ストリート・レディ

アメリカ合衆国の著名なジャズ・トランペット奏者、ドナルド・バードによって1973年に録音され発表されたスタジオ・アルバムが『ストリート・レディ』です。この作品は、前年にリリースされ大きな成功を収めた『ブラック・バード』に続くものであり、ラリー・マイゼルがプロデュースとアレンジを担当し、彼の兄弟であるフォンス・マイゼルと共に、バードの音楽性を新たな方向へと導いた重要な一枚として位置づけられています。

音楽性と制作背景

『ストリート・レディ』は、『ブラック・バード』で確立されたジャズ、ファンク、R&Bといった異なるジャンルを融合させるクロスオーバー路線をさらに推し進めた作品です。マイゼル兄弟を中心とするプロデュースチームは、当時のブラックミュージックシーンの潮流を捉え、ホーンセクション、ワウペダルを使ったギター、グルーヴ感溢れるベースライン、そしてエレピやシンセサイザーといったエレクトリック楽器を積極的に導入しました。これにより、従来のジャズの枠を超えた、洗練されていながらもダンサブルなサウンドが構築されています。バード自身もトランペットやフリューゲルホルンに加え、ボーカルも披露しており、その音楽的な探求心が伺えます。

参加ミュージシャン

このアルバムには、ドナルド・バード（トランペット、フリューゲルホルン、ボーカル）を中心に、マイゼル兄弟（フォンス・マイゼル：トランペット、クラビネット、ボーカル / ラリー・マイゼル：ボーカル、アレンジ）が重要な役割を担っています。また、前作『ブラック・バード』の制作にも参加した実力派ミュージシャンが多数引き続き起用されています。具体的には、フルート奏者のロジャー・グレン、シンセサイザーとボーカルのフレディー・ペレン、ギタリストのデイヴィッド・T・ウォーカー、エレクトリックベースのチャック・レイニー、そしてドラマーのハーヴィー・メイソンといった面々です。彼らに加え、ジェリー・ピーターズ（ピアノ、エレクトリックピアノ）、ステファニー・スプルイル（パーカッション）、キング・エリソン（コンガ）も参加し、アルバムの豊かなサウンドを支えています。

収録曲

収録曲は以下の6曲で構成されています。特記されている「ウーマン・オブ・ザ・ワールド」を除き、全ての楽曲はラリー・マイゼルが作曲しています。

ランサナズ・プリーステス - "Lansana's Priestess"
ミス・ケーン - "Miss Kane"
シスター・ラヴ - "Sister Love"
ストリート・レディ - "Street Lady"
ウィッチ・ハント - "Witch Hunt"
ウーマン・オブ・ザ・ワールド - "Woman of the World" (Larry Mizell, Edward Gordon)

これらの楽曲は、それぞれがユニークな個性を持ちながらも、アルバム全体として一貫したファンキーかつソウルフルな雰囲気を醸し出しています。

商業的な成功と評価

『ストリート・レディ』は商業的にも大きな成功を収めました。アメリカの総合アルバム・チャートであるBillboard 200では、ドナルド・バードのキャリアにおいて最も高い順位となる33位を記録しました。さらに、『ビルボード』誌のジャズ・アルバム・チャートでは2位、R&Bアルバム・チャートでも6位をマークしており、ジャズファンだけでなく、幅広いブラックミュージックのリスナーからの支持を得たことがわかります。

批評家の間では、その音楽性に対して様々な視点からの評価が寄せられました。例えば、オールミュージックのStephen Thomas Erlewineは、5点満点中3点と評価し、この作品にはカーティス・メイフィールド、アイザック・ヘイズ、スライ・ストーンといった当時のファンクやソウルの巨匠たちの影響が色濃く反映されていると指摘しています。彼は、伝統的なジャズの純粋性を重んじるリスナーには必ずしも向かないかもしれないが、俗っぽい音楽を好む層や、ファンクの熱狂的なファンにとっては最適なアルバムであると述べており、本作が持つクロスオーバー的な側面を明確に示しています。

総括

『ストリート・レディ』は、ドナルド・バードが1970年代に追求した、ジャズと他のブラックミュージックの要素を融合させる試みの中でも特に成功した作品の一つです。商業的な成功と、当時の音楽シーンのトレンドを反映したサウンドは、彼のキャリアにおける転換点を示しています。一部の伝統的なジャズファンからは異論もあったかもしれませんが、その先進性とグルーヴ感あふれる音楽は、後のフュージョンやレアグルーヴといったジャンルにも影響を与えた、時代を象徴する作品として今日でも多くの音楽ファンに親しまれています。

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