スシャント・シン・ラージプート

スシャント・シン・ラージプート

スシャント・シン・ラージプート（Sushant Singh Rajput, 1986年1月21日 - 2020年6月14日）は、インドを代表する俳優の一人です。テレビドラマでそのキャリアをスタートさせ、その後ボリウッド映画界へと進出し、数々の話題作に出演しました。しかし、2020年に34歳という若さでこの世を去り、インド国内外に大きな衝撃と悲しみをもたらしました。

生い立ちと初期

パトナに生を受けたスシャントは、クリシュナ・クマール・シンとウーシャ・シンの息子として育ちました。彼の先祖はビハール州プルニア県の出身でした。姉妹の一人であるミトゥー・シンは、クリケット選手として活躍しています。2002年に母親を亡くし、同年、家族と共にデリーへ移り住みました。スシャントはパトナの聖カレン高等学校、そしてニューデリーのクラチ・ハンスラージ・モデルスクールで教育を受けました。彼は学業面で非常に優秀で、2003年のデリー工科大学入学試験で7位の成績を収めたほか、国際物理オリンピックでの優勝経験も持ち、インド工科大学ダンバード校を含む11もの大学の工学部試験に合格するほどでした。デリー工科大学の工学クラスに進学したものの、在学中に演劇とダンスの世界に強く惹かれ、次第に学業よりもパフォーマーとしての活動に時間を費やすようになります。結局、4年制の課程を3年で修了し、大学を去ることを決断しました。

大学在学中から、彼はシアマク・ダヴァルのダンスクラスに参加していました。そこで出会った友人たちがバリー・ジョンの演劇クラスにも通っていることを知り、それが俳優のキャリアを志すきっかけとなります。演劇クラスに参加するようになったスシャントは、そこで「私は自由になる経験を見付けたのです。私は観客とコミュニケーションできることに気付き、これを永遠のものにしたいと望んだのです」と語るほどの情熱を見出しました。数ヶ月後には、ダヴァルのダンスチームのレギュラーメンバーに選ばれ、2005年の第51回フィルムフェア賞ではバックグラウンド・ダンサーとして参加。2006年のコモンウェルスゲームズでは、開会式の文化プログラムの一員としてオーストラリアを訪れる経験もしました。この頃にはすでに工学の道への興味を失っていたスシャントは、映画界での成功を夢見てムンバイへ移住。ナディラ・バッバルのエクジュテー劇場に2年半所属し、舞台俳優として経験を積みました。この時期にネスレ・ムンクのテレビコマーシャルに出演し、国内での認知度を高めることにも成功しました。

テレビ界での成功

2008年、バラージ・テレフィルムズのキャスティングチームが、エクジュテー劇場の舞台に立つスシャントの個性と演技力に注目しました。彼らはスシャントをテレビシリーズ『Kis Desh Mein Hai Meraa Dil』のオーディションに招き、プリート役に起用します。プリートは物語の比較的早い段階で命を落とすキャラクターでしたが、その人気を受けて最終話では「死後の精神」として再登場しました。そして2009年、彼は『Pavitra Rishta』で主役に抜擢され、家族を支える誠実なメカニック、マナーヴ・デーシュムク役を演じることになります。当初、ジー・テレビはこのキャスティングに難色を示していましたが、プロデューサーのエクター・カプールの強い推薦により実現しました。この作品での演技は批評家から高く評価され、スシャントは3つのテレビ賞を受賞。これにより俳優としての確固たる地位を確立し、ボリウッド映画界への足がかりを得ました。『Pavitra Rishta』での共演をきっかけに、女優アンキター・ローカンデーと交際しましたが、二人は2016年に破局を迎えています。

彼はダンサーとしての才能も持ち合わせており、2010年5月にはダンス・リアリティ番組『Zara Nachke Dikha』の第2シーズンに出場しました。さらに同年12月には『Jhalak Dikhhla Jaa』第4シーズンにも出場し、振付師シャムパ・ソンタリアとペアを組んでその実力を披露しました。特に『Zara Nachke Dikha』の母の日特別エピソードで披露したダンスは、2002年に亡くなった母親に捧げられ、大きな感動を呼びました。2011年10月、『Pavitra Rishta』での成功のさなか、彼は海外で映画製作を学ぶため、惜しまれつつも番組を降板。マナーヴ役は俳優ヒテン・テージワーニーに引き継がれました。

映画界での活躍

テレビでの成功を経て、スシャントは念願の映画界へと足を踏み入れます。2013年、アビシェーク・カプール監督の『Kai Po Che!』のオーディションに合格し、ラージクマール・ラーオ、アミット・サダーと共に主要キャストの一員となりました。チェタン・バーガットの小説を原作としたこの作品は、2013年2月に公開されるや否や、批評・興行の両面で大成功を収めました。クリケット選手イシャーン・バット役を演じたスシャントの演技は、特に高く評価されました。批評家ラジーヴ・マサンドは彼の演技について、「目を離せない彼の名は、イシャーン役でデビューしたスシャント・シン・ラージプートです。彼は言葉では言い表せない存在であり、その自信と歴然たる魅力からスターが誕生したことは明白となっています」と絶賛しました。

同年9月には、マニーシュ・シャルマー監督の『Shuddh Desi Romance』でヴァーニー・カプール、パリニーティ・チョープラーと共演。ボリウッド・ハンガマのタラン・アダルシュは「最初のヒンディー語映画で素晴らしい印象を残したスシャント・シン・ラージプート……彼の気取らない自然な演技は多くの新鮮さをもたらした」と述べ、Rediff.comのスカンニャー・ヴァルマーも「『Kai Po Che!』でダイナミックなデビューを遂げた後、ラージプートは豊富なエネルギーを駆使して、感情をそのまま口にする子供らしい無邪気さを伝えてきます」と彼の演技を称賛しました。2014年には、ラージクマール・ヒラーニ監督の大ヒット作『PK』に出演し、アーミル・カーンやアヌシュカ・シャルマと共演。この作品はインド映画の歴代興行収入上位に名を連ねる大成功を収めました。

2015年、ディバーカル・バナルジー監督のミステリー映画『Detective Byomkesh Bakshy!』で、1940年代のコルカタを舞台に活躍する主人公ビョームケーシュ・バクシー役を演じました。そして2016年には、インドの伝説的クリケット選手マヘンドラ・シン・ドーニの半生を描いたニーラジ・パーンデー監督の伝記映画『M.S.ドーニー 〜語られざる物語〜』で主人公ドーニを演じ、キャリアの頂点の一つを迎えました。この作品もまた興行的に大成功を収め、2016年のボリウッド映画年間興行成績で上位に入りました。ドーニ本人になりきったかのようなスシャントの演技は観客や批評家から絶賛され、自身初のフィルムフェア賞主演男優賞ノミネートという栄誉に輝きました。

その後も彼は精力的に活動を続け、2017年の『Raabta』、2018年の『Kedarnath』、2019年の『Sonchiriya』、『きっと、またあえる』、『DRIVE/ドライヴ』（Netflix配信）など、多様なジャンルの作品に出演しました。彼の遺作となったのは、ムケーシュ・チャブラ監督作『Dil Bechara』です。この作品は当初2020年5月に公開予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の影響で延期され、彼の死後の同年7月に配信されました。

突然の別れ

2020年6月14日、スシャント・シン・ラージプートはムンバイ・バンドラの自宅で亡くなっているのが発見されました。その死因は首を吊ったことによるものと確認されました。ムンバイ市警察の発表によると、彼の自宅からは遺書は見つからなかったということです。彼のあまりに突然の、そして悲劇的な死は、インドのエンターテインメント業界全体、そして多くのファンに深い衝撃と悲しみをもたらしました。ナレンドラ・モディ首相をはじめ、ラーフル・ガンディー、アクシャイ・クマール、プリヤンカー・チョープラーといった政界や映画界の著名人たちが、SNSなどを通じて追悼の意を表明しました。短くも輝かしいキャリアの中で、彼は多才な演技で観客を魅了し続けましたが、その突然の逝去は、多くの人々に惜しまれています。

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