ジョン・スペンサー (第5代スペンサー伯爵)

ジョン・ポインツ・スペンサー

ジョン・ポインツ・スペンサー（John Poyntz Spencer, 1835年10月27日 - 1910年8月13日）は、イギリスの政治家、貴族であり、第5代スペンサー伯爵の爵位を保持していました。1845年から1857年にかけては、儀礼称号としてオールトラップ子爵と称されていました。

生い立ちと教育

1835年、ロンドンにおいて、第4代スペンサー伯爵フレデリック・スペンサーとその妻ジョージアナ・ポインツの間に長男として誕生しました。名門ハーロー校で学び、その後ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジに進みました。

政治家としてのキャリア初期

学業を終えた後、政界に進出し、1857年3月には自由党候補として南ノーザンプトンシャー選挙区から庶民院議員に選出されました。しかし、同年12月に父の死去に伴いスペンサー伯爵位を継承したため、自動的に貴族院議員へと移籍しました。

宮廷での役割と結婚

1858年にはフレデリック・チャールズ・ウィリアム・シーモアの娘シャーロットと結婚しました。

貴族院議員となった後、彼は宮廷での職務にも就きました。1859年から1861年にかけてはストール宮内官として、ヴィクトリア女王の王配であったアルバート公に仕えました。アルバート公没後の1862年から1866年までは、皇太子（後のエドワード7世）を補佐する役割を担いました。これらの宮廷奉仕を経て、1865年には英国最高位の勲章であるガーター勲章を授与されました。

グラッドストン内閣での主要な役割

スペンサー卿の政治家としての最も重要な期間は、自由党のウィリアム・グラッドストンが首相を務めた時代と重なります。

1869年から1874年にかけて、第1次グラッドストン内閣の下でアイルランド総督という重要なポストに就きました。この経験は、後の彼の政治姿勢に大きな影響を与えることになります。

第2次グラッドストン内閣が発足すると、1880年から1883年まで枢密院議長を務めました。そして1882年には、再びアイルランド総督に任命され、1885年までその任にあたりました。この第二次総督期は、アイルランドの治安問題や土地問題が激化する非常に困難な時期でした。

アイルランド自治問題と党内対立

短期間の野党時代を経て、グラッドストンはアイルランド自治の実現を目指す方針を固めました。これは自由党内に深刻な亀裂を生じさせました。党内のホイッグ派貴族のリーダーであったハーティントン侯爵は、グラッドストンの方針に強く反発し、1886年1月末に成立した第3次グラッドストン内閣への入閣を拒否しました。スペンサー卿もまたホイッグ派に属していましたが、彼はグラッドストンを支持する立場を取り、枢密院議長として入閣しました。

スペンサー卿は、自身のアイルランド総督としての経験から、「アイルランドには自治を与える以外に解決策はない」と強く主張し、グラッドストン提出のアイルランド自治法案を支持しました。しかし、党内からの強い反発により多くの自由党議員が造反して法案は否決され、その後の解散総選挙での敗北により、第3次グラッドストン内閣はわずか数ヶ月で崩壊しました。

海軍大臣としての貢献と首相候補説

1892年6月末に成立した第4次グラッドストン内閣では、海軍大臣として入閣しました。グラッドストンは、前海軍大臣である第2代グランヴィル伯爵のような穏健な政策をスペンサー卿に期待していたとされます。しかし、当時閣内で激しい議論となっていた海軍軍拡問題において、軍縮派のグラッドストンに対し、スペンサー卿は必ずしも同調しませんでした。この孤立がグラッドストンの1893年3月の辞任の一因とも言われています。

グラッドストンは退任にあたり、後継の首相としてスペンサー卿を推薦しようと考えていたという説があります。しかし、ヴィクトリア女王は慣例を破り、退任する首相に後継について下問することなく、外務大臣を務めていた第5代ローズベリー伯爵に独断で組閣を命じました。このため、スペンサー卿が首相となる可能性は実現しませんでした。

ローズベリー伯爵内閣が成立した後も、スペンサー卿は引き続き海軍大臣を務めました。当時、中国分割を巡る国際情勢の中で、ロシアとフランスが極東地域における海軍力を急速に増強していました。これに対し、スペンサー卿は極東にもイギリス海軍が露仏両国の海軍力合計を上回る水準を維持するという「二国基準」を導入することを決定しました。彼はこの政策に自信を示し、「イギリスは極東においても露仏の海軍連携を恐れる理由はない。英国の駐中国艦隊は両国の海軍力合計よりも相対的に強力である」と述べました。

晩年

政治の第一線から退いた後、1901年から1907年にかけて、コーンウォール公領会議議員やコーンウォール公璽尚書といったコーンウォール公領に関わる職務を務めました。

死去と栄典

1910年に死去しました。妻シャーロットとの間に子がなかったため、爵位および家督は異母弟であるチャールズ・スペンサー（後の第6代スペンサー伯爵）が継承しました。

スペンサー卿が生涯で得た主な栄典には、1857年のスペンサー伯爵位（グレートブリテン貴族）継承、1859年の枢密顧問官任命、そして1865年のガーター勲章士への叙任などがあります。彼はこれらの高位な爵位と栄典を通じて、ヴィクトリア朝後期の英国政治において重要な役割を果たしました。

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