スピーシーズ2

1998年に公開されたアメリカ製のSFホラー映画『スピーシーズ2』は、メトロ・ゴールドウィン・メイヤー（MGM）配給で成功を収めた前作『スピーシーズ 種の起源』のフランチャイズ第2弾です。物語は、前作で過酷なエイリアンとの遭遇を生き延びた元傭兵のプロフェッショナル、プレスと、異星生命体を研究する科学者ローラが、新たなエイリアンの脅威に再び直面する姿を描きます。前作で強烈な印象を残したエイリアン「シル」を演じたナターシャ・ヘンストリッジも、シルのクローン体として続投しています。

本作は1998年4月10日にアメリカで封切られましたが、その評価は厳しいものでした。多くの映画評論家から否定的なレビューを受け、興行成績も北米で1,920万ドル、全世界合計で3,000万ドルに満たない結果となり、商業的には失敗と見なされています。しかし、その後もフランチャイズは継続され、テレビ映画として『スピーシーズ3 禁断の種』が製作されており、ヘンストリッジも特別出演しています。

ストーリー

物語は、女性飛行士アン、黒人飛行士デニス、そして元フットボール選手で上院議員の息子であるパトリックの3名が参加した有人火星探査ミッションから始まります。地表での掘削作業を終えたパトリックが火星の土壌サンプルを母船に持ち帰ったことから事態は急変します。サンプルから漏れ出した未知の物質によって、乗組員は異星生命体のDNAに感染。その自覚がないまま、彼らは地球への帰還を果たします。

その頃、地球では軍の研究施設内で、前作に登場した異星人と地球人のハイブリッド生命体「シル」の細胞から生み出されたクローン体「イヴ」が、対エイリアン兵器として育成されていました。イヴは人間への従順性を保つため、エイリアンのDNAは休眠状態に置かれ、生殖本能を刺激しないよう、女性スタッフのみの環境に厳重に隔離されています。

地球帰還後、宇宙飛行士には10日間の性行為禁止が課せられていましたが、性衝動に駆られたパトリックは間もなく複数の女性と関係を持ってしまいます。彼の精液を受けた女性は短時間で妊娠し、急速に膨張した子宮が破裂して異形の新生児が出現。パトリックは生まれた子供たちを実家の小屋に連れて行きます。一方、帰還した飛行士たちの健康診断を行ったオリンスキー博士は、パトリックの血液から異常なDNAを発見しますが、エイリアンに変異しつつあるパトリックによって殺害されてしまいます。博士の遺体からイヴに酷似した細胞を持つ異星生物が地球に入り込んだことが判明。軍はイヴを追跡に利用することを決定し、イヴの監察医であるローラ博士と、彼女と旧知のトラブルシューターであるプレスは、不本意ながらも再びエイリアンとの戦いに巻き込まれます。

プレスとローラは、火星探査に反対していたクロムウェル博士から情報を得て、飛行士たちの行方を追います。異星のDNAに感染していることを知らないアンは、夫ハリーとの性行為を開始しようとしていました。追跡チームが到着する直前、禁欲期間を経て性欲が高まっていたアンはハリーと関係を持ち、彼の精液を受けます。数分後、アンの子宮は膨張し始め、腹部が破裂して現れたエイリアンの子供がハリーを殺害。現場に駆けつけたプレスはエイリアンを駆除しますが、アンもまた命を落とします。飛行士の中で唯一デニスだけが感染していないことが判明し、彼はプレスの捜査チームに加わります。パトリックは、自らと関係を持った婚約者が子宮破裂により死亡している現場を目撃し絶望。ショットガンで自殺を図りますが、破壊された頭部は即座に再生し、エイリアンの意識に覚醒します。その後、パトリックは街の女性たちとの関係を持ち続け、感染を広げていきます。

放射線照射によって休眠中のエイリアンDNAが活性化されたイヴは、テレパシーで同族であるパトリックを探知し、彼と精神的に同調します。この同調はパトリックにもイヴの存在を知らせました。一度プレスに捕獲されたパトリックは、研究所でイヴと接触。その場から逃走しますが、同族の雄であるパトリックに強く惹きつけられたイヴも研究所を脱走し、彼を求めて暴走します。デニスが感染しなかったのは、彼が鎌状赤血球症のキャリアであったためと判明。エイリアンが遺伝子の純粋性を保つため、特定の疾患を持つ人間を避ける性質があることが明らかになります。ローラはデニスの血液成分を利用した対エイリアン兵器の開発を進めます。

パトリックが人間に産ませた子供は既に10数人に達しており、成体となるべく小屋の中で次々と蛹化していました。小屋に到着したローラとデニスは、開発した薬品を散布して蛹を処分します。その頃、パトリックのもとに辿りついたイヴは全裸となり、異形の怪物へと変貌した彼とついに交尾を開始します。2体が交わっている現場に到着したプレスがイヴに離れるよう呼びかけますが、パトリックと肉体的に結合した彼女は反応を示しません。交尾を終えたパトリックは四足歩行の獣型エイリアンに変身し、プレスとデニスを攻撃します。助けを求めるローラの声に反応し、人間らしさを取り戻したイヴはパトリックを突き刺し、激しい抗戦の末に致命傷を負います。デニスの血液が付着した武器で深手を負ったパトリックは、異種遺伝子の侵入により肉体が崩壊し始め、プレスたちは辛くも勝利を収めます。

事件後、救急搬送車に運び込まれたイヴの身体。そこには、驚くべきことにパトリックの子が一人生き残っていました。さらに、パトリックとの交尾時に受精していたイヴはまだ絶命しておらず、彼女の下腹部は急速に膨張し始めるという、新たな脅威の兆候を見せながら物語は幕を閉じます。

製作と評価

MGMが『スピーシーズ』の続編企画に前向きであることを知った脚本家のクリス・ブランカトーは、「大きな使命を成し遂げた英雄が、恐ろしい物を内に秘めて帰ってくる」というスパイ小説『影なき狙撃者』から着想を得て、火星探査からの帰還者がエイリアンのDNAに感染するという物語を考案しました。NASAの科学者に火星有人探査の可能性を尋ねるなどリサーチも行われています。前作の主人公であるプレス役のマイケル・マドセンとローラ博士役のマーグ・ヘルゲンバーガーは、観客を惹きつけるために必須と考えられ再登場が決定。一方、多忙なフォレスト・ウィテカーに代わり、新たなアフリカ系アメリカ人のキャラクターとしてデニスが創造されました。監督にはホラー映画『チェンジリング』を手掛けたピーター・メダックが起用されています。脚本を読んだナターシャ・ヘンストリッジは内容とメダック監督との仕事に魅力を感じ、続編出演を承諾しました。

前作の「スピーシーズ」デザインを担当したH・R・ギーガーは、敬愛するピーター・メダックが監督を務めると聞き、快く続編のデザインにも参加。パトリックのエイリアン形態として、二足歩行の交尾形態と四足歩行の攻撃形態を新たにデザインしました。特に四足歩行のクリーチャーは、『エイリアン3』でギーガーが考案したものの没となったデザインを発展させたものです。デザイン画には、交尾形態のエイリアンに巨大な性器が詳細に描かれており、その過激な描写が話題となりました。

興行面では成功しなかった本作ですが、その評価は分かれています。レビュー集積サイトRotten Tomatoesでは批評家からの支持率は僅か9%と低迷。「前作の低いハードルさえ超えられていない」と酷評されました。ジェームズ・ベラーディネリはマドセンやヘルゲンバーガーの出演を「ギャラ稼ぎ」と揶揄しつつも、「血と裸とセックスが豊富で退屈しない」とB級映画としての側面を指摘しました。一方で、映画ライターのドリュー・ディーチュは本作の過激さや下品さを「マスターレベル」と絶賛し、「メジャースタジオがこれほど卑猥で狂った映画を出すことは二度とないだろう」と擁護しました。他の肯定派のレビューでも、「最もバカバカしいが魅力がある」「ロジャー・コーマンやデヴィッド・クローネンバーグ作品のような最高のビデオ店向けキャンプ映画」といった評価が見られ、ジャンル映画としての過剰な表現を楽しむ層からは支持を得ています。特に「映画史上最も恥ずかしいエイリアンの子作りシーン」にもランキングされるほど、その性的な描写は特筆されています。

なお、前作と同様に、女性作家イヴォンヌ・ナヴァロによって本作のノベライズも執筆されています。脚本を基にしつつ、登場人物の背景などが補足されていますが、著者は自身の公式サイトで、出版時に不本意な編集が加えられたと述べています。

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