スイスの歴史

スイスの歴史：永世中立国への道

スイスの歴史は、1848年以降のカントン（州）による連邦共和制として知られています。しかし、その起源は1291年の連邦成立以前に遡り、700年以上の歴史を持つ世界最古の共和国とも言えるでしょう。本稿では、スイス連邦の成立以前から現代に至るまでの歴史を概観します。

1291年以前：多様な民族の交錯

スイスの地には、5000年以上前から人が居住していました。紀元前15世紀頃にはケルト人のヘルウェティイ族が定住し、ローマ人はこの地を「ヘルウェティア」と呼びました。紀元前58年、ユリウス・カエサルによってヘルウェティイ族は滅ぼされ、ローマ帝国の支配下に入ります。4世紀にはキリスト教が伝来し、西ローマ帝国の衰退とともにゲルマン民族が流入。アレマン人、ブルグント人などが共存し、現在のドイツ語、フランス語、ロマンシュ語、イタリア語が用いられる基礎が築かれました。

6世紀にはフランク王国の支配下に入り、843年のヴェルダン条約によって東西に分割されました。11世紀までには神聖ローマ帝国の支配下となり、ツェーリンゲン家が勢力を拡大。フリブールやベルンといった都市を建設しました。13世紀にはザンクト・ゴットハルト峠が開通し、ヨーロッパの南北を結ぶ交通の要衝としてスイスの重要性が高まりました。1291年、ウーリ、シュヴィーツ、ウンターヴァルデンの3州が、ハプスブルク家に対抗し自治独立を維持するための永久盟約を結びました。これがスイス連邦の原型である「原初同盟」の結成であり、「スイス」という国名の語源となりました。

原初同盟の成立（1291年-1523年）：独立への歩み

原初同盟は、ハプスブルク家との戦いを通じて結束を固めました。1315年のモルガルテンの戦い、1386年のゼンパッハの戦いで農民軍が勝利し、ハプスブルク家の影響力を排除しました。1353年には、グラールス州、ツーク州、ルツェルン、チューリッヒ、ベルンが同盟に加わり「八州同盟」が成立。1499年のシュヴァーベン戦争での勝利により、スイスは神聖ローマ帝国からの事実上の独立を勝ち取りました。

宗教改革の嵐（1523年-1648年）：宗教対立と永世中立の芽生え

16世紀、フルドリッヒ・ツヴィングリによる宗教改革運動が起こり、スイスはプロテスタントとカトリックに分裂。1531年のカッペル戦争でツヴィングリが戦死した後、カッペル協定が結ばれ、カトリックとプロテスタントが共存する体制が確立しました。三十年戦争（1618年-1648年）では、「武装中立」を宣言し、中立を維持するための連邦軍が創設されました。

アンシャン・レジーム（1648年-1798年）：旧体制の維持

1648年のウェストファリア条約で、スイスは法的に神聖ローマ帝国から独立しました。しかし、1653年と1712年には農民反乱が発生し、1712年のヴィルメルゲンの戦いではプロテスタントが勝利し、カトリック勢力を弱体化させました。1781年にはジュネーヴでブルジョワによる間接民主制が成立しましたが、フランスなどの介入により崩壊しました。

ナポレオン時代（1798年-1848年）：変革と中立の確立

フランス革命の影響を受け、1798年にフランス軍が侵攻し、ヘルヴェティア共和国が成立しました。しかし、1803年にはナポレオンの調停により地方自治体制に戻り、アールガウ州、トゥールガウ州など6州がカントンとして同盟に加わりました。1815年のウィーン会議で、スイスの独立と永世中立が国際的に承認されました。

スイス連邦の成立（1848年-1914年）：近代国家への歩み

1847年、カトリック諸州とプロテスタント諸州の対立が「分離同盟戦争」に発展。内戦の結果、1848年に連邦制度が採択され、現代まで続くスイス連邦の基本的な枠組みが確立しました。

2つの世界大戦（1914年-1945年）：中立の維持と苦難

第一次世界大戦と第二次世界大戦では、中立を維持しながらも、国際諜報・外交・通商の舞台となりました。多くの政治難民を受け入れましたが、同時にナチス・ドイツの資産隠し場所となり、戦後国際的な非難を浴びました。

1945年以降のスイス：国際社会への参加

戦後、経済発展を遂げ、1960年には欧州自由貿易連合（EFTA）に加盟。1971年には女性参政権が認められ、2002年には国民投票により国際連合に加盟しました。現在もEUには加盟していませんが、シェンゲン協定に加盟するなど、国際社会との連携を深めています。

スイスは、永世中立という立場を堅持しながらも、国際社会の一員として積極的に活動しています。その歴史は、多様な民族と文化が共存し、独立と自由を追求してきた軌跡と言えるでしょう。

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