ジョン (イングランド王)

ジョン王：失地王と呼ばれたイングランド王の生涯

ジョン（1166年 - 1216年）は、プランタジネット朝（アンジュー朝）第3代イングランド王として知られています。父ヘンリー2世と母アリエノール・ダキテーヌの末子として生まれ、兄たちとは異なり、出生時に領地を与えられなかったことから「欠地王（失地王）」とも呼ばれました。

生い立ちと王位継承

ジョンは幼少期、母からの愛情に恵まれず、父ヘンリー2世から溺愛されました。しかし、領土分割の際には除外され、このことが彼のあだ名である「ラックランド」の由来となりました。1177年にアイルランド卿に任命されましたが、統治はうまくいきませんでした。兄リチャード1世が十字軍遠征で不在の間、ジョンは王位を狙って陰謀を企てましたが、失敗に終わっています。

リチャード1世の死後、ジョンはイングランド王位を継承します。本来、甥のアーサーが後継者候補でしたが、諸侯の支持を得て王位に就きました。しかし、彼の治世は内政・外交ともに困難を極めました。

大陸領土の喪失

ジョンはフランス王フィリップ2世との対立を深め、フランス国内の領土を巡って争いました。1203年には甥のアーサーが暗殺され、これをきっかけにフランスとの全面戦争に突入します。しかし、戦況はジョンに不利に展開し、ノルマンディー、アンジューなどの主要な領土を次々と失い、大陸領土はガスコーニュの一部を残すのみとなりました。

教皇との対立

1205年にカンタベリー大司教が亡くなると、ジョンはローマ教皇インノケンティウス3世が任命したラングトンを拒否し、教皇と対立しました。教皇はジョンを破門し、イングランドを聖務停止としました。ジョンはこれに屈し、イングランドを教皇に寄進し、教皇の封臣となることで破門を解かれました。

ブーヴィーヌの戦いとマグナ・カルタ

大陸領土の奪回を目指したジョンは、神聖ローマ皇帝オットー4世と同盟を結び、フランス王フィリップ2世を挟撃する作戦を立てます。しかし、1214年のブーヴィーヌの戦いで大敗し、大陸領土奪還の望みを絶たれました。この敗北は、ジョンに対する国内の不満を一層高め、諸侯は国王の権力を制限するマグナ・カルタを制定させました。マグナ・カルタは、国王の課税権の制限や法の支配を明記した重要な文書であり、イギリス憲法の基礎となりました。

しかし、ジョンはマグナ・カルタを不服とし、教皇に破棄を宣言させました。これにより諸侯の反発を買い、第一次バロン戦争が勃発します。ジョンは戦いの最中に赤痢で病没し、息子のヘンリー3世が後を継ぎました。

評価

ジョンは、その無能さ、暴虐さ、陰謀好き、裏切り者という悪評で知られています。大陸領土の喪失、甥の殺害、教皇への屈服、重税など、数々の失政を重ね、イングランド史上最悪の君主と評されています。しかし、近年では、海軍の育成、リヴァプールの建設、司法・行政の発展に貢献したという点で、再評価する動きも見られます。しかし、ジョンが暗君であるという評価は、依然として根強いものです。

逸話

ジョンの評判が悪かったため、以降のイングランド王・イギリス王で「ジョン」の名を襲名した王はいません。また、「ラックランド（領地なし）」というあだ名は、幼少期に領地を与えられなかったことに由来しますが、対仏戦争での敗北によって大陸領土を失ったことも、このあだ名を定着させた要因となりました。

家族

ジョンは、最初の妻イザベル・オブ・グロスターとの間に子供はなく、後にイザベラ・オブ・アングレームと再婚し、二人の息子（ヘンリー3世、リチャード）と三人の娘（ジョーン、イザベラ、エリナー）をもうけました。


ジョン王の生涯は、失政と混乱に満ちたものでしたが、その結果としてマグナ・カルタが制定され、イギリスの民主主義の発展に貢献したことは、歴史的に重要な意味を持つと言えるでしょう。

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