スティルベー

ギリシャ神話における女性、スティルベー（古希: Στίλβη）は、その神話上の系譜において重要な位置を占める存在です。その名は長母音を省略してスティルベとも表記されることがあります。

彼女の出自は、テッサリアー地方を流れる主要な河川の神、ペーネイオスと、水のニュンペーであるクレウーサの間に生まれた娘であると伝えられています。ペーネイオスは、テッサリアー地方の広範な地域に恵みをもたらす存在として崇拝されていました。また、母クレウーサも自然界の精霊であるニュンペーの一柱であり、彼女の生まれが河神とニュンペーという自然の神々の子であることを示しています。スティルベーには、ヒュプセウスやダプネーといった兄弟がいたとされています。

スティルベーは、光明と芸術、予言を司るオリュンポス十二神の一柱、太陽神アポローンとの間に子をもうけたことで知られています。アポローンとの結合により生まれた子としては、ラピテース、ケンタウロス、そしてアイネウスの名前が挙げられます。

中でも、息子の一人であるラピテースは、後のギリシャ神話や歴史において重要な役割を果たす部族、ラピテース族の名の由来となった祖とされる人物です。ラピテース族は、特にテッサリアー地方に居住していたとされる戦闘的な部族であり、神話においてはケンタウロス族との有名な戦いが語られています。ラピテース自身もまた子孫を残しており、ポルバースとペリパースの父親であったと伝えられています。これらの系譜を通じて、スティルベーは後代の英雄や部族の起源に深く関わる存在となっているのです。

また、スティルベーがアポローンとの間に生んだとされるケンタウロスについても言及が必要です。ケンタウロスは、通常、上半身が人間で下半身が馬の姿をした、野性的でしばしば粗暴な存在として描かれます。スティルベーがケンタウロス族の祖先と直接関連付けられるかは伝承によりますが、彼女がその名のケンタウロスを生んだとされることは、神話上の異形の存在との関連を示唆しています。

ただし、スティルベーの系譜や子については、伝承によって異なる記述も見られます。例えば、ある異説では、スティルベーは息子であるラピテースとの間に、トリオパースという子をもうけたとも語られています。これは、母が息子との間に子をなすという、一般的な神話上の系譜とは異なる特殊な関係性を示す可能性があり、神話伝承の多様性を示す一例と言えるでしょう。

スティルベーは、彼女自身の物語が詳細に語られることは少ないものの、河神とニュンペーの娘であり、太陽神アポローンの相手となり、そしてラピテース族をはじめとする重要な存在の母となったことから、古代ギリシャの神話における系譜学において無視できない存在として位置づけられています。彼女の物語は、自然の神々と主要なオリュンポスの神との結びつき、そしてその間に生まれた子孫が神話世界の形成にどのように関わっていったのかを示す好例と言えます。

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