。
スルタンのモロッコ・ダイヤモンド: 35.67カラットで、世界で4番目に大きいダイヤモンド。
マリー・アントワネットのダイヤモンド・イヤリング: 234.59カラットのイヤリング。
サファイアのブルー・ヴィーナス像: サファイアで作られた像。
ルビー・ブッダ: 70カラットのルビーで作られた仏像。

これらのコレクションと金融財産は、ロシア脱出の際に大部分を放棄せざるを得ませんでした。ジナイダは、革命が収束してロシアに帰国できることを期待し、モイカ宮殿の秘密金庫にコレクションを隠しましたが、全てボリシェヴィキに発見され、1925年に売却され、散逸しました。脱出の際に持ち出した宝石も、亡命生活での困窮のため、自身や息子一家のために全て売却しました。

出典

* 息子ユスポフの回想録（1952年出版）ISBN 1-885586-58-2

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