スティーリー・ダン

スティーリー・ダン：音楽的探求と卓越した技巧の融合

スティーリー・ダンは、ドナルド・フェイゲンとウォルター・ベッカーという二人の才能が結集し、1970年代から音楽シーンに独自の足跡を刻んだアメリカのロックバンドです。その音楽性は、ロックを基盤としながらも、ラテン、R&B、ソウル、ジャズといった多様なジャンルの要素を巧みに取り入れた、非常に複雑で洗練されたものです。特に、ジャズ的なコード進行や意表を突くアレンジは、他の追随を許さない彼ら独自のサウンドを形成しています。

音楽的特徴

スティーリー・ダンの音楽は、単にテクニカルなだけではありません。彼らは、1950年代や60年代のジャズやR&Bが持っていたフィーリングを大切にし、それを現代的なサウンドに昇華させることに成功しました。また、ドナルド・フェイゲンの書く歌詞は、ボブ・ディランの影響を受けつつも、奇妙で難解、そして文学的な深みを持つものとして、多くの音楽ファンを魅了してきました。高度なアンサンブルを構築するために、著名なスタジオミュージシャンを起用し、楽曲の完成度を極限まで高める姿勢は、多くのミュージシャンに影響を与えています。

バンドの歴史

結成から活動休止まで（1972年 - 1981年）

ドナルド・フェイゲンとウォルター・ベッカーは、ニューヨークのバード・カレッジ在学中に知り合い、共に作曲活動を開始しました。しかし、卒業後（ベッカーは中退）は作曲家として恵まれず、バックミュージシャンとして活動する日々を送っていました。その後、ABCレコードのプロデューサー、ゲイリー・カッツに才能を見出され、ロサンゼルスに移住。旧知のミュージシャンを招集し、スティーリー・ダンを結成しました。バンド名は、ウィリアム・S・バロウズの小説『裸のランチ』に登場する男性器の張型「Steely Dan III from Yokohama」に由来しています。デビュー当初のメンバーは、ドナルド・フェイゲン（ボーカル、キーボード）、ウォルター・ベッカー（ベース）、デニー・ダイアス（ギター）、ジェフ・バクスター（ギター）、ジム・ホッダー（ドラム、ボーカル）、デイヴィッド・パーマー（ボーカル）でした。

1972年にデビューアルバム『キャント・バイ・ア・スリル』を発表。そこからシングルカットされた「ドゥ・イット・アゲイン」が全米6位を記録する大ヒットとなりました。しかし、ライブ活動を嫌っていたフェイゲンとベッカーは、次第に他のメンバーとの間に軋轢を生み、理想のサウンドを追求するために、外部のスタジオミュージシャンを積極的に起用するようになりました。その結果、バンドとしての結束は失われ、1974年にはジェフ・バクスターとジム・ホッダーが脱退。ライブ活動も停止しました。

その後は、スタジオレコーディングに専念し、多くの腕利きミュージシャンを起用しながら作品を制作。1977年に発表したアルバム『彩（エイジャ）』は、全米3位を記録する大ヒットとなり、スティーリー・ダンの代表作の一つとなりました。しかし、1980年に7枚目のアルバム『ガウチョ』を発表した後、スティーリー・ダンは活動を休止します。その背景には、制作時のプレッシャーやメンバー間の不協和音がありました。

ソロ活動と再結成（1982年 - 2003年）

活動休止後、ドナルド・フェイゲンは1982年にソロアルバム『ナイトフライ』を発表。スティーリー・ダン時代からのサウンドをさらに進化させ、高い評価を獲得しました。一方、ウォルター・ベッカーは麻薬中毒から脱するためにハワイに移住。その後、プロデューサーとして音楽業界に復帰しました。

1993年には、フェイゲンのソロアルバム『カマキリアド』をベッカーがプロデュースしたことをきっかけに、スティーリー・ダンとしての活動を再開。ライブツアーを行い、翌年には初来日も果たしました。2000年には、20年ぶりとなるスタジオアルバム『トゥー・アゲインスト・ネイチャー』を発表し、グラミー賞で最優秀アルバム賞を含む4部門を受賞。2001年には、「ロックの殿堂」入りを果たしました。2003年には、アルバム『エヴリシング・マスト・ゴー』を発表し、同年にアルバム『彩（エイジャ）』がグラミーの殿堂入りを果たしています。

ベッカーの死去とその後（2017年 - 現在）

2017年9月3日、ウォルター・ベッカーが急逝。享年67歳でした。死因は進行性の食道癌でした。フェイゲンは追悼声明で、ベッカーとの長年の友情と音楽的なパートナーシップを振り返り、スティーリー・ダンとしての活動を継続する意向を示しました。ベッカーの死後も、フェイゲンはスティーリー・ダンとしての活動を続け、過去のアルバムを再現するツアーなどを行っています。

メンバー

ドナルド・フェイゲン (Donald Fagen)：ボーカル、キーボード (1972年–1981年、1993年– )
ウォルター・ベッカー (Walter Becker)：ギター、ボーカル (1972年–1981年、1993年–2017年) ※2017年死去

旧メンバー

ジェフ・バクスター (Jeff "Skunk" Baxter)：ギター (1972年–1974年)
デニー・ダイアス (Denny Dias)：ギター (1972年–1974年)
ジム・ホダー (Jim Hodder)：ドラムス、ボーカル (1972年–1974年) ※1990年死去
デヴィッド・パーマー (David Palmer)：ボーカル (1972年–1973年)
ロイス・ジョーンズ (Royce Jones)：ボーカル (1973年、1974年)
マイケル・マクドナルド (Michael McDonald)：キーボード (1974年)
ジェフ・ポーカロ (Jeff Porcaro)：ドラムス (1974年) ※1992年死去

ディスコグラフィ

スティーリー・ダンは、10枚のスタジオアルバムと複数のライブアルバム、コンピレーションアルバムを発表しています。以下に、主な作品を記載します。

スタジオアルバム

『キャント・バイ・ア・スリル』 - Can't Buy A Thrill (1972年)
『エクスタシー』 - Countdown To Ecstasy (1973年)
『プレッツェル・ロジック』 - Pretzel Logic (1974年)
『うそつきケイティ』 - Katy Lied (1975年)
『幻想の摩天楼』 - The Royal Scam (1976年)
『彩（エイジャ）』 - Aja (1977年)
『ガウチョ』 - Gaucho (1980年)
『トゥー・アゲインスト・ネイチャー』 - Two Against Nature (2000年)
『エヴリシング・マスト・ゴー』 - Everything Must Go (2003年)

ライブアルバム

『アライヴ・イン・アメリカ』 - Alive in America (1995年)
『ノースイースト・コリドー：スティーリー・ダン・ライヴ！』(2021年)

コンピレーションアルバム

『グレイテスト・ヒッツ』 - Greatest Hits (1978年)
『スティーリー・ダン』 - Steely Dan (1978年) ※日本のみベスト盤
『ゴールド』 - Gold (1982年)
『ザ・ベスト・オブ・スティーリー・ダン』 - A Decade of Steely Dan (1985年)
* 『ザ・ベリー・ベスト・オブ・スティーリー・ダン』 - The Very Best of Steely Dan: Reelin' In the Years (1985年)


スティーリー・ダンは、その音楽的な探求心と卓越した演奏技術、そして独特の世界観で、多くの音楽ファンを魅了し続けています。彼らの作品は、時代を超えて愛されるべき音楽遺産と言えるでしょう。

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