ジョン・ジャッド

ジョン・ジャッドは、1942年、第二次世界大戦中の空襲に見舞われたコヴェントリーで誕生しました。エンジニア一家に育ち、幼少期から機械いじりに親しんだ彼は、学校を卒業後、地元のコヴェントリー・クライマックス社に入社。見習い製図士としてキャリアをスタートさせます。同社から奨学金を得て大学に進学するなど、着実に技術を磨いていきました。

コヴェントリー・クライマックス社はF1エンジン供給も行っていたことから、ジャッドは若くしてF1エンジンのベンチテストに携わる機会を得ます。しかし、同社がF1からの撤退を決断したことを機に、彼は新たな道を歩むことになります。

1960年代半ば、F1ドライバーでもあったジャック・ブラバムと出会います。ブラバムは、オーストラリアのレプコ製エンジンを使用していましたが、信頼性向上を目指し、ジャッドに開発を依頼。ジャッドは、エンジン設計者フィル・アーヴィングと共にブラバムチームに所属し、レプコエンジンの開発に尽力しました。そして、ブラバムチームにドライバーズ、コンストラクターズ両タイトルの連覇をもたらす信頼性の高いエンジンを完成させました。

ブラバムチームがフォード・コスワース・DFVエンジンに切り替えた後も、ジャッドはブラバムと共に歩み続けます。1971年には、ブラバムと共同でエンジン・デベロップメント社（EDL）を設立しました。

EDL社では、主にDFVエンジンのチューニングを請け負い、ウィリアムズ、ロータス、ティレルなど数多くのF1チームにエンジンを供給しました。特にウィリアムズへのエンジン供給では、コスワース製DFVエンジンの潜在能力を最大限に引き出し、ケケ・ロズベルグのドライバーズチャンピオン獲得に貢献しました。ジャッドチューンによるDFVは、コスワースのオリジナルよりも大幅に馬力アップを果たし、その高い性能はF1界に大きな衝撃を与えました。

1970年代後半には、インディカー向けターボエンジンDFXの開発にも携わりました。さらに、ホンダとの協業を通じて、インディカー用V8エンジンの設計開発にも参画。ホンダの事情により計画は中止となりましたが、ジャッドは独自で開発を継続。ジャッドAVエンジンとしてインディカーに供給し、大きな成功を収めます。このエンジンは、その後F3000用、F1用エンジンへと発展を遂げました。

1980年代後半には、EDL社は「ジャッド」ブランドとして、F1へのエンジン供給を開始。マーチ、ウィリアムズ、リジェといったチームにエンジンを提供し、F1界に再び大きな影響力を持つことになります。この頃、ジャッドはザイテック製の燃料噴射システムを採用するなど、最新の技術を取り入れていました。

1990年代にはV10エンジンを開発し、スクーデリア・イタリア、ブラバムなどに供給。その後、ヤマハとの共同開発により、さらに高性能なエンジンを開発し、ティレルやアロウズに供給しました。しかし、ヤマハがF1から撤退したことで、ジャッドもF1から撤退することとなりました。

その後、ジャッドとEDL社はスポーツカーレースへと注力し続けました。マツダや童夢など、日本の自動車メーカーとも関係を持つなど、グローバルな活躍を続けました。

ジャッドの技術力は、コスワースのDFVエンジン改良にも貢献しています。DFVエンジンの初期型にあったギアチェンジ時のピックアップ特性の悪さを、ジャッドは燃料噴射装置のカム調整により解決。コスワースはその技術を自社のエンジンに採用しました。これは、ジャッドの優れた技術力と問題解決能力を示すエピソードとして知られています。

ジョン・ジャッドは、F1の歴史に大きな足跡を残した、類まれな才能を持つ自動車技術者でした。彼の開発したエンジンは、数々の名ドライバーを勝利に導き、F1の技術革新に大きく貢献しました。そして、EDL社の設立を通して、数多くの後進を育成し、モータースポーツ界に多大な影響を与え続けています。彼の功績は、これからもモータースポーツの歴史に語り継がれていくでしょう。

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