ジャガー・マークVII/VIII/IX

ジャガー・マークVII/VIII/IX：戦後英国を象徴する高級サルーンの系譜

ジャガー・マークVII/VIII/IXは、1950年から1961年にかけて、英国ジャガー社が製造した大型高級乗用車です。そのエレガントなデザインと卓越した性能は、戦後復興期の英国自動車産業を象徴する存在として、高く評価されました。本稿では、それぞれのモデルの特徴と歴史を詳しく見ていきます。

マークVII：革新と伝統の融合

1950年、ロンドンモーターショーでデビューしたマークVIIは、先代のマークVのシャシーを踏襲しながらも、内外装ともに大幅な近代化が図られました。マークVIが存在しない理由については諸説ありますが、高性能版マークV計画の中止、あるいはライバルであるベントレーのマークVII発表への対抗策という説が有力です。

特徴的なのは、フェンダーとヘッドライトを車体に完全に統合した幅広のボディです。リアオーバーハングを延長することでトランクスペースも拡大し、ふくよかなフェンダーラインを残しつつもモダンな雰囲気を醸し出しています。このデザインは、ジャガーのオーナーであったウィリアム・ライオンズの審美眼と、アメリカ市場への輸出を意識した結果と言えるでしょう。

搭載されたのは、XK120スポーツカーと共通の直列6気筒DOHC 3,442cc XKエンジンです。160hp/5,500rpm、27.0kgm/2,500rpmという高出力は、当時としては画期的でした。1,676kgという車重にもかかわらず、最高速度168km/hを達成。英国自動車雑誌『ザ・モーター』のテストでは、最高速101mph(約163km/h)、0-60mph加速13.1秒という記録を残し、現代でも通用する動力性能を持っていました。

ブレーキにはサーボアシスト付きドラムブレーキを採用。新車価格は£1693と、性能を考えると割安であり、ジャガー車の伝統を守っていました。1954年のマイナーチェンジまでに20,908台が生産され、その多くはアメリカへ輸出されました。モータースポーツでも活躍し、シルバーストン・サーキットのプロダクションツーリングカーレースで5年連続優勝を達成するなど、その性能の高さを証明しました。1953年には、ジャガー初のボルグワーナー製3速オートマチックトランスミッションがオプション設定されました。

マークVII M：更なる進化

1954年、マークVII Mが登場。Mはモディファイの意です。XK120 SEエンジンを搭載し、圧縮比の向上により出力は190hp/5,500rpm、28.1kgm/3,000rpmに高まりました。最高速度は104mph(約167km/h)に到達。ボルグワーナー製3速オートマチックトランスミッションは、英国国内でも注文可能となりました。外観上は、ヘッドライト下の補助ランプがホーングリルに変更され、バンパーの形状も変更されています。

トランスミッションのクロスレシオ化も図られ、1956年のモンテカルロラリー優勝など、モータースポーツでの活躍も継続しました。第二次中東戦争によるガソリン危機の影響を受けながらも、2年間で10,061台が生産されました。

マークVIII：更なる高級感を追求

1956年、マークVIIIが登場。内装はウッドと革をふんだんに使用し、より豪華さを増しました。外観ではフロントグリルとフロントガラスのデザインが変更され、エンジン出力も210hpに強化、最高速度は106mph(約170km/h)に到達しました。1959年までに6,227台が生産されました。

マークIX：ディスクブレーキとパワーステアリングの採用

最終モデルであるマークIXは1958年10月に登場。XKエンジンは3,781ccに排気量アップされ、220hp/5,500rpm、33.2kgm/3,000rpmという高い出力を実現しました。ダンロップ製四輪ディスクブレーキとパワーステアリングが標準装備され、最高速度は183km/hに達しました。『ザ・モーター』誌のテストでは、最高速度114.4mph(約184km/h)、0-60mph加速11.3秒を記録しました。スライド式サンルーフが標準装備となり、2トーンカラーも選択可能になりました。1961年までに10,005台が生産されました。

日本におけるマークVII/VIII/IX

日本にも輸入されましたが、マークVIII/IXの時代には輸入制限が厳しくなり、駐留米軍関係者や外交官などが主なオーナーでした。旺文社創業者の赤尾好夫氏や、美学者でクラシックカー収集家として知られた濱徳太郎氏などが、日本人オーナーとして知られています。濱氏は、このシリーズについて「スポーツ的であり、街の車でもあり、クラシックなところを持ちながらやはり現代の車だ。若い人に人気があり乍ら、私たちにも使える。こんなところが面白い」と評しています。

ジャガー・マークVII/VIII/IXは、その高性能と優雅なデザインで、戦後英国の自動車産業を象徴する存在として、自動車史にその名を刻みました。そして、日本においても、希少な存在として、多くの愛好家によって大切に受け継がれています。

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