韋駄天

韋駄天：仏教を護る疾走の神

韋駄天は、仏教において重要な役割を担う天部（天界の神々）の一柱です。別名、韋陀天、韋天将軍とも呼ばれ、その名はヒンドゥー教の神、スカンダの音写に由来します。増長天の八将の中でも特に高い地位を占め、四天王以下の三十二将の筆頭とされています。

由来：ヒンドゥー教の神から仏教の守護神へ

韋駄天の起源は、ヒンドゥー教の神スカンダに遡ります。スカンダはシヴァ神の子とされ、仏教に取り入れられる過程で、仏法の守護神としての役割を担うようになりました。経典においては、『金光明最勝王経』や『金光明経』などに、塞建陀天、私建陀天、違駄天といった名称で記述が見られます。音写された名称が、時代を経る中で「韋駄天」へと変化していったと考えられています。道教の韋将軍信仰との習合も、その名称変化に影響を与えたとされています。

像容：甲冑をまとった若い武将

韋駄天は、一般的に唐風の甲冑を身に着け、剣を携えた若い武将の姿で描かれます。これは、道教の韋将軍信仰との習合の影響が強いと考えられています。しかしながら、スカンダの本来の姿は、六面十二臂の少年神で、孔雀に乗る姿が特徴的です。六面という特徴は、スカンダがシヴァ神の次男であり、六人の乳母に育てられたという伝承に由来するともいわれます。

俗信：足の速さと盗難除けの神

韋駄天は、その俊足ぶりから、足の速い人の例えとして「韋駄天走り」などと呼ばれるようになりました。この俗信は、捷疾鬼が仏舎利を奪って逃走した際、韋駄天がそれを追いかけて取り戻したという伝承に由来します。また、釈尊のために食物を集めたという伝承から、「御馳走」という言葉の語源になったという説もあります。盗難除けの神としても信仰されています。これらの俗信は、韋駄天の行動力と神通力を象徴するものです。

密教における韋駄天

密教においては、韋駄天は護世二十天の一尊として西方位に配され、重要な役割を担っています。曼荼羅においても、その姿を見ることができます。

韋駄天を祀る寺院

韋駄天は、多くの寺院で祀られています。特に禅宗寺院では、山門や本堂だけでなく、厨房や僧坊を守る護法神として、四天王や布袋尊とともに祀られることが多く見られます。小児の病気除けの神としても信仰されているため、地域によっては、家庭でも信仰されている場合があります。

真言

韋駄天の真言は、「オンイダテイタモコテイタソワカ」です。

まとめ

韋駄天は、ヒンドゥー教の神スカンダを起源とし、仏教に取り入れられて仏法の護法神となった神です。足の速さや、仏法守護、小児の病気除けといった様々な側面を持ち、現在も多くの寺院で信仰されています。その多様な信仰様式は、韋駄天が人々の生活に深く根付いていることを示しています。その起源や像容、俗信、真言などを理解することで、韋駄天という神をより深く理解することができるでしょう。

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