ラピテース

ラピテース

古代ギリシア神話において、「ラピテース」または「ラピトス」（長母音を省略して「ラピテス」とも表記）という名前を持つ人物は複数存在します。中でも最もよく知られ、重要な位置を占めるのは、テッサリアー地方に居住した半神的な部族であるラピテース族の名前の由来となったとされる人物です。

このラピテース族の祖は、神々の王ゼウスの息子である太陽神アポローンと、テッサリアーの主要な河川であるペーネイオスの河神の娘スティルベーの子として生まれました。彼は伝説的なケンタウロスたちと兄弟であり、また一説にはアイネウスという兄弟もいたと伝えられています。ラピテースは、エウリュノモスの娘オルシノメーを妻とし、ポルバースとペリパースという二人の息子をもうけました。さらに、別の伝承では、彼が母であるスティルベーとの間にトリオパースという息子をもうけたとも言われています。

ラピテースは、自身の名前の由来となったラピテース族を率い、テッサリアー地方を流れるペーネイオス川の流域を支配しました。彼の死後、その勢力と支配権は息子たち、ポルバースとペリパースによって受け継がれました。しかし、息子たちの運命は分かれました。ポルバースは後にペーネイオス川流域を離れ、エーリス地方へと移住したとされます。エーリス地方で、彼はアウゲイアースやアクトールといった人物の父親になったとする説も存在します。古代ギリシアの地理学者パウサニアースもその著書『ギリシア記』の中で、ポルバースがラピテースの子であることを記録しています。

一方、もう一人の息子であるペリパースは、アンティオーンという息子を持ちました。そして、このアンティオーンから、後にテッサリアーの王となり、その傲慢さから神々の怒りを買ったとされるイクシーオーンが生まれました。悲劇詩人アイスキュロスは、現存しない彼の悲劇『イクシーオーン』の中で、アンティオーンがイクシーオーンの父親であったことに言及していたといわれています。ラピテースの系譜は、このようにテッサリアーだけでなく、エーリスなど他の地方の英雄伝説とも繋がっており、彼の存在が広範な神話的系譜の起点となっていることが分かります。

ラピテースという名前を持つ人物は、このラピテース族の祖以外にも複数確認されています。そのうちの一人は、ヒッポテースの子アイオロスの息子であり、エーゲ海のレスボス島の名の由来となったとされるレスボス島の父とされています。また別のラピテースは、スパルタ王アミュクラースの妻であり、英雄ヒュアキントスやキュノルタースの母であるディオメーデーの父親として伝えられています。さらに、ラコーニア地方、特にスパルタ周辺に関係する人物として、タユゲトン山中にあるラピタイオンという地名の由来となったラピテースもいました。これらの同名人物は、それぞれ異なる系譜や伝承に登場し、テッサリアーのラピテース族の祖とは区別されるべき存在です。

これらの記述は、主に古代の歴史家や詩人、神話集に基づいています。例えば、アポロドーロスやディオドロスといった著述家たちの作品、悲劇詩人アイスキュロスの断片、そして地理学者パウサニアースの記録などが、ラピテースに関する神話的情報の源泉となっています。ラピテースという名前は、一つの重要な部族の祖から、各地の地名や人物の系譜にまで広がる、ギリシア神話における多様な繋がりを示す名前と言えるでしょう。

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