ジョチ・チャウルカン

ジョチ・チャウルカン：モンゴル帝国を支えたジャライル部族の英雄

ジョチ・チャウルカン（? - ?）は、13世紀初頭にチンギス・カンに仕え、モンゴル帝国の千人隊長となったトランギト・ジャライル氏族の人物です。漢文史料では「朔魯罕」、ペルシア語史料では「جوچی جاورقای」と記されています。

生い立ちとモンゴル帝国への服属

ジョチ・チャウルカンの出自であるジャライル部は、かつてモンゴル部と対立しましたが、最終的にはチンギス・カンの先祖であるカイドゥによって征服され、隷属民となりました。ジョチ・チャウルカンの先祖は、この時にカイドゥの捕虜となり、キヤト・ボルジギン氏の隷属民となったと伝えられています。

ジョチ・チャウルカンの父はコゴチャといい、チンギス・カンに仕えて常に先鋒を務める勇猛な人物でした。ジョチ・チャウルカンは、父の跡を継ぎ、チンギス・カンに仕えることになります。

チンギス・カンへの直訴と再登用

ジョチ・チャウルカンは、一時的に讒言によってチンギス・カンの信任を失い、謁見を許されなくなりました。しかし、彼は諦めずにチンギス・カンに直訴し、自身の潔白を訴えました。彼の言葉に心を動かされたチンギス・カンは、彼を許し、再び登用しました。1206年にモンゴル帝国が建国されると、ジョチ・チャウルカンは千人隊長に任じられ、『モンゴル秘史』の功臣表にも名を連ねました。

金朝遠征での活躍と最期

1211年にモンゴル帝国による金朝遠征が始まると、ジョチ・チャウルカンは緒戦の野孤嶺の戦いで流れ矢に当たりながらも奮戦し、金朝軍を打ち破るという大功を挙げました。しかし、戦後、矢を抜いたことが原因で出血多量となり、昏倒してしまいます。チンギス・カン自らが見舞いましたが、彼は再び立ち上がることができませんでした。チンギス・カンは、片腕とも言うべきジョチ・チャウルカンの死を深く悼み、その家族に手厚い褒賞を与えました。

子孫の繁栄

ジョチ・チャウルカンの死後、息子のテムデイが彼の地位を継ぎました。テムデイは、オゴデイ・カアンによって華北方面のタンマチ司令官に任ぜられ、これ以後、テムデイの家系は代々この軍団の司令官を務めるようになり、その名を歴史に残しました。

トランギト・ジャライル部族の系譜

コゴチャ
ジョチ・チャウルカン
テムデイ
アウルクチ
バイジュ
トゴン・ブカ
ジョチ・ダルマラ
クトクト
クトクダル
クンドゥカイ
イルゲイ
アルカン

ジョチ・チャウルカンは、モンゴル帝国の初期において、その建国と拡大に大きく貢献した英雄の一人です。彼の生涯は、モンゴル帝国の歴史を語る上で欠かすことのできない重要な要素と言えるでしょう。

参考文献
志茂碩敏『モンゴル帝国史研究 正篇』東京大学出版会、2013年
松田孝一「河南淮北蒙古軍都万戸府考」『東洋学報』68号、1987年
村上正二訳注『モンゴル秘史 2巻』平凡社、1972年
村上正二訳注『モンゴル秘史 3巻』平凡社、1976年

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