スズメ上科

スズメ上科（スズメじょうか、学名 Passeroidea）は、鳥類の中で最も種数の多いグループであるスズメ目（Passeriformes）に含まれる主要な分類群の一つで、「上科」という階級に位置づけられています。

系統と分類

鳥類の系統分類学において、スズメ上科は近代的な分類研究、特に1998年に発表されたSibley et al.による大規模な分子系統研究で注目されました。彼らの提唱した分類体系では、スズメ目をいくつかの小目に分け、その中でも大きな一群であるスズメ小目をさらに三つの上科に区分しました。スズメ上科はその三つの上科の一つとして位置づけられたのです。Sibleyらの分類は画期的なものでしたが、その後も分子系統学の研究は進展し、より詳細な系統関係が明らかになっています。その結果、スズメ上科の範囲にはいくつかの変更が加えられつつも、現在でも多くの分類体系で広く受け入れられています。

具体的な修正点としては、例えば、かつてスズメ上科に含まれていたヒバリ科（Alaudidae）は、系統研究の結果を受けてウグイス上科（Sylvioidea）に移されました。逆に、かつてカラス上科（Corvoidea）に分類されていたコノハドリ科（Chloropseidae）やルリコノハドリ科（Irenidae）は、スズメ上科へと再配置されました。これらの科は、以前はヒメコノハドリ科などと共に広義のコノハドリ科として扱われていたことがあります。また、ウグイス上科の一部と考えられていたヤマブチツグミヒタキ（Arcanator）やハイムネジチメドリ（Kakamega）といった属は、オナガミツスイ属（Promerops）やノドボシツグミヒタキ（Modulatrix）などと共に、スズメ上科の比較的初期に分岐したグループとしてオナガミツスイ科（Promeropidae）にまとめられました。これらの系統関係の解明は、2007年のClick et al.や2008年のJohansson et al.の研究など、分子データに基づいた詳細な分析によって進められています。ただし、分類上の位置がまだ完全に確定していない科も存在します。

特徴的な系統：nine-primaried oscine

スズメ上科、あるいはそれに近縁なグループには、「nine-primaried oscine」または「nine-primaried passerine」と呼ばれる系統群が存在します。この名称は、彼らが持つ形態的な特徴に由来します。多くのスズメ目の鳥類が、翼の最も外側にある初列風切羽（primary）を10枚持つ原始的な形質を示すのに対し、このnine-primaried oscineのグループでは、通常9枚の初列風切羽を持ちます。ただし、初列風切羽が9枚であるという特徴は、この系統群だけに固有のものではなく、ツバメ科などスズメ目の他の系統にも見られるため、この形質だけで分類を行うことはできません。このnine-primaried oscineという系統群は、Sibley分類における「広義のアトリ科」と多くの部分で一致しており、歴史的な分類体系とも関連が深いグループです。

含まれる科

スズメ上科に含まれる科は非常に多様であり、その分類は国際鳥類学会議（IOC World Bird List）のような信頼性の高いリストに基づいています。便宜的に、系統上の位置や特徴によっていくつかのグループに分けて紹介されることがありますが、これらは必ずしも厳密な系統関係を示すものではないことに留意が必要です。

以下に、IOCリストに基づくスズメ上科に含まれる主要な科の一部を、便宜的なグループ分けと共に示します。

基底群:
オナガミツスイ科 Promeropidae （この科のスズメ上科内での位置、あるいはスズメ上科から独立した系統とする説も議論されています）
ルリコノハドリ科 Irenidae
コノハドリ科 Chloropseidae
ハナドリ科 Dicaeidae
タイヨウチョウ科 Nectariniidae
core Passeroidea の基底群:
スズメ科 Passeridae
ハタオリドリ科 Ploceidae
カエデチョウ科 Estrildidae
テンニンチョウ科 Viduidae （系統上の位置に不確実性が残るグループです）
オリーブアメリカムシクイ科 Peucedramidae
イワヒバリ科 Prunellidae
セキレイ科 Motacillidae
バライロマシコ科 Urocynchramidae （系統上の位置に不確実性が残るグループです）
nine-primaried oscine:
アトリ科 Fringillidae （ハワイミツスイ科 Drepanididaeを含む、多様な鳥類を含む大きな科です）
アメリカムシクイ科 Parulidae
位置不確定の分類群 (Family incertae sedis) - スズメ上科内に属する可能性が示唆されつつも、特定の科に位置づけることが難しいとされる分類群で、ズアカサザイ（Zeledonia coronata）、オオアメリカムシクイ（Icteria virens）、ハジロアメリカムシクイ（Xenoligea montana）といった種が含まれます。
ムクドリモドキ科 Icteridae
マミジロミツドリ科 Coerebidae （系統上の位置に不確実性が残ります）
ホオジロ科 Emberizidae
フウキンチョウ科 Thraupidae
ツメナガホオジロ科 Calcariidae
* ショウジョウコウカンチョウ科 Cardinalidae

スズメ上科は、多岐にわたる形態や生態を持つ鳥類を含んでおり、その多様性は鳥類全体の進化を理解する上で重要な研究対象となっています。分類体系は分子系統学の進展により常に更新されており、今後も新たな発見によって分類体系が見直される可能性があります。

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