リーチオ・ジェッリ

リーチオ・ジェッリの生涯：暗躍と疑惑に満ちた人物

リーチオ・ジェッリ（Licio Gelli）は、20世紀のイタリアにおいて、その名が数々のスキャンダルと陰謀に結びついた人物です。極右政治家、実業家、そしてフリーメイソン「ロッジP2」の代表として、彼はイタリアの政治、経済、そして国際関係に深い影を落としました。

若き日のファシスト

1919年、トスカーナ州ピストイアの製粉業者の家庭に生まれたジェッリは、若い頃からその反抗的な性格を示していました。高校時代には教師への暴力事件を起こし退学処分を受けます。1930年代後半には、ムッソリーニ率いるファシスト党の「黒シャツ隊」に参加し、スペイン内戦ではフランコ政権を支援するために派遣されました。その後、ファシスト党ピストイア支部の幹部に抜擢され、第二次世界大戦中にはユーゴスラビアに派遣され、ドイツ空軍のゲーリング司令官に協力しました。またこの時期に、後にネオファシストとして知られるイタリア社会運動党（MSI）の共同創設者となるジョルジョ・アルミランテと出会っています。

二重スパイとしての活動

1943年、ムッソリーニが失脚しイタリアが連合国に降伏すると、ジェッリはサロ政権に協力する一方で、パルチザンにも協力するという二重スパイ的な行動をとりました。この行動が功を奏し、戦後、連合国による北イタリア解放後も、彼は過去を問われることなくピストイアに戻ることができました。

CIAとの関係と極右政党での活動

第二次世界大戦終結後、ジェッリはイギリスやアメリカの情報機関にスカウトされ、イタリア国内および周辺国での共産主義者に対する活動に協力しました。特にアメリカのOSS（後のCIA）とは、冷戦期を通じて密接な関係を維持しました。1946年には、ファシスト党の復権を目指す極右政党、イタリア社会運動党（MSI）の創設メンバーとして幹部となり、その活動を支えました。また、左派の動きを抑圧するための秘密作戦「グラディオ作戦」との関連も指摘されています。

ドイツ戦犯の逃亡幇助

ジェッリはベッドスプリングメーカー「ペルマフレックス」の管理職として表の顔を持ちながらも、裏ではドイツの戦犯容疑者の南米への逃亡を支援していました。その中には、ナチス親衛隊のクラウス・バルビーも含まれており、イギリスやアメリカの情報機関がその関与を知りながらも見逃していたという説もあります。

南米の軍事政権との関係

冷戦下、ジェッリはアルゼンチンのペロン大統領やパラグアイのストロエスネル大統領など、反共主義を掲げる南米の軍事政権と密接な関係を築きました。これらの国々への武器輸出や、軍事政権の顧問として活動していたドイツの戦犯容疑者たちも、彼の活動を助けていました。

ロッジP2の設立と暗躍

1963年、ジェッリはフリーメイソンのグランド・ロッジ「イタリア大東社」への入会を拒否されましたが、1965年に「ロッジP2」に入会し、1970年にはその代表となりました。ロッジP2は、冷戦下で反共産主義を掲げるイタリアの右派政治家、軍人、実業家、そして南米の軍事政権関係者などをメンバーに抱え、秘密結社として活動しました。その活動は、武器取引、南米軍事政権への支援、そしてボローニャ駅爆破事件などのテロ活動への関与が疑われています。

バチカン銀行との関与とヨハネ・パウロ1世の「暗殺」疑惑

ジェッリはバチカン銀行の顧問弁護士であったミケーレ・シンドーナと関係を結び、バチカン銀行とアンブロシアーノ銀行を通じたマネーロンダリングに関与しました。1978年、ヨハネ・パウロ1世が教皇に就任すると、彼はバチカン銀行の調査とマルチンクス大司教の解任を指示しましたが、そのわずか33日後に急死しました。この突然の死は、ジェッリやマルチンクス大司教らによる暗殺ではないかという疑惑が広まっています。

ボローニャ駅爆破事件とP2事件

1980年、ボローニャ駅爆破事件が発生し、多くの死傷者を出しました。この事件には「ロッジP2」のメンバーが関与しており、ジェッリも捜査妨害に関与したとして有罪判決を受けています。1981年には、ジェッリの自宅から「ロッジP2」の会員リストが発見され、そのメンバーには政財界の有力者が多数含まれていることが明らかになりました。これは「P2事件」として、イタリア全土を揺るがす大スキャンダルとなりました。

カルヴィ暗殺事件

アンブロシアーノ銀行の頭取であったロベルト・カルヴィは、1982年にロンドンの橋の下で不審な死体となって発見されました。この事件は、当初自殺とされましたが、後に他殺と断定されました。ジェッリとマフィアがカルヴィの殺害に関与したという説が有力ですが、裁判では証拠不十分として無罪判決が下されています。

有罪判決と逃亡、晩年

ジェッリは、アンブロシアーノ銀行破綻に関する複数の罪で有罪判決を受けましたが、逃亡と逮捕を繰り返しました。晩年には、自伝的映画の権利を譲渡したり、メディアへの露出を続けました。2015年、96歳で死去しました。

リーチオ・ジェッリは、その生涯を通じて数々の疑惑に包まれ、イタリア社会に深い傷跡を残しました。彼の活動は、イタリアの政治史、経済史、そして犯罪史において、重要な研究対象となっています。

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