ジョージ・プライス (科学者)
ジョージ・プライス（George R. Price, 1922年10月6日 - 1975年1月6日）は、アメリカ合衆国の集団遺伝学者であり、その短い生涯の中で進化生物学に重要な足跡を残しました。当初は物理化学者として教育を受けましたが、後に科学ジャーナリストに転身し、1967年にロンドンに移住してからはユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのゴルトン遺伝学教室で理論生物学の研究に没頭しました。
1922年に生まれたプライスは、幼少期に父親を亡くし、大恐慌の中で苦労を重ねました。ニューヨークの公立学校を経て、シカゴ大学で化学の学士号と博士号を取得し、その間にはマンハッタン計画にも参加しています。1947年には結婚しましたが、宗教観の違いから離婚に至りました。ハーバード大学やアルゴンヌ国立研究所、ミネソタ大学などで研究職を歴任した後、科学ジャーナリストとしての道を歩み始めます。冷戦をテーマにした著書を執筆しようとしましたが、世界情勢の変化の速さに追いつけないとして断念。その後、IBMで画像データ処理の仕事に従事し、1966年には甲状腺癌の治療を受けました。癌の切除には成功したものの、手術のミスによって肩に麻痺が残り、チロキシンに依存する生活を送ることになります。
医療保険から得た資金で、1967年にロンドンに移住したプライスは、W.D.ハミルトンとの出会いをきっかけに、理論生物学の研究に本格的に取り組み始めます。ハミルトンの血縁選択理論に触発されたプライスは、ダーウィンの自然選択説から導き出される道徳的な結論に疑問を抱き、その理論の誤りを見つけ出そうと試みます。その過程で、集団中の対立遺伝子の変動を説明する「プライスの公式」を提案しました。この公式は、マイオティックドライブから群選択まで、あらゆるレベルの選択に適用できる画期的なものでした。
1970年、プライスは宗教的な体験をし、熱心なキリスト教徒に改宗しました。その後、聖書研究から離れ、北ロンドンの貧しい人々の救済活動に身を投じるようになります。また、ロナルド・フィッシャーの自然選択の基本定理をプライス方程式によって定式化し、その普及に貢献しました。1972年には、動物の対立に関するゲーム理論の論文をネイチャー誌に投稿しましたが、査読者であったジョン・メイナード＝スミスから大幅な修正を求められ、プライス自身は書き直すことをしませんでした。メイナード＝スミスは、プライスの理論を基に「進化的に安定な戦略」を提唱し、プライスを共同執筆者として認めましたが、実際にはプライスの貢献を十分に評価したとは言えませんでした。
晩年のプライスは、ホームレスの救済に全財産を費やしました。ホームレスを自宅に泊め、生活を共にすることもありましたが、資金が底をつき、彼らを支援することができなくなると、友人たちに自殺をほのめかすようになります。メイナード＝スミスからの経済的援助の申し出を断り、クリスマスの頃に爪切りばさみで喉を切り自殺しました。追悼式には、科学者としてはハミルトンとメイナード＝スミスの二人のみが参列し、彼が支援していたホームレスも数人しか参加しませんでした。プライスの業績は、その死後20年間はほとんど顧みられることはありませんでしたが、近年になって再評価が進んでいます。
プライスの主な業績は以下の通りです。
プライスの公式: 血縁選択と包括適応度の概念を拡張し、遺伝子レベルから群レベルまで、あらゆる選択を包括的に説明する数式。
進化的に安定な戦略の概念: ゲーム理論を用いて、動物の対立行動を分析する理論。
フィッシャーの自然選択の基本定理の定式化: 自然選択のメカニズムを数理的に表現。
プライスの業績は、進化生物学の基礎を築いただけでなく、利他行動や社会性の進化に関する理解を深める上で非常に重要な貢献をしました。
Price, G.R. (1955). Science and the supernatural. Science 122:359-367.
Price, G.R. (1956). Where is the definitive experiment? Science 123:17-18.
Price, G.R. (1970). Selection and covariance. Nature 227:520-521.
Price, G.R. (1971). Extension of the Hardy--Weinberg law to assortative mating. Annals of Human Genetics 34:455-458.
Price, G.R. (1972a). Extension of covariance selection mathematics. Annals of Human Genetics 35:485-490.
Price, G.R. and C.A.B. Smith (1972b) Fisher's Malthusian parameter and reproductive value. Annals of Human Genetics 36:1-7.
Price, G.R. (1972c). Fisher's fundamental theorem made clear. Annals of Human Genetics 36:129-140.
Maynard Smith, J. and G.R. Price. (1973). The logic of animal conflict. Nature 246:15-18.
Price, G.R. (1995). The nature of selection. Journal of Theoretical Biology 175:389-396 (written circa 1971).
Frank, S.A. (1995) George Price's contributions to Evolutionary Genetics. Journal of Theoretical Biology 175:373-388.
Frank, S. A. The Price Equation, Fisher's fundamental theorem, kin selection, and causal analysis. Evolution 51:1712-1729.
Frank, S.A. (2002) Price, George. In: M. Pagel (ed) Encyclopedia of Evolution pp930-1.
Hamilton, W.D. (1964). The evolution of social behaviour I and II. Journal of Theoretical Biology 7: 1-16 and 17-52.
Hamilton, W.D. (1996). Narrow Roads of Gene Land vol 1. esp ch5 and ch9. Oxford University Press, Oxford.
Schwartz, J. (2000) Death of an Altruist: Was the man who found the selfless gene too good for this world?. Lingua Franca 10.5: 51-61.
オレン・ハーマン「親切な進化生物学者―ジョージ・プライスと利他行動の対価」
プライス方程式
生涯
1922年に生まれたプライスは、幼少期に父親を亡くし、大恐慌の中で苦労を重ねました。ニューヨークの公立学校を経て、シカゴ大学で化学の学士号と博士号を取得し、その間にはマンハッタン計画にも参加しています。1947年には結婚しましたが、宗教観の違いから離婚に至りました。ハーバード大学やアルゴンヌ国立研究所、ミネソタ大学などで研究職を歴任した後、科学ジャーナリストとしての道を歩み始めます。冷戦をテーマにした著書を執筆しようとしましたが、世界情勢の変化の速さに追いつけないとして断念。その後、IBMで画像データ処理の仕事に従事し、1966年には甲状腺癌の治療を受けました。癌の切除には成功したものの、手術のミスによって肩に麻痺が残り、チロキシンに依存する生活を送ることになります。
イギリスでの研究
医療保険から得た資金で、1967年にロンドンに移住したプライスは、W.D.ハミルトンとの出会いをきっかけに、理論生物学の研究に本格的に取り組み始めます。ハミルトンの血縁選択理論に触発されたプライスは、ダーウィンの自然選択説から導き出される道徳的な結論に疑問を抱き、その理論の誤りを見つけ出そうと試みます。その過程で、集団中の対立遺伝子の変動を説明する「プライスの公式」を提案しました。この公式は、マイオティックドライブから群選択まで、あらゆるレベルの選択に適用できる画期的なものでした。
1970年、プライスは宗教的な体験をし、熱心なキリスト教徒に改宗しました。その後、聖書研究から離れ、北ロンドンの貧しい人々の救済活動に身を投じるようになります。また、ロナルド・フィッシャーの自然選択の基本定理をプライス方程式によって定式化し、その普及に貢献しました。1972年には、動物の対立に関するゲーム理論の論文をネイチャー誌に投稿しましたが、査読者であったジョン・メイナード＝スミスから大幅な修正を求められ、プライス自身は書き直すことをしませんでした。メイナード＝スミスは、プライスの理論を基に「進化的に安定な戦略」を提唱し、プライスを共同執筆者として認めましたが、実際にはプライスの貢献を十分に評価したとは言えませんでした。
死
晩年のプライスは、ホームレスの救済に全財産を費やしました。ホームレスを自宅に泊め、生活を共にすることもありましたが、資金が底をつき、彼らを支援することができなくなると、友人たちに自殺をほのめかすようになります。メイナード＝スミスからの経済的援助の申し出を断り、クリスマスの頃に爪切りばさみで喉を切り自殺しました。追悼式には、科学者としてはハミルトンとメイナード＝スミスの二人のみが参列し、彼が支援していたホームレスも数人しか参加しませんでした。プライスの業績は、その死後20年間はほとんど顧みられることはありませんでしたが、近年になって再評価が進んでいます。
業績
プライスの主な業績は以下の通りです。
プライスの公式: 血縁選択と包括適応度の概念を拡張し、遺伝子レベルから群レベルまで、あらゆる選択を包括的に説明する数式。
進化的に安定な戦略の概念: ゲーム理論を用いて、動物の対立行動を分析する理論。
フィッシャーの自然選択の基本定理の定式化: 自然選択のメカニズムを数理的に表現。
プライスの業績は、進化生物学の基礎を築いただけでなく、利他行動や社会性の進化に関する理解を深める上で非常に重要な貢献をしました。
主な論文
Price, G.R. (1955). Science and the supernatural. Science 122:359-367.
Price, G.R. (1956). Where is the definitive experiment? Science 123:17-18.
Price, G.R. (1970). Selection and covariance. Nature 227:520-521.
Price, G.R. (1971). Extension of the Hardy--Weinberg law to assortative mating. Annals of Human Genetics 34:455-458.
Price, G.R. (1972a). Extension of covariance selection mathematics. Annals of Human Genetics 35:485-490.
Price, G.R. and C.A.B. Smith (1972b) Fisher's Malthusian parameter and reproductive value. Annals of Human Genetics 36:1-7.
Price, G.R. (1972c). Fisher's fundamental theorem made clear. Annals of Human Genetics 36:129-140.
Maynard Smith, J. and G.R. Price. (1973). The logic of animal conflict. Nature 246:15-18.
Price, G.R. (1995). The nature of selection. Journal of Theoretical Biology 175:389-396 (written circa 1971).
関連文献
Frank, S.A. (1995) George Price's contributions to Evolutionary Genetics. Journal of Theoretical Biology 175:373-388.
Frank, S. A. The Price Equation, Fisher's fundamental theorem, kin selection, and causal analysis. Evolution 51:1712-1729.
Frank, S.A. (2002) Price, George. In: M. Pagel (ed) Encyclopedia of Evolution pp930-1.
Hamilton, W.D. (1964). The evolution of social behaviour I and II. Journal of Theoretical Biology 7: 1-16 and 17-52.
Hamilton, W.D. (1996). Narrow Roads of Gene Land vol 1. esp ch5 and ch9. Oxford University Press, Oxford.
Schwartz, J. (2000) Death of an Altruist: Was the man who found the selfless gene too good for this world?. Lingua Franca 10.5: 51-61.
オレン・ハーマン「親切な進化生物学者―ジョージ・プライスと利他行動の対価」
関連項目
プライス方程式
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