ジンクホワイト

ジンクホワイト：特性と歴史

ジンクホワイト（Zinc White）は、酸化亜鉛を主成分とする白色顔料であり、絵画における絵具として広く用いられてきました。特に、顔料としては「亜鉛華」という名称でも知られています。その高い透明度と繊細な発色は、多くの画家を魅了してきましたが、同時に扱いには注意が必要な絵具でもあります。

ジンクホワイトの性質と絵画における課題

ジンクホワイトは水彩絵具には適さず、油絵具においても亀裂や剥離を起こしやすいため、下地塗り以外への使用は推奨されません。特に、芥子油と併用する際には、変色や劣化のリスクがさらに高まります。

高い透明度と弱い着色力は、混色に適しているように思われますが、これはジンクホワイトの着色力の弱さゆえに、他の顔料との混合によって容易に色調を調整できること、そして混合時に青緑系の波長が強調されることに起因すると考えられています。しかしながら、この高い透明性ゆえに、経年変化による変色も他の白色顔料と比較して顕著です。

ジンクホワイト普及の背景と問題点

大正時代以降、多くの画家がジンクホワイトを使用するようになりました。その背景には、それまで広く用いられていたシルバーホワイト（鉛白）が鉛中毒の危険性を孕むことが指摘されたこと、そして当時の画法書に、ジンクホワイトを硫化物系の顔料（例：ヴァーミリオン、カドミウム顔料）と混合すると黒変する可能性が示されていたことが挙げられます。これらの情報から、安全性の高い代替材料としてジンクホワイトが広く普及したのです。しかし、ジンクホワイトの特性を十分に理解しないまま使用された結果、多くの絵画が損傷を受けるという事態も引き起こされました。

ジンクホワイトと他の白色顔料との比較

ジンクホワイトは、鉛白（塩基性炭酸鉛）、二酸化チタン（チタン白）、炭酸カルシウム（胡粉）など、様々な白色顔料と比較されます。それぞれの顔料は、透明度、着色力、耐久性、安全性などに違いがあり、用途や目的に応じた選択が重要です。ジンクホワイトは高い透明度を有する一方で、経年変化による変色や、油絵具での扱いの難しさといった欠点も持ち合わせています。

安全な絵画制作のために

ジンクホワイトは、その特性をよく理解した上で使用することが大切です。特に、他の顔料との混合や、油絵具での使用においては、十分な注意が必要です。絵画の長期保存を考慮するならば、ジンクホワイトの使用は慎重に検討し、他の白色顔料との比較検討も必要となるでしょう。適切な知識と技術に基づいた絵画制作が、作品を長く保存し、後世に伝えるために不可欠です。

参考文献

『絵具の科学』 ホルベイン工業技術部編 中央公論美術出版社 1994.5（新装普及版） ISBN 480550286X
『絵具材料ハンドブック』 ホルベイン工業技術部編 中央公論美術出版社 1997.4（新装普及版） ISBN 4805502878

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