ジョン・ファストルフ

サー・ジョン・ファストルフ：百年戦争の英雄とその遺産

サー・ジョン・ファストルフ（Sir John Fastolf, KG, 1378年頃 - 1459年11月5日）は、15世紀のイングランドを生きた軍人であり、莫大な財産を築いた人物です。彼はウィリアム・シェイクスピアの戯曲に登場するジョン・フォルスタッフのモデルとしても知られています。

生涯：戦功と富

ファストルフは1378年または1380年に、イングランド東部のノーフォークで生まれました。裕福な商人の家系に育ち、1398年にノーフォーク公に仕えた後、ランカスター朝に仕官。クラレンス公トマスの遠征に従軍し、そこで裕福な未亡人と結婚しました。

1415年、ヘンリー5世のフランス遠征に参加すると、ファストルフは頭角を現します。アルフルール包囲戦やアジャンクールの戦いで戦功を挙げ、ナイトの称号を授与されました。1420年のトロワ条約後には、パリのバスティーユ牢獄長官に任命され、ヘンリー5世の死後は、ベッドフォード公ジョンの下で騎士団長として活躍しました。

ヴェルヌイユの戦いでの活躍など、ベッドフォード公の下でも数々の戦功を重ね、莫大な富を築き上げました。フランスで得た身代金や領地からの収入を本国へ送り、蓄財に励んだのです。

オルレアン包囲戦と失墜

1429年、ファストルフはオルレアン包囲戦のイングランド軍へ補給物資を届ける任務に就きます。ニシンの戦いでは、フランス軍の襲撃を退け、見事に任務を達成しました。しかし、ジャンヌ・ダルクの出現によりオルレアンからイングランド軍が撤退すると、その救援に向かう途中のパテーの戦いでフランス軍に大敗。タルボットらが捕虜となる中、ファストルフは退却を余儀なくされました。

この敗戦の責任を問われ、ガーター勲章を剥奪されるなど、ファストルフは一時的に失脚します。しかし、後にベッドフォード公の信頼を回復し、カーンの総督に任命されるなど、再び要職に返り咲きました。

引退と遺産相続

1439年に軍務から引退したファストルフは、故郷に戻りカイスター城の建設に着手しました。荘園からの収入を元に、城は壮麗なものとなりました。しかし、フランスにおける領地を失い、イングランドでも地代の徴収がうまくいかないなど、収入は徐々に減少していきました。

帰国後、サフォーク公と土地を巡る争いが勃発。サフォーク公の失脚後も、ジャック・ケイドの反乱で使用人の一人が巻き込まれるなど、災難が続きました。ジョン・パストンらと協力し、裁判で有利に事を進めようとしましたが、遺産相続問題も深刻化しました。

1459年、ファストルフは喘息にかかり、遺言状を作成。紆余曲折を経て、パストンを遺言執行人に指名し、多くの荘園を譲ることを決めました。同年11月5日、ファストルフは息を引き取り、セント・ベネット修道院に埋葬されました。

死後の遺産相続戦

ファストルフの死後、遺産を巡ってパストンと他の執行人たちが争い、事態は複雑化しました。パストンの死後も争いは長引き、カイスター城が奪われる事態にまで発展しました。最終的には、ウィンチェスター司教の仲介により、パストンの息子がノーフォークの領地を相続することで決着しました。

ファストルフは晩年、カイスター城内にカレッジを設立することを構想していましたが、生前に完成することはありませんでした。遺産相続争いの終結後、ウェインフリートの提案により、オックスフォード大学にカレッジが設立されることとなりました。

カイスター城は廃墟となり、セント・ベネット修道院も消滅しましたが、パストン家が残した書簡は貴重な歴史資料として現存しています。また、ウィリアム・ウスターが書いたファストルフの伝記も、一部が『旅程』として伝えられています。

サー・ジョン・ファストルフは、百年戦争の英雄であると同時に、その遺産を巡る争いによって、後世に名を残した人物なのです。

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