ジューン・クリスティ

ジューン・クリスティ：クール・[[ジャズ]]を体現した歌姫

ジューン・クリスティ（June Christy, 1925年 11月20日 - 1990年 6月21日）は、アメリカ合衆国出身のジャズ歌手。1950年代を代表する白人ジャズヴォーカリストの一人であり、アニタ・オデイ、クリス・コナーと共に「ケントン・ガールズ」として知られています。彼女の歌声は、ウエストコースト・ジャズの基調である「クール」を見事に体現し、スイング感と卓越した歌唱技術で、その後のモダン・ジャズ・ボーカルに大きな影響を与えました。

生い立ちと下積み時代

1925年、イリノイ州スプリングフィールドでシャーリー・ラスターとして生まれました。幼少期は両親の不仲に悩まされながらも、13歳で地元のビッグバンドの歌手として活動を始めます。1940年代初頭にはシカゴに移り、「シャロン・レズリー」の芸名で音楽活動を本格化させますが、なかなか芽が出ない下積み時代を送りました。第二次世界大戦中の1943年からは、モダン・ジャズ志向の強いボイド・レーバーン楽団に所属しますが、猩紅熱に罹患し、バンドを離れることになります。その後もベニー・ストロングのバンドなどで歌いますが、ビッグバンド全盛の時代、彼女の才能は埋もれたままでした。

スタン・ケントン楽団での飛躍

1945年、シャーリー・ラスターはオーディションを経て、ピアニストのスタン・ケントンが率いるビッグバンドに加入。この時、ケントンによって「ジューン・クリスティ」という芸名を与えられました。ケントン楽団は、モダンなスタイルを取り入れたことで人気を集め、1940年代後半にはウディ・ハーマン楽団と並び、モダン・ジャズ・ビッグバンドの代表格として知られるようになります。

ジューンはケントン楽団で、「タンピコ」などのポピュラー・ヒットを連発。スインギーな歌唱に加え、ケントンの前衛的な楽曲にも対応できる幅広い歌唱力を身につけました。1946年には、楽団の同僚であるテナー・サックス奏者のボブ・クーパーと結婚し、生涯を共にします。また、ケントン楽団には、ピート・ルゴロなど、後に彼女のソロ活動を支えることになる多くの西海岸ジャズ・ミュージシャンが在籍していました。

1949年、スタン・ケントンがバンドを一時解散し、療養のため南米へ。ジューンとボブ・クーパーはソロ活動を開始しますが、1950年にケントンがバンドを再結成すると、再び楽団に復帰しました。

ソロ活動と『サムシング・クール』

1951年、ジューンはケントン楽団を退団し、本格的なソロ活動を開始します。当初はポップ路線を試みますが、成功には至らず、ピート・ルゴロの支援を受け、ジャズ・ボーカルへと方向転換。これが功を奏し、彼女は一躍スターダムへと駆け上がります。

キャピトル・レコードからリリースされたファースト・ソロ・アルバム『サムシング・クール（Something Cool）』（1953年〜1955年録音）は、彼女の代表作として知られています。アルバムには、タイトル曲「サムシング・クール」や、「朝日のようにさわやかに」「ザ・ナイト・ウィー・コールド・イット・ア・デイ」などのスタンダードナンバーが収録されており、ピート・ルゴロが指揮・編曲を務めたウエストコーストの一流ミュージシャンによる演奏も聴きどころです。

特に、「サムシング・クール」は、ピアニストのビル・バーンズがショーのために書き下ろしたバラードで、ジューンはこの曲に感銘を受け、ルゴロの後押しもあって録音を実現。1954年にシングルとして発売された後、アルバムに収録され、ジャズ・アルバムとしては異例のヒットを記録しました。

『サムシング・クール』以後の活躍と晩年

『サムシング・クール』の成功により、ジューンは1950年代を代表する白人女性ソロシンガーとしての地位を確立します。キャピトルでは、『Misty Miss Christy』、『June's Got Rhythm』、『Ballad For Night People』など、数多くの優れたアルバムを制作。夫ボブ・クーパーやギタリストのアル・ヴィオラとの共演作もありますが、中でもピート・ルゴロ・オーケストラとの共演作は特に評価が高く、キャピトル時代の18枚のアルバムのうち、9枚がルゴロの編曲・指揮によるものでした。

しかし、その一方で、彼女はアルコール依存症に苦しみ、喉を痛めて歌唱力を大きく損なうことになります。1960年代半ばには第一線から退き、引退状態に入りました。1977年には日本のレコード会社の依頼でアルバムを録音しますが、往年の輝きを取り戻すことはできませんでした。

長年の飲酒が原因の腎臓病により、1990年 6月21日、カリフォルニア州シャーマン・オークスで生涯を閉じました。彼女の歌声は、今もなお多くの人々に愛され続けています。

もう一度検索