スマイリー小原

ジャズミュージシャン、スマイリー小原（本名：栗原照夫、1921年1月2日 - 1984年4月30日）は、戦後日本のポピュラー音楽シーンにおいて、バンドリーダーおよび指揮者として一時代を築いた人物です。

神奈川県中郡秦野町（現在の秦野市）に生まれ、横浜市中区山手で育ちました。父は印刷業組合長などを務めた横浜の有力者、栗原佐輔。父方の祖先は、木曽義仲の忠臣として知られる樋口兼光に遡るとされる曽屋の旧家出身です。父の佐輔は1881年に生まれ、26歳で横浜に移り住み、松影町で印刷業を始めました。少年時代からスポーツに秀で、寿尋常小学校を卒業後、旧制本牧中学校へ進学。野球部では一塁手として活躍し、当時コーチだった苅田久徳の指導のもと、後にプロ野球で名を馳せる若林忠志や劉瀬章といった面々とも共に汗を流しました。

1941年には、映画俳優を目指し「国家試験」（映画検定試験とされる）に合格し、大船撮影所で大坂志郎と同期になりました。翌1942年には明治大学経済学部を繰り上げて卒業後、召集を受け中国戦線へと送られます。終戦時にはソ連軍の捕虜となり、シベリアのラーゲリに抑留される過酷な経験をしました。しかし、その収容所内でも、音楽への情熱を失わず楽劇団を組織し、音楽活動を行っていたといいます。

1947年に日本へ戻ると、自身のバンドを結成し、進駐軍のキャンプなどを巡って演奏活動を開始しました。特に「ブルー・ノート・セブン」というバンドでは、およそ11年間にわたり米軍相手に演奏を続けました。この頃、日本人としてではなく、「スマイリー・オハラ」というアイルランド人として活動していました。「スマイリー」は彼の常に笑顔を絶やさない陽気な人柄に由来し、「オハラ」は本名の栗原が当時のアメリカ人にとって馴染みの薄い姓だったため、より親しみやすい響きの姓を選んだとされています。

1958年、渡辺プロダクションに所属し、「スマイリー小原とスカイライナーズ」を結成しました。バンドリーダーおよび指揮者として、テレビ番組「ザ・ヒットパレード」や「シャボン玉ホリデー」、「クイズ・ドレミファドン！」（初期）などにレギュラー出演。日本人離れした明るいキャラクターと、ダンスを交えながら指揮をする前向きなスタイルが人気を集めました。バンドは「ドドンパ」や「ツイスト」といった当時流行の兆しを見せていたリズムを日本の音楽シーンに紹介し、流行させる一助ともなりました。

1982年にスカイライナーズは解散。その後は、故郷に近い横浜で喫茶店やクラブの経営に携わりました。1984年4月30日、63歳でその生涯を閉じました。後輩のバンドマスターであるダン池田の回想によると、葬儀には芸能関係者の参列がほとんどなく、比較的寂しいものだったと語られています。

音楽活動としては、シングル「マナマナ」（1969年）や、没後にリリースされたベストアルバムとして「スマイリー小原」（1989年）などが知られています。また、俳優としても活動し、テレビドラマではNHK銀河ドラマ「乱戦模様」（1970年）やフジテレビ「丹下左膳 剣風!百万両の壺」（1982年）に、映画では東宝「私と私」（1962年、ザ・ピーナッツの「ふりむかないで」指揮者役）、大映「ど根性物語 銭の踊り」（1964年）などに出演しています。

スマイリー小原は、戦争という困難な時代を乗り越え、持ち前の明るさと音楽への情熱で日本の音楽界に貢献しました。特にテレビ全盛期における個性的な指揮ぶりは、多くの人々の記憶に残っています。

もう一度検索