ジミー・マクラーニン

ジミー・マクラーニン（Jimmy McLarnin、1907年 12月19日 - 2004年 10月28日）は、アイルランドのベルファストに生まれ、主にアメリカ合衆国で活躍した元プロボクサーです。ウェルター級の世界チャンピオンとしてその名を刻み、1930年代という、米国が世界恐慌の渦中にあった困難な時代に、その圧倒的な強さと鮮やかなテクニックでボクシングファンを熱狂させました。当時のボクシング界において、彼はしばしば全階級を通じて最強との評価を受けるほどの存在でした。

幼少期に貧困から逃れるため、一家はカナダへ移住します。定住したバンクーバーで、少年期のジミーはボクシングという競技に出会いました。彼の非凡な才能を見抜いたのは、父親の友人であった漁師の網元、ポップ・フォスターという人物です。フォスターはマクラーニンの育成を決意し、自らボクシングジムを開設するなど、彼のキャリア形成に深く関わります。こうして、1923年、わずか15歳でフライ級のプロボクサーとしてリングに上がることになります。

より大きなチャンスを掴むため、マクラーニンはフォスターと共にアメリカ合衆国、サンフランシスコへと拠点を移します。当時、米国は世界恐慌の真っただ中にあり、多くの人々が職を失い、ボクシング界もまた、試合の機会を求める選手であふれかえっていました。しかし、フォスターは持ち前の才覚を活かし、次々とマクラーニンの試合を成功させます。そして、マクラーニン自身もまた、弛まぬ努力と実力で頭角を現し、次第に西海岸における人気ボクサーとしての地位を確立していきました。

フォスターのマクラーニンに対する献身は並々ならぬものがありました。生涯独身であったフォスターは、血縁関係こそありませんでしたが、実の父親以上の愛情をもって彼を支え続けたと言われています。自身の最期には、遺産としてマクラーニンに20エーカーもの広大な土地を遺したという、師弟の絆を示すエピソードも伝えられています。

マクラーニンのファイトスタイルは、低い姿勢から繰り出される強力な右パンチと、相手の攻撃を巧みにかわす防御技術に特徴がありました。プロ入り後、彼はその才能をいかんなく発揮します。1925年7月4日には、当時世界フライ級王座を獲得したばかりだった「小さな巨人」パンチョ・ビラと対戦し、判定勝ちを収めるという大きな実績を挙げました。また、ジャッキー・フィールズやベニー・レナードといった、かつて世界王者に輝いた経験を持つ実力者たちからも価値ある勝利を奪い、その評価をさらに高めていきました。

そして、1933年5月29日、ロサンゼルスで行われた試合で、ヤング・コーベット3世をわずか1ラウンド2分37秒でノックアウトし、ついに念願の世界ウェルター級チャンピオンの座に就きました。

しかし、彼には生涯を通じて最大のライバルとなる強敵が現れます。それがバーニー・ロスでした。1934年5月28日、ロングアイランドで行われた初防衛戦の相手こそが、そのロスでした。この試合、マクラーニンはロスの猛攻に押され、判定負けを喫して王座を失います。同年9月17日、今度はマクラーニンが判定で勝利し、雪辱を果たして王座を奪回。しかし、翌1935年5月28日、三度目の対戦で再びロスに敗れ、王座を明け渡すこととなりました。この三度にわたる死闘は、ボクシング史に残る名勝負として語り継がれています。

ロスとの四度目の対戦については、マクラーニン自身は再挑戦の意思を持っていたようですが、ロス側が金銭的にあまりにも不利な契約条件を提示したため、実現には至らなかったと言われています。結局、マクラーニンの現役最後の試合は、1936年に元ライト級世界王者のルー・アンバースを下した一戦となりました。

引退後、マクラーニンはボクシング界から身を引き、会社経営などを手掛けたようです。比較的平穏な晩年を過ごしたとされており、2004年に96歳でその波乱に満ちた生涯を終えました。

彼のプロボクサーとしての通算戦績は、68戦54勝（21KO）11敗3引分けという素晴らしい記録を残しています。ジミー・マクラーニンは、困難な時代にあって、その不屈の精神と類稀なる才能で多くの人々に希望と興奮を与えた、伝説的なチャンピオンとして記憶されています。

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