ジョン・セルデン

ジョン・セルデン：法学者、歴史家、そして革命期の政治家

ジョン・セルデン(1584-1654)は、イングランド内戦期に活躍した、多大な影響力を持つ人物でした。法律家、歴史家、そして政治家としての顔を持ち、その業績は現代にも至るまで高く評価されています。サセックスの裕福な農園主の息子として生まれたセルデンは、チチェスターのグラマースクールを経てオックスフォード大学ハート・ホールに進学。若くして才能を示し、ロバート・ブルース・コットン卿の後援を得て、ロンドン塔に保管されていた議会の記録の筆写と要約に従事しました。

1612年に弁護士となったセルデンは、法廷での活動は比較的少なかったものの、不動産や法律相談において高い評価を得ていました。しかし、彼の真価は学術的な業績にありました。20代前半には『Analecton Anglo-Britannicon』(1615年)を著し、ノルマン征服以前のイギリスの文民統治について論じています。他にも、イギリス法史や決闘の慣習を研究した著作を次々と発表し、学界でその名を高めました。1617年には『De diis Syriis』を発表し、中東研究の分野においても先駆的な業績を残しました。比較神話学の先駆けとなるこの著作は、後の研究者たちにも多大な影響を与えました。

セルデンの最も有名な著作の一つに『十分の一税の歴史』(1618年)があります。この著作は、教会の十分の一税が神授権を持つという主張を否定するものであり、イングランド国教会から強い反発を招き、国王の介入を受けることになりました。セルデンは枢密院に召喚され、著作の一部を撤回せざるを得なくなり、その活動は制限されました。この事件は、セルデンの政治活動への関与を促すきっかけとなったと考えられています。

1621年、下院によって宣言された議会の権利と特権に関する決議文の作成に関わったセルデンは、ロンドン塔に投獄されました。短い拘留期間中にも『Eadmer's History』の編纂を進め、後に出版しています。その後、下院議員として活動を開始。国王チャールズ1世の政策に反対し、国王の専制的な統治に歯向かいました。1628年には権利の請願の起草に関与し、トン税・ポンド税問題ではロンドン塔に投獄されるなど、政治的弾圧にも耐えながら活動しました。

政治活動のかたわら、セルデンは精力的に著作活動を続けました。『閉鎖海論』(1635年)は、チャールズ1世に献呈された大著であり、オランダのグロティウスの『自由海論』に対する反論として高く評価されました。また、中東研究やユダヤ法に関する著作も多数発表し、その学問的業績は多岐に渡ります。1640年の長期議会では、オックスフォード大学代表として上院議員となり、主教の排除に反対するなど、政治的発言を続けました。

イングランド内戦においては、国王派に反対する立場を取りました。ウェストミンスターでの神学者会議に参加し、ロンドン塔の記録管理者にも任命されました。議会軍勝利後も著作活動を続け、『イギリスの男爵位の特権』(1642年)やユダヤ法に関する著作などを出版しました。革命期の激動の時代の中で、セルデンは自らの信条を貫き、政治と学問の両面において重要な役割を果たしました。晩年は独立派や平等派の圧迫を受け、1649年に引退。1654年に死去し、ロンドンのテンプル教会に埋葬されました。死後出版された『食卓談話』は、彼の思想を知る上で貴重な資料となっています。

セルデンは、教権と俗権の分離を支持し、アルミニウス主義に近い思想を持っていたと推測されています。エラスムスやトマス・モア、フランシス・ベーコンといった、行政や法律の実務に通じた教養人であり、宗教的・政治的狂信を嫌悪した点で共通項があります。彼らは迫害を受けながらも、ヨーロッパにおける啓蒙思想の伝統を維持したと言えるでしょう。彼の多様な業績は、法学、歴史学、政治学、そして中東研究など、幅広い分野に影響を与え続け、現代においても高く評価されています。

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