ジャック・デンプシー

ジャック・デンプシー：伝説のヘビー級ボクサーの生涯

ジャック・デンプシー（本名：ウィリアム・ハリソン・デンプシー、1895年6月24日 - 1983年5月31日）は、アメリカ合衆国出身のプロボクサーであり、元世界ヘビー級王者です。その強烈なパンチとアグレッシブなスタイルは、当時のボクシング界に大きな衝撃を与え、今日に至るまで多くのファンを魅了し続けています。

生い立ちと初期のキャリア

1895年、コロラド州マナッサで、モルモン教徒の貧しい家庭に13人兄弟の9番目として生まれました。父親は職を転々とする飲んだくれで、家族は度々移住を繰り返しました。デンプシーは小学校卒業後、家計を助けるために16歳で家を出て、鉱山労働などをしながら放浪生活を送ります。その過程で、酒場で賭け喧嘩をして金を稼ぐようになり、「キッド・ブラッキー」という偽名を使って試合をしていました。

1914年、コロラド州での試合で初めて「ジャック・デンプシー」の名前を使い始めます。この名前は、1880年代に活躍したミドル級のチャンピオン、ジャック・デンプシーにあやかったものでした。

「トレドの惨劇」と世界王座獲得

1919年7月4日、デンプシーはオハイオ州トレドで、当時の世界ヘビー級王者ジェス・ウィラードに挑戦します。この試合は、初回からデンプシーが圧倒的な攻撃を繰り広げたため、「トレドの惨劇」としてボクシング史に残る凄惨な試合となりました。デンプシーは初回に7度もダウンを奪い、ウィラードは顎や肋骨を骨折し、片耳の聴力を失うほどの重傷を負いました。最終的にウィラードが4回開始のゴングに応じることができず、デンプシーがTKO勝利で世界王座を獲得しました。

しかし、この試合の後、ウィラードはデンプシーがナックルダスターのような不正な武器を使用していたと告発します。また、デンプシーのマネージャーだったジャック・カーンズも、後に石膏のバンテージを使用していたと証言したことで、試合の不正疑惑は長年議論の的となりました。

世界王者としての活躍

王座獲得後、デンプシーはサーカスの巡業や映画出演などを行い、人気を博しました。1920年には兵役逃れの疑いで裁判にかけられ、最初の妻と離婚しています。

1921年、フランスの英雄ジョルジュ・カルパンチェと防衛戦を行います。この試合は、カルパンチェの優雅なスタイルが人気を集めましたが、デンプシーが4回KO勝ちを収めました。この試合の観客動員数は91,000人、総入場料は史上初の100万ドル超を記録しました。

1923年には、アルゼンチンのルイス・アンヘル・フィルポと対戦。デンプシーはフィルポを圧倒し、2回KO勝利を収めました。

王座陥落と「ロングカウント事件」

1926年、デンプシーは格下と見られていたジーン・タニーに判定負けを喫し、王座を失います。

1927年、タニーとの再戦が行われました。この試合でデンプシーは7回にタニーからダウンを奪いますが、ルール改正によってニュートラルコーナーへ行くことを忘れ、レフェリーのカウントが中断されました。この間にタニーは回復し、最終的にデンプシーは再び判定負けを喫しました。この試合は「ロングカウント事件」としてボクシング史にその名を刻んでいます。

引退後の生活

タニーとの再戦後、デンプシーは現役を引退しますが、その後もエキシビションを続けました。また、カジノ経営やレストラン経営などにも携わりました。第二次世界大戦中には、沿岸警備隊に所属し、沖縄戦にも参加しています。

1983年5月31日、ニューヨークで心不全のため87歳で死去。その生涯は、ボクシング界のみならず、アメリカの歴史においても重要な位置を占めています。

プレースタイルと人物像

デンプシーは、前傾姿勢で相手に突進し、体重を乗せた強烈なパンチを繰り出すスタイルで知られていました。特に「デンプシー・ロール」と呼ばれる、上体を∞の字に動かしながら連打を浴びせる独自の戦法は、多くのボクサーに影響を与えました。

デンプシーは、そのアグレッシブな戦い方だけでなく、波乱万丈な人生を送ったことでも知られています。兵役逃れや不正疑惑、ギャングとの関わりなど、多くのスキャンダルにも見舞われましたが、その一方で、多くの人々に愛された魅力的な人物でした。

戦績

プロボクシング：83戦 62勝 50KO 6敗 9引分け 6無効試合

脚注

世界ボクシング協会世界王者一覧
国際ボクシング名誉の殿堂博物館
世界ボクシング殿堂
ジャック・デンプシー (ミドル級)
ジョシュ・ゴームレイ（ジョジー・デンプシー）
デンプシー・ロール

外部リンク

* ジャック・デンプシーの戦績 - BoxRec（英語）

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