スティーブンス砦の戦い

スティーブンス砦の戦い：首都ワシントンを守った激戦

1864年7月11日と12日、南北戦争のさなか、アメリカ合衆国首都ワシントンD.C.北西部のスティーブンス砦において、激しい戦闘が勃発しました。南軍のジュバル・アーリー中将率いる部隊と、北軍の防衛軍との間で繰り広げられたこの戦いは、首都防衛の成否を大きく左右する重要な局面となりました。

戦いの背景：アーリーのワシントン侵攻

南軍のアーリーは、リー将軍の命令の下、シェナンドー渓谷から北上し、メリーランド州に侵攻、ボルチモア・アンド・オハイオ鉄道を破壊し、できればワシントンD.C.を脅かすという大胆な作戦を実行しました。この作戦の目的は、北軍のグラント中将をワシントン防衛に兵力を割かせ、バージニア州のリッチモンド包囲軍の圧力を軽減することでした。

アーリーは、6月に行われたリンチバーグの戦いで北軍を撃破し、勢いを得てメリーランド州に侵入します。7月7日にはフレデリックに到達し、ワシントン進軍の準備を整えます。しかし、北軍の抵抗にあい、モノカシーの戦いで小競り合いが発生。アーリー軍は勝利しますが、その進軍は遅れました。7月11日正午頃、アーリー軍はスティーブンス砦付近に到着します。

北軍の対応と混乱：将軍たちの混在

アーリーの侵攻はグラントを動かし、ホレイショ・ライト少将率いる北軍増援部隊がワシントンへ急行します。しかし、ワシントンの防衛軍は、様々な事情により指揮系統が混乱していました。多くの将軍が、過去に戦闘で失敗した経験を持つなど、様々な理由から野戦指揮から外れており、彼らの存在はかえって混乱を招いていました。アレクサンダー・マクック将軍、クリストファー・コロンバス・オーガー将軍、そしてヘンリー・ハレック参謀長など、複数の将軍が首都防衛に関与し、指揮系統の統一に苦労しました。

最終的に、マクックが総指揮を執り、ギルモア、メグズ、ハーディンといった将軍たちがそれぞれ担当区域の防衛を指揮することとなりました。ライト率いる第6軍団は予備隊とされましたが、すぐに前線に投入されることになります。

激化する戦闘：大統領リンカーンも戦場へ

7月11日午後、南軍はスティーブンス砦への攻撃を開始します。疲労困憊の兵士、前線での北軍の強さ、そして兵士たちの飲酒など、様々な理由から、南軍の攻撃は当初遅れていました。北軍は増援部隊の到着により防衛体制を強化します。激しい砲撃と白兵戦が夜まで続き、大統領エイブラハム・リンカーンとその妻メアリーも戦場を訪れ、間近で戦闘を目撃します。この際、大統領の傍らにいた軍医が負傷する出来事がありました。

興味深いことに、南軍の指揮官の一人としてジョン・ブレッキンリッジが参加していました。彼はかつてリンカーンと大統領選挙で争った人物であり、この戦いはアメリカ史において、大統領選挙で対決した人物が前線を挟んで対峙し、現職大統領が戦火の下にあるという、極めて異例な状況となったのです。

戦いの終結とその後：アーリーの撤退

戦闘は7月12日まで続きましたが、アーリーはワシントンを占領するには大きな犠牲を払う必要があり、成功の見込みが少ないと判断しました。そのため、南軍は撤退し、バージニア州へと退却します。アーリーは「ワシントンは取れなかったが、エイブ・リンカーンに地獄を見させた」と述べたという逸話が残っています。北軍は追撃を開始し、この戦闘は首都ワシントンを守り抜いた北軍の勝利に終わりました。

スティーブンス砦：現在

スティーブンス砦は現在、アメリカ合衆国国立公園局によって保存されており、歴史的史跡として一般公開されています。この戦いは、ワシントンの首都防衛における重要な出来事であり、南北戦争の歴史を語る上で欠かせない戦闘の一つです。また、大統領リンカーンが自ら戦場を訪れたという事実は、この戦闘をさらに重要な出来事として位置づけています。

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