ジャアファル・サーディク

ジャアファル・アッ＝サーディク：シーア派教義の確立者

ジャアファル・アッ＝サーディク（702年 - 765年）は、シーア派イマーム派の第6代イマームであり、「信に値する者」を意味するアッ＝サーディクの名で知られています。彼はクーファを拠点に活動し、神学と法学において卓越した知識を示しました。彼の法判断は、後のシーア派法学におけるジャアファル法学派の基礎となり、イマーム派シーア派の教義を確立した重要な人物とされています。

生涯

ジャアファルは702年4月20日にマディーナで生まれました。父は第5代イマームのムハンマド・アル＝バーキルであり、預言者ムハンマドの直系の子孫にあたります。また、母方の祖父は初代正統カリフのアブー・バクルです。

幼少の頃から祖父や父のもとで学び、イスラーム諸学に通暁しました。ハディース、スンナ、クルアーンに加え、自然科学、数学、哲学、天文学、解剖学、化学など、幅広い分野に精通していました。有名な化学者ジャービル・イブン・ハイヤーンも彼の弟子の一人です。ジャアファルは学問に対する寛容さで知られ、異なる信仰や信条を持つ学者との議論を積極的に行いました。

シーア派教義の確立

ジャアファルは知性と理性（アクル）を重視し、それは法学だけでなく、シーア派の教義や政治思想にも影響を与えました。彼は、ムスリムを導く指導者には知識と理性が不可欠であると考え、預言者ムハンマドの没後、その知識はアリー家に受け継がれるとしました。これにより、アリー家の無謬のイマームが共同体を指導するという、シーア派イマーム派の根本教義が確立されました。

ウマイヤ朝とアッバース朝の下で

ジャアファルは激動の時代を生き、ウマイヤ朝とアッバース朝という二つの王朝の下で活動しました。ウマイヤ朝時代には、シーア派信徒は反乱軍と見なされ、ジャアファルの親族も多くが迫害を受けました。アッバース朝が成立すると、ジャアファルはムハンマドの子孫としてカリフ位を継承する権利を持つと見なされ、警戒と監視の対象となりました。彼は迫害に耐えながらも、研究と著述を続けました。

ジャアファルは765年12月4日に亡くなりました。毒殺されたという説もあり、シーア派では殉教者として尊ばれています。彼の遺体はマディーナのジャンナトゥル・バキー墓地に埋葬されました。

イマーム位継承をめぐる分裂

ジャアファルの死後、イマーム位の継承をめぐって、十二イマーム派とイスマーイール派に分裂しました。イスマーイール派はジャアファルの長男イスマーイールを後継者としましたが、十二イマーム派はイスマーイールの弟ムーサー・カーズィムを後継者としました。この分裂により、イスマーイール派は袂を分かち、現在に至っています。

現代における評価・意義

イランやイラクで主要な位置を占める十二イマーム派シーア派は、ジャアファリー派とも呼ばれています。これは、ジャアファル・アッ＝サーディクがこの宗派において非常に重要な人物であることを示しています。モルタザー・モタッハリーは、ジャアファルの時代を3代目イマーム・ホセインの時代と比較することで、彼が政治的に穏健な立場に終始した理由を説明しています。ホセインが圧政的なウマイヤ朝に果敢に挑んで殉教したのに対し、ジャアファルは叛旗を翻すことなく、弟子たちの教育に専念しました。これは、当時の知的環境が大きく異なり、知識・思想・教育による指導がより重要であったためです。

ジャアファルの政治的な沈黙は、シーア派共同体全体の利益のためであり、彼によって今日のシーア派の基盤が築かれたと言えます。彼の学識は、スンナ派の学者からも賞賛されており、その影響は現代に至るまで及んでいます。

格言

知なくしてことを難ずる者は、自らの鼻を落とす者である。
知は信仰者の導きである。
* 知は3つのものによって完成する。すなわち神への屈従、善なる確信、善ならざることについての沈黙である。

逸話

ある者がジャアファルに神を見せよと頼んだ。イマームは「太陽を見よ」と答えた。男が「太陽を見ることができない」と言うと、ジャアファルは「被造物すら見ることができないのに、どうして創造主を見ようとするのか」と言った。

ジャアファル・アッ＝サーディクは、その学識と教義の確立によって、シーア派思想に多大な影響を与えた人物として、今も深く尊敬されています。

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