ジョン・フォックス (ミュージシャン)

ジョン・フォックス（John Foxx、本名 Dennis Leigh）は、1948年9月26日にイングランド北西部のランカシャー州で誕生した、多才なイギリスのアーティストです。ミュージシャン、グラフィックデザイナー、そして大学講師という顔を持つ彼は、特に初期のウルトラヴォックス（Ultravox）のヴォーカリストとして、ニュー・ウェーブシーンにおいて重要な役割を果たしました。そのキャリアは音楽活動の長期休止と再開を経ており、シンセサイザーを駆使した革新的なサウンドは、後続の数多くのアーティストに計り知れない影響を与えています。

キャリアの黎明期

フォックスはマンチェスターのアートカレッジで学び、その後ロンドンの王立芸術学院を卒業しました。音楽活動を本格的に開始したのは1973年で、後にウルトラヴォックスとなるバンドを組織します。結成当初、バンドは「タイガー・リリー（Tiger Lily）」を含む複数の名称をギグごとに使い分けていましたが、1975年にファッツ・ウォーラーのカヴァー曲「Ain't Misbehavin'」でシングルデビューする際に「タイガー・リリー」という名称を採用しました。

ウルトラヴォックス時代

1977年、アイランド・レコードとの契約を機に、バンドは「ウルトラヴォックス！」と改名します。バンド名の末尾に付けられた「！」は、ドイツの実験的なバンド、ノイ!に由来するとされています。この時、彼は自身の本名であるデニス・リーから、ジョン・フォックスという芸名を用いるようになりました。同年1月にはシングル「Dangerous Rhythm」を発表し、すぐにファーストアルバム『Ultravox!』を世に送り出します。この作品ではブライアン・イーノとスティーヴ・リリーホワイトという名だたるプロデューサーを起用しました。そして同年末にはセカンドアルバム『Ha! Ha! Ha!』も発表しています。

1978年になると、バンド名から「！」が削除され、「ウルトラヴォックス」となります。この年にリリースされたサードアルバム『Systems of Romance』は、初期のパンク的なサウンドから大きく舵を切り、シンセサイザーを積極的に導入した画期的な作品となりました。ドイツのケルンにあるコニー・プランクのスタジオで録音されたこのアルバムは、当時の商業的な成功には結びつかなかったものの、その後のテクノポップやエレクトロニック・ミュージックにおける先駆的存在となり、多くのアーティストに影響を与えました。

しかし、1979年のアメリカツアーを前に、バンドはアイランド・レコードとの契約を打ち切られます。このツアーを最後に、ジョン・フォックスはウルトラヴォックスから離れることを決意しました。彼の脱退後、後任としてミッジ・ユーロが加入したウルトラヴォックスは、その後立て続けにヒット曲を生み出すことになります。

ソロキャリアの開始

ウルトラヴォックス脱退後、ジョン・フォックスはソロアーティストとしての道を歩み始めます。1980年にはヴァージン・レコードと契約し、セルフプロデュースによる初のソロアルバム『Metamatic』を発表しました。この作品には、後にデペッシュ・モードなどを手がけることになるガレス・ジョーンズがエンジニアとして参加しています。

1981年にはセカンドソロアルバム『The Garden』をリリース。この作品は、英国のロマン主義的な要素とテクノロジーという相反する要素が見事に融合した作品と評されました。また、彼のその後の代表的なプロジェクトとなる「Cathedral Oceans」シリーズで展開されるカトリシズムというテーマを、アルバムのテーマとして初めて取り上げた作品でもあります。アルバム収録曲の「Europe After The Rain」は、日本の本田技研工業のスクーター「タクト」のCMソングとして使用され、日本でも知られるようになりました。

1982年にはイタリアの著名な映画監督ミケランジェロ・アントニオーニの映画『ある女の存在証明』の音楽を手がけるなど、活動の幅を広げます。1983年にはアルバム『The Golden Section』の発表に合わせて大規模なツアーを展開し、ロンドンでの公演は後にライブアルバムとしてリリースされました。このツアーでは、東京と大阪での来日公演も実現しています。

音楽活動の休止とグラフィックデザイン

1985年にアルバム『In Mysterious Ways』をリリースした後、ジョン・フォックスはレコーディングスタジオを売却し、音楽活動を長期的に休止します。この時期、彼は本名であるデニス・リー名義でグラフィックアーティストとしての活動に主軸を移しました。ジャネット・ウィンターソンの『さくらんぼの性は』、アンソニー・バージェスの『A Dead Man in Deptford』、サルマン・ラシュディの『The Moor's Last Sigh』といった著名な作家の書籍装丁デザインを多数手掛け、高い評価を得ました。この休止期間中も、彼は自身のライフワークとなるアンビエント音楽プロジェクト「Cathedral Oceans」の構想を温めていました。

1990年代前半には、当時のハウスやデトロイト・テクノといったエレクトロニック・ミュージックからの影響を強く受け、ネーション12（Nation 12）という別名義で12インチシングルを発表するなどの活動も行いました。ボム・ザ・ベースのティム・シムノンとの共演や、ビットマップ・ブラザーズのゲームソフト『Speedball 2』や『Gods』に楽曲を提供するなど、実験的な試みを行っています。

音楽活動の再開とその後の展開

1997年、ジョン・フォックスは『Shifting City』と『Cathedral Oceans』という二作を携え、ジョン・フォックス名義での音楽活動を本格的に再開させます。『Shifting City』は、これ以降彼の主要な音楽パートナーとなるルイス・ゴードン（Louis Gordon）と初めて共同制作した作品であり、再開後の活動を象徴するものとなりました。一方、『Cathedral Oceans』は、カトリックの聖歌や教会音楽にインスパイアされた、静謐で広大なアンビエント作品であり、長年の構想が形になったものです。同年から翌年にかけて、イギリス国内でツアーを行いました。

音楽活動再開後は精力的に作品を発表し、2001年には『The Pleasures of Electricity』をリリース。2003年には『Crash and Burn』、『Cathedral Oceans II』に加え、アンビエント界の巨匠ハロルド・バッド（Harold Budd）との共作アルバム2枚組も発売するなど、多様なスタイルで作品を生み出しています。2004年にはニューヨークで『Cathedral Oceans』をテーマとする美術展を開催するなど、音楽と視覚芸術を結びつける活動も行いました。

2005年には『Cathedral Oceans III』を発表し、フィンランドのDJ、ヨリ・フルッコネン（Jori Hulkkonen）の楽曲でボーカルを務めるなど、他アーティストとのコラボレーションも積極的に行っています。また、ネーション12名義での作品が『Electrofear』としてアルバム化されました。2006年にはライブ盤やオリジナルアルバムを含む3枚をリリースし、創作意欲の衰えを見せませんでした。2008年には、ルイス・ゴードンとのツアーのライブ音源を収録したアルバムを発売し、同年9月には25年ぶりとなる待望の来日公演を実施しました。

ジョン・フォックスは、ウルトラヴォックスの初期からソロ、そして現在の活動に至るまで、常に時代の先端を取り入れながらも独自の美学を追求し続けています。エレクトロニック・ミュージックにおけるパイオニアとして、また多分野で表現を行うアーティストとして、彼の功績は今なお高く評価されています。

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