ステア伯爵

ステア伯爵家：スコットランド貴族の興亡と栄華

ステア伯爵位は、スコットランド貴族の伯爵位であり、その歴史は1703年に第2代ステア子爵ジョン・ダルリンプルが叙爵されたことに始まります。しかし、その栄光の始まりは、ダルリンプル家の数世代にわたる努力と、スコットランドにおける政治的・司法的な影響力拡大に深く関わっています。

法曹家一族の勃興：ダルリンプル家の台頭

ダルリンプル家は中世にまでその歴史を遡りますが、当初は貴族と言えるほどの家格や財力はありませんでした。転機は、ジェームズ・ダルリンプル（1619-1695）の時代です。彼は卓越した法曹家として活躍し、スコットランド民事控訴院長官も務めました。同時に、スコットランド議会において王権・宮廷の利益を擁護する政治家としても手腕を発揮しました。

ジェームズの成功は、一族の運命を劇的に変えました。1664年に準男爵に叙せられると、1690年にはステア子爵に昇爵。この叙爵には、イングランドとスコットランドの合同に向けた政治的思惑があったと推測されています。英政府は、影響力のある法曹家を味方につけることで、合同への道をスムーズに進めようとしたのです。ジェームズ以降、ダルリンプル家からはわずか18年の間に9名の代議士が輩出され、その多くが法曹関係者でした。彼らはスコットランド法曹界に大きな影響力を持つ一族へと成長しました。

ステア伯爵家の創設とグレンコーの虐殺

ジェームズの息子、第2代ステア子爵ジョン（1648-1707）も法曹家として成功を収め、法務長官や民事控訴院主席書記官を歴任しました。名誉革命後にはウィリアム3世に仕え、筆頭国務大臣を務めるなど、政府の中枢で活躍しました。1703年、彼はついにステア伯爵に叙せられ、現在に続く伯爵家の基礎を築きました。しかし、彼の生涯には暗い影も落とされています。彼は、マクドナルド氏族の虐殺であるグレンコーの虐殺に関与したとされ、その悪行はダルリンプル家の名に傷をつけました。スコットランドでは、伯爵家の家紋に似ているトランプの「ダイヤの9」が不吉の象徴とされるほどです。

継承問題と軍事的な活躍

第2代伯爵ジョン（1679-1747）は、大同盟戦争、スペイン継承戦争、オーストリア継承戦争に参加した武人でした。しかし、彼の爵位継承をめぐっては、複雑な問題が発生しました。彼は甥を後継者に指名しましたが、異議が申し立てられ、最終的に貴族院は、合同後は指名権が消滅したと判断しました。そのため、爵位は彼の兄弟が継承することとなります。

その後、5代伯と6代伯はスコットランド貴族代表議員に選出されるなど、政治的にも活躍しました。しかし、7代伯の死によって、初代伯爵の系統は途絶えます。その後、初代伯爵の弟の子孫が爵位を継承しました。8代伯爵ジョン（1771-1853）は、フランス革命戦争やナポレオン戦争に参加し、陸軍大将にまで昇進した人物です。彼は連合王国貴族にも叙せられ、ミッドロジアン州コースランドのオクセンフォード男爵にもなりました。

続く伯爵たちと現代

以降のステア伯爵たちも、政治家、実業家、軍人など様々な分野で活躍しました。10代伯爵ジョン（1819-1903）はスコットランド銀行総裁を33年間務めた人物です。13代伯爵ジョン（1906-1996）は軍人でありながら、1928年サンモリッツ冬季オリンピックにボブスレー競技で出場するという多彩な一面も持ち合わせていました。

現在の14代ステア伯爵ジョン・ダルリンプルは、2008年に貴族院の世襲貴族枠に選出されています。彼は、ステア伯爵、ステア子爵、ダルリンプル子爵、グレンルース＝ストランラー卿、ニューリストン卿、オクセンフォード男爵、そして2つの準男爵位を保有する、スコットランドを代表する貴族の一人です。ステア伯爵家の邸宅は、スコットランドのオクセンフォード城とロキッジ城です。

ステア伯爵家の歴史は、スコットランドにおける貴族社会の変遷、司法制度と政治制度との複雑な関係、そして個人の栄光と挫折を物語る、興味深く複雑なものです。

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