ジュネーヴ学派

ジュネーヴ学派：言語学と文学批評の潮流

ジュネーヴ学派は、20世紀の言語学と文学批評において重要な役割を果たした、スイスのジュネーヴを拠点とした学術グループです。その活動は、言語学と文学批評の2つの主要な分野にまたがっています。

ジュネーヴ言語学派

言語学の分野において、ジュネーヴ学派は、著名な言語学者フェルディナン・ド・ソシュールの影響を強く受けました。ソシュール自身はジュネーヴ大学で教鞭をとっていましたが、彼の死後、その思想を受け継いだ言語学者たちがジュネーヴ大学を中心に集まり、独自の学問的活動を展開していったのです。

この学派の創始期を担ったのは、シャルル・バイイとアルベール・セシュエです。彼らは1916年にソシュールの死後講義録である『一般言語学講義』を出版し、ソシュールの理論を広く知らしめることに貢献しました。その後も、1922年にはソシュールの論文集の出版なども行われました。

ジュネーヴ学派の代表的な言語学者としては、以下の名前が挙げられます。

シャルル・バイイ (1865-1947)
アルベール・セシュエ (1870-1946)
セルゲイ・カルツェフスキー (1884-1955): プラハ学派にも所属し、ソシュールの理論をプラハに伝えた重要な人物です。
アンリ・フレエ (1899-1980)
ロベール・ゴデル (1902-1984): ジュネーヴ学派の主要な言語学的主張をまとめた『A Geneva School Reader in Linguistics』の著者です。
ルイス・ホルヘ・プリエト (1926-1996)

ルドルフ・エングラー (1930-2003) もジュネーヴ学派に関連付けられることがありますが、彼はジュネーヴ大学で活動していなかった点が異なります。

1940年には、バイイらによってジュネーヴ言語学会が設立され、機関誌『カイエ・フェルディナン・ド・ソシュール』が1941年から刊行されました。この学会は1956年に解散しましたが、『カイエ』はフレエを中心にその後も継続して刊行されています。

ジュネーヴ言語学派は、ソシュールの影響を受けながらも、必ずしも統一された主張を持っていたわけではありません。それぞれの言語学者が、ソシュールの理論を独自に解釈し、発展させていったことが特徴と言えるでしょう。ゴデルの『A Geneva School Reader in Linguistics』は、この学派の多様性と奥深さを示す重要な文献となっています。

ジュネーヴ文学批評グループ

一方、文学批評の分野においても、「ジュネーブ・スクール(groupe de Genève)」と呼ばれるグループが存在しました。これは1950年代から1960年代に活動した、フランス語圏の文学評論家たちの集まりです。

このグループは、ロシア形式主義と現象学、特にエドマンド・フッサールの思想に影響を受けました。彼らは現象学的な手法を用いて、文学作品を分析しました。特に、作家自身の意識や作品の内奥に潜む深層構造に注目し、詳細な解釈を試みました。

このグループを代表する評論家としては、以下の名前が挙げられます。

ジョルジュ・プーレ (Georges Poulet): ベルギー出身の評論家
ジャン＝ピエール・リシャール (Jean-Pierre Richard): フランス出身の評論家
マルセル・レイモンド (Marcel Raymond): スイス出身の評論家
アルバート・ベギン (Albert Béguin): スイス出身の評論家
* ジーン・ラセット (Jean Starobinski): スイス出身の評論家

さらに、エミール・スタイガー、ガストン・バシュラール、J・ヒリス・ミラーなども、このグループに関連付けられることがしばしばあります。

ジュネーヴ言語学派と文学批評グループは、それぞれ異なる分野で活動していましたが、いずれも20世紀のフランス語圏の学問に大きな影響を与えました。その活動は、今もなお研究者たちの関心を集め続けています。

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