ジョー樋口

ジョー樋口：プロレスレジェンドの影に輝くレフェリー

ジョー樋口（1929年1月18日-2010年11月8日）。その名は、日本のプロレス史に深く刻まれている。選手としてリングに上がった経験を持つ彼は、レフェリーとして、そして外国人選手との橋渡し役として、昭和から平成にかけて日本のプロレス界を支え続けた、まさにレジェンドと言える存在だ。

横浜市本牧で洋食材問屋の家に生まれた樋口は、幼少期からコーヒーを嗜み、ジャズを愛好するなど、国際的な感性を育んだ。柔道二段の実力に加え、英語堪能で洋食の腕も確か。進駐軍に柔道を教えながら英語を習得したというエピソードも、彼の多様な経験を物語る。

1954年、プロレスラーとしてキャリアをスタート。全日本プロレス協会を経て、日本プロレスへ。選手としては1960年に引退するものの、1963年には外国人選手担当兼通訳として日本プロレスに復帰する。当時、外食産業が未発達だった日本では、遠征先の旅館で自らの手でステーキやサラダなどを作り、外国人選手を喜ばせたという逸話は有名だ。その評判は力道山にも届き、樋口の手料理を自ら懇願したほどだったという。

レフェリーとしての才能が開花したのは1966年。先輩レフェリーのトラブルをきっかけに、レフェリーを兼務することになった。そのレフェリングは、従来のスタイルを覆すほど革新的だった。試合のテンポを維持する工夫や、観客を飽きさせない演出に長け、後のレフェリーである和田京平や西永秀一にも大きな影響を与えた。独特の「ワッチャギブアップ」という掛け声も、観客を惹きつけるための工夫の一つだった。

しかし、そのレフェリングは常に完璧ではなかった。試合中に乱闘に巻き込まれて失神する場面も珍しくなく、「ジョー樋口失神ギミック」とまで呼ばれた時期もあった。だが、その厳格さとユーモアは、多くのプロレスファンに愛された。

1972年、日本プロレスの閉塞感に嫌気が差し、渡米を計画していた樋口は、ジャイアント馬場からの熱烈な誘いを受け、全日本プロレスに参加。馬場との信頼関係は深く、馬場の試合には欠かせないレフェリーとして活躍した。スキンヘッドに青いコスチューム姿は、彼のトレードマークとなり、日本人NWAオフィシャルレフェリーの代表的存在となった。1974年にはセントルイスのキール・オーディトリアムでNWA世界ヘビー級選手権試合を裁き、日本人で初めて同会場で試合を裁いたレフェリーとなった。

1990年代には、年齢と時代の変化を考慮し、チーフレフェリーの座を和田に譲り、外国人選手担当に専念。1997年の三沢光晴対スティーブ・ウィリアムスの試合を最後にレフェリーを引退した。

1999年、ジャイアント馬場の死をきっかけに全日本プロレスを退社。その後はプロレスリング・ノアで監査役、GHCタイトル管理委員長を務めた。

2010年、肺腺がんのため81歳で死去。その功績は広く称えられ、プロレス大賞特別功労賞を二度受賞。没後もその功績は認められ、2017年にはアメリカテキサス・プロレス殿堂入りを果たした。

ジョー樋口は、リング上での華やかな選手たちを陰ながら支えた人物だった。外国人選手とのコミュニケーション、レフェリング、そして後進の育成。彼は、様々な役割を担いながら、常にプロレス界発展に貢献した。レフェリーとしての厳格さ、選手への深い愛情、そしてユーモアあふれる人柄。これらが一体となったジョー樋口という存在は、日本のプロレス界にとってかけがえのないものだったと言えるだろう。彼の功績は、これからも語り継がれていくに違いない。

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