ジョン・ビング

ジョン・ビング：処刑された提督

ジョン・ビング（John Byng、1704年10月29日 - 1757年3月14日）は、イギリス海軍の提督であり、その運命は歴史的な悲劇として語り継がれています。彼は1757年のミノルカ島の海戦後、軍法会議にかけられ、処刑されました。

前半生

ジョン・ビングは初代トリントン子爵ジョージ・ビングの四男として生まれました。父はウィリアム3世の即位を支援した提督であり、その後様々な海戦で成功を収めました。ジョンが14歳でイギリス海軍に入隊した1718年頃、父はすでに名声を得ていました。建前上、家族の財産と爵位は長男が継承するため、ジョンは自身の名声を築く必要がありました。彼の急速な昇進は、父の影響が大きかったと考えられます。

ビングは地中海での任務を始め、19歳で海尉に昇進し、その後「ジブラルタ」の艦長になります。彼は1742年にニューファンドランドの総督に任命され、1745年には少将、1747年には中将に昇進します。彼の経歴は概ね順調でしたが、その後の展開は予想外のものとなります。

ミノルカ島の海戦

1756年、七年戦争が勃発すると、フランスがミノルカ島に侵攻しました。イギリス政府はビングにセント・フィリップ砦の救援を指示しましたが、ビングはこの作戦に必要な資金と時間が不足していると訴えました。しかし、彼の懸念は受け入れられず、出航命令が遅れるという状況に直面します。最終的に、ビングは老朽化した10隻の艦隊で出撃します。

彼は5月8日にジブラルタルを出航し、19日にはミノルカ島付近に到着します。しかし、フランス戦隊と遭遇した際に、指揮官としての決断力が問われる場面に直面しました。ビングはフランス艦隊を追撃する勇気を持たず、「最善を尽くさなかった」とされました。この結果、ビングの艦隊は戦闘に敗北し、彼自身は解任される運命に。

軍法会議と処刑

ミノルカ島の砦が降伏すると、ビングは本国に送還され、軍法会議にかけられました。この裁判は、彼が戦時服務規程に反しているとされ、「最善を尽くさなかった」との理由で有罪となります。ビングのケースは、過去の事例を引用し、海軍士官の責任感を強調しました。彼が追及されたのは、同じような状況において命を投げ出すことが期待されていたためです。

最終的に、ビングは1757年3月14日に戦列艦「モナーク」の艦上で処刑されました。彼の処刑は国民の間に激しい反発を引き起こし、海軍士官に対するプレッシャーを強めました。

影響と評価

ビングの処刑は、ヴォルテールの小説「カンディード」でも風刺されています。軍艦の司令官を銃殺することで士官の士気を高めるという議論が行われました。彼の死後、イギリス海軍は攻撃的な姿勢を強化し、質的優位を築くことに成功します。ビングの処刑は「イギリス史上最悪の合法殺人」と評される一方で、それにより海軍士官たちに厳しい責任感が要求されるようになりました。

ビングの墓碑銘には、「勇気と忠誠だけでは海軍士官の生命と名誉が保障されない」と刻まれ、彼の悲劇的な運命は今日まで語り継がれています。彼の処刑は、海軍の士官にとって何を意味するのか、今もなお議論の余地があります。

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