スイッチトリラクタンスモータ

スイッチトリラクタンスモータ (SRM) の解説

スイッチトリラクタンスモータ (Switched Reluctance Motor、SRM) は、永久磁石を用いない無整流子電動機の一種です。ステッピングモータと似た構造を持ち、回転子は強磁性体の鉄芯のみで構成されています。回転力は、コイルによって発生する磁界の吸引力によって生み出されます。

SRMの特徴と歴史

SRMは、レアメタルを使用しないため、希少資源の節約に貢献し、環境問題への配慮が求められる現代社会において大きな利点となります。製造コストを抑えられることも大きな魅力です。しかし、従来は、低速回転時のトルク変動や、半径方向への吸引力による騒音・振動が課題でした。これらの欠点は、モーターの回転速度やトルクを正確に制御することが困難だったため、用途が限られていました。

SRMの概念は1969年にS.A.Nasarによって提唱されましたが、広く普及し始めたのは1980年代以降です。それ以前は、可変リラクタンスモータ (variable reluctance motor) と呼ばれていました。歴史を遡ると、1838年にはDavidsonがスコットランドで電気鉄道の実験にSRMの原型となるモーターを使用しています。さらに、1850年から1860年代には、フランスのP.G.Fromentが印刷機用のモータを製造していました。また、1851年にはPageがボルチモア・アンド・オハイオ鉄道で、SRMを改良した蓄電池駆動の機関車を製作し、時速30kmでの走行に成功しました。

これらの初期のSRMは、構造上、可変速運転には適しておらず、一定速度での運転用途に限定されていました。しかし、近年は電力制御用半導体素子の発展に伴い、高速なスイッチング周波数を実現できるようになり、より精度の高い速度制御が可能となりました。これにより、低速時のトルク変動や騒音・振動といった従来の課題も克服されつつあり、様々な用途への展開が進んでいます。

SRMの利点と欠点

利点:

高速回転に適している: 高速回転時の効率が高い点が特徴です。
低コスト: 希土類磁石などのレアメタルを使用しないため、安価に製造できます。珪素鋼板と銅線のみで構成されていることが低コスト化に貢献しています。
高出力化が可能: 設計によっては、高出力のモータを実現できます。

欠点:

低速時のトルク変動: 低速回転時にはトルクが変動しやすく、制御が難しい場合があります。
騒音・振動: 半径方向にも吸引力が働くため、騒音や振動が発生しやすくなっています。
脱調の可能性: 回転子の位置と同期しない場合、脱調（回転が止まる）する可能性があります。そのため、精密な制御が必要です。

SRMの用途

SRMは、その特性を活かして、様々な分野で利用されています。

家電製品: 洗濯機や掃除機などに使われています。
自動車: マイルドハイブリッド車のアシスト用電動機として使用される例があります。将来的には、EVやHEVの駆動用モーターとしての活用も期待されています。

まとめ

SRMは、レアメタルフリーで安価、高出力化が可能というメリットを持つ一方、低速時のトルク変動や騒音・振動といった課題がありました。しかし、近年のパワーエレクトロニクスとマイクロコンピュータ技術の進歩により、これらの課題が克服されつつあり、様々な分野での活用が期待されています。今後も、更なる制御技術の向上や材料開発によって、SRMの性能向上と普及拡大が進むものと予想されます。

もう一度検索