ジャカ・ガンボ

ジャカ・ガンボ（J̌aqa Γambo、生没年不詳 - 1328年?）は、13世紀初頭にモンゴル高原で勢力を持ったケレイト部族の有力な王族であり、部族長であったオン・カン（トオリル）の弟にあたります。彼の生涯は、モンゴル帝国を建国するチンギス・カン（テムジン）との密接かつ複雑な関係の中で展開し、特にその娘たちの結婚を通じて、その後のモンゴル帝国の歴史に計り知れない影響を与えました。

『集史』によれば、ジャカ・ガンボの本名はケレイテイと伝わっています。これは「ケレイト人出身の者」を意味する言葉です。彼はクルチャクス・ブイルク・カンの息子として生まれましたが、若い頃に西夏を建国したチベット系民族であるタングートの捕虜となった経験があります。そのタングートの地で、「ジャカ・ガンボ」という名が与えられたと考えられています。この名前はチベット語に由来し、「広大な」を意味する「rGya」と、「完成した者」や「覚者」を意味する「sgam-po」が組み合わさった名称と見られています。

兄であるオン・カンは、部族長としての地位を確固たるものとするために、多くの弟たちを謀殺するという苛烈な手段を取りました。しかし、ジャカ・ガンボは例外的に生き残ることを許され、オン・カンのもとで有力な王族として活動を続けました。『元朝秘史』には、テムジンがジャムカらと共にメルキト部を討伐する際にオン・カンに支援を求めた際、オン・カンとジャカ・ガンボがそれぞれ1万の兵を率いて参加したことが記されており、当時の彼の地位の高さがうかがえます。

テムジン率いるモンゴル勢力が台頭し、兄オン・カンとの関係が悪化すると、ジャカ・ガンボは比較的早い段階でテムジンのもとに身を寄せ、友好的な関係を築きました。テムジンがオン・カンとの戦いに勝利しケレイト部を征服した際、多くのケレイト部民がテムジンの親族や功臣に分配・帰属させられましたが、ジャカ・ガンボとその一族は例外的にその存続を許されました。この時、ジャカ・ガンボは娘たちをチンギス・カンとその息子たちに嫁がせています。娘のイバカ・ベキはテムジンの妃となり、ベクトゥトミシュは長男ジョチに、そして特に重要なソルコクタニ・ベキは末子トルイに嫁ぎました。

しかし、その後ジャカ・ガンボはテムジンから離反するという行動に出ました。このため、ウルウト族の族長であったジュルチェデイによって生け捕りにされてしまいます。この功績により、ジュルチェデイはかつてジャカ・ガンボの娘であり、テムジンの妃であったイバカ・ベキを下賜され、妻としています。

ジャカ・ガンボ自身は捕縛されるという結末を迎えましたが、その娘たちの結婚、特にソルコクタニ・ベキがトルイに嫁いだことは、モンゴル帝国のその後の歴史に決定的な影響を与えました。チンギス・カンの死後、第2代カアンにはオゴデイが即位しましたが、後にソルコクタニ・ベキとトルイの子であるモンケが第4代カアンに、そしてその弟であるクビライが第5代カアンとなりました。これにより、以降のモンゴル帝国のカアン位は、ジャカ・ガンボの血筋、すなわちソルコクタニ・ベキの子孫であるトルイ家から輩出されるのが慣例となったのです。このため、ジャカ・ガンボはモンケ、クビライ、イルハン朝の初代君主となるフレグ、そしてアリクブケといった、モンゴル帝国史上極めて重要な人物たちの祖父にあたる存在として、その名を歴史に刻んでいます。

ジャカ・ガンボの娘たちとしては、前述のイバカ・ベキ（チンギス・カン、後にジュルチェデイの妻）、ソルコクタニ・ベキ（トルイの妻）、ベクトゥトミシュ（ジョチの妻）のほか、オングト族長の妻となった娘もいたと伝えられています。彼の生涯は、モンゴル帝国勃興期の複雑な政治状況、部族間の抗争、そして婚姻による血縁関係が、いかに王朝の運命を左右したかを示す一例と言えるでしょう。

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