ジョン・ダルリンプル (初代ステア伯爵)

初代ステア伯爵ジョン・ダルリンプル：光と影のスコットランド政治家

初代ステア伯爵ジョン・ダルリンプル（1648年 - 1707年）は、名誉革命期のスコットランドにおいて、その名を歴史に刻んだ人物です。法曹家として、また政治家として、彼はスコットランドの命運を左右する出来事に深く関与しました。

法曹一家の出世頭

ダルリンプル家は、元来は貴族ではありませんでしたが、ジョンの父である初代ステア子爵ジェイムズ・ダルリンプルが法曹界で成功を収めたことで、急速に台頭しました。その父の叙爵は、イングランドとの合同を目論む政治的意図によるものであり、以降、ダルリンプル家からは多くの法律家や判事が輩出されることになります。ジョン自身もまた、その流れを汲み、法曹の道を歩むこととなりました。

ウィリアム3世への忠誠とスコットランド長官

父の爵位を継承後、ジョンは当初、ジェームズ2世に仕えましたが、1688年のスコットランド議会では、ウィリアム3世を新たな王として迎え入れるために尽力しました。その功績が認められ、1689年にはジェームズ・ジョンストンと共にスコットランド長官に任命され、スコットランドの統治を任されることになります。

グレンコーの虐殺：暗い影

スコットランド長官として、ダルリンプルは当時ウィリアム3世の新政権に抵抗していたハイランド地方の氏族、特にマクドナルド氏族の討伐を計画します。そして1692年、彼はグレンコーに住むマクドナルド一族に対し、帰順の期限を過ぎたことを理由に虐殺を命じます。この虐殺によって、多くのマクドナルド氏族が命を落とし、生き残った人々も寒さと飢えで苦しむこととなりました。この事件は、ダルリンプルの名に暗い影を落とすことになります。

その後

1695年、スコットランド議会はこの虐殺事件の調査を行い、「グレンコー虐殺は犯罪である」と断定しました。ダルリンプルはスコットランド長官の職を解任されますが、1700年にはスコットランド枢密院のメンバーとして復帰し、1703年にはアン女王によってステア伯爵に叙せられました。その後は親イングランド派として、イングランドとスコットランドの連合に尽力し、1707年にその生涯を終えました。

評価：悪魔に魂を売った男？

グレンコーの虐殺は、スコットランドの人々に深い傷跡を残し、政府に対する不信感を増大させました。作家のG・K・チェスタートンは、ダルリンプルを「悪魔に魂を売った男」と評し、その冷酷さを批判しています。一方、推理作家のジョセフィン・テイは、ダルリンプルをイングランドの支配に抵抗する「熱烈な国民盟約派」と捉え、異なる視点から評価しています。

家族

ダルリンプルは、エリザベス・ダンダスとの間に6男4女をもうけました。そのうち、次男のジョンは第2代ステア伯爵を継承し、ウィリアムとジョージは庶民院議員として活躍しました。

ジョン・ダルリンプルは、スコットランドの歴史において、複雑な評価を受ける人物です。法曹家、政治家としての才能を発揮し、イングランドとの連合に貢献した一方で、グレンコーの虐殺という暗い過去も抱えています。彼の生涯は、当時のスコットランド社会の光と影を映し出す鏡と言えるでしょう。

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